コミック書評:『ネヴァーエンド パースペクティブ』(1000夜連続44夜目)

sue1000

『ネヴァーエンド パースペクティブ』

――追うもの、追われるもの、終わりない記憶の先にあるもの


大学生・白石悠真(しらいしゆうま)は、ある晩に起きた事故で頭を強く打ち、前後の記憶を一部失う。その喪失と引き換えに彼が得たのは「超記憶(ハイパーサイメシア)」と呼ばれる奇妙な力だった。ただしそれは、百科事典的な知識を丸ごと覚えるような万能能力ではない。悠真が覚えてしまうのは――「見た人間の顔」。どんな雑踏の中でも、どんなに仮装や化粧で雰囲気を変えても、一度視界に入った人間を彼は決して忘れない。


やがて彼は気づく。日常のあらゆる場面に【同じ10人】が繰り返し現れていることに。駅の雑踏、大学の廊下、観光地の人混み。しかも微妙に装いを変え、まるで「気づかれないこと」そのものを前提にした存在のように。普通の人間なら同一人物だと気づかない。だが悠真の超記憶はそれを許さない。彼は見抜いてしまう。


勇気を振り絞り、そのうちの一人――痩せたの中年男に声をかけた瞬間、男は倒れ、その場で死んでしまう。予想外の展開に動揺する悠真は、警察に連行され、取調室で異様な言葉を聞かされる。

「君の力を貸してほしい。これは“見当たり捜査”だ」


ここで物語は大きく舵を切る。捜査一課の若き女性刑事・藤崎玲奈が登場し、悠真を半ば強引に“捜査協力者”として組み込む。見当たり捜査とは、指名手配犯や重要参考人を群衆の中から発見する特殊任務。訓練を積んだ捜査員でも難しい技術だが、悠真の超記憶はその最高の資質を備えていた。


第1巻では、見当たり捜査の実地訓練と初捜査のエピソードが描かれる。新宿の繁華街で、藤崎と悠真が監視カメラと目視を駆使してターゲットを探すシークエンスは圧巻だ。人波の中に浮かび上がる顔。その瞬間、読者もまた「世界の深淵」ような感覚に陥る。

そして残りの“9人”もじわじわと世界に侵入してくる。彼らは確かにいるのに、誰も気づかない。悠真だけが、その存在に気づいてしまう。

この作品の醍醐味は、この追う⇔追われるの「円環構造」にある(おそらくタイトルの「ネヴァーエンド パースペクティブ」=終わらない視点というのは、この円環を指していると思われる)。悠真が人を追えば追うほど、彼自身が追われているのではないかという恐怖に侵されていくのだ。


だが、彼が追うべき(追われている?)「10人」は、ただの偶然なのか? それとも悠真自身を取り囲む巨大な網の一部なのか。

※一連の出来事の核心に、悠真の事故(の前後の失った記憶)が関係していることも匂わされる。


絵柄は冷たいタッチを基調にして、群衆一人ひとりの顔を緻密に書いたかと思えば、無機質な壁のようにも描写もされており、主人公を閉じ込めていくような圧迫感のある演出が、読者を不安の沼に沈める。


第1巻の最後のコマで、悠真が大学の廊下の鏡に映る自分の顔の背後に――“もうひとりの自分”が立っているカットが描かれるが、そもそも何が真実なのだろうか?


本作はホラーとサスペンスを融合させた、新世代的な心理劇だ。見当たり捜査というリアルな制度を題材にしながら、同時に「他者の視線」という根源的な恐怖を鏡像的に掘り下げていく。


第2巻以降、残る9人の正体と、事故の裏に潜む謎がどのように暴かれていくのか――期待せずにはいられない。










というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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