3話 おりじん……?
「おりじん……?」
そう聞き返す凜花に、一は語る。
「ああ。プリズマディメンション理論についてはどこかで聞いたことはあると思うが――改めて最初からかいつまんで伝えよう。」
「そもそもこの理論が確立される前、仮説の段階で学者たちはどうやって各々の見ている景色が違うかもしれないという答えにたどり着いたのか、という話からだ。学者は神がかりや超能力、魔法とされていた不可思議な現象がなぜ起こっているのかに疑問を持ち、実例を集めて検証した。その結果、力を行使したものの意思に従って周囲の現象が書き換わるという現象が観測される。ここから学者たちは汎・
「S.T.A.R.S.デバイス……ですね。」
「正解だ。そしてここからが本題、オリジンについて聞くのは初めてか?」
「はい、初めて聞きました」
「そうか。さっきの話につなげるのがわかりやすいだろう。実は先程の学者たちの実験の際、他の改変者とは一線を画す強力な次元改変を行ったものが少数見つかったんだ。そのときはわかっていない要素が多かったから調べている余裕がなかったそうだが、プリズマディメンション理論が確立された後、再度該当者を集めて以前観測された次元間干渉力とは違う側面から測定を行った結果見つかったのが後の呼称で、”オリジン”――という起源を持つ者たちだ。」
ひと呼吸置いて。
「ついてこられているだろうか?」
そう配慮してくれる
「大丈夫です!えっと。オリジンを持っていた人たちは何が違ったんですか?」
「ああ。結論から言うと彼らの見ていた
「書いている文字じゃなくって道具の方を見たら普通のペンじゃなくって筆とか赤いペンとか、チョークなんかを持っていた――って感じでしょうか?」
「その見解で問題ない。例え話が通じてありがたいよ。それで続きだが、強力な次元改変者の主観次元は、情報量、広さ、強度などの項目のいずれかまたは複数に著しく高い数値が記録されたんだ。そして後の調査でさらに、彼らには得意とする改変のタイプがあるとわかり、その得意とする分野をたとえば”なにかに要素を足すことの得意な――修飾”、”情報の書き換えが得意な――書き換え”これは一例でもっと具体的な起源が見つかったものもいるが割愛するぞ。起源を持つものの起源、さっきの例えで言うところのペンだ――それらをそれぞれ解析して名付け、分類した。そしてそれらを総称して”オリジン”と呼ぶようになったんだ。」
一拍置いてふと気づいたように一は続ける。
「おっと、改めて自己紹介もしなければいけないな。ついでにわかりやすい事例を紹介しよう。俺、いや失礼、私は氷室一、イグルーの代表をさせてもらっている。第2回目のオリジン適性検査の通過者で、分類された起源名は”書き換え――
「ずっと”代表”とか”私のオリジン”とか言ってたのを聞き流してましたけど…………すごい人と話してますね、私。もっと段階とか踏んでも良かったんじゃぁ……」
「君は私を助けてくれるかもしれない希少な人材だからな。俺のほうが待ちきれなかったんだ。少し無理をして、君へ会いに来たのも俺の意思だ。」
「無理をしてまでそんな、――っていうことはやっぱりその体、なにかあるんですよね?」
腕と足がないというのはたとえそれが片方ずつであろうと恐ろしいことだ。
「これは俺の実際の体をモチーフにできている。実際の俺は左腕、右腕、左目の視力、ほかにも色々な臓器を、生まれたときから持っていなかった。いまでも生命維持装置に繋がれてベッドの上に転がっているよ」
「そんな……」
どう声をかけていいかわからずなんとも言えない胸の痛みとともに、いくつかの疑問が立て続けに浮かぶ。
「あの、”実際の俺”ってことはやっぱり今ここにいる体はいったい何なんですか?」
凛花の目には目の前の得体が知れず生気が感じられない人の形をした何かが一を名乗ってきわめて不気味に映っている。
「それにわたし、医療についてほとんど知らなくって、とてもいまの話を聞いてもお役に立てると思えないんですが……」
「それについても順に説明しなければな。まずこのボディだが。――マテリアルボディ、アンロード。」
瞬きもしないうちにその変化は現れた。
彼を形作っていた実体、肉が消え失せ、彼は半透明の映像になった。この映像の感じは知っている。これは――
「S.T.A.R.S.のARホログラム……ですよね?じゃあ今までいたのは?」
「俺のオリジンでホログラムに肉体の情報を書き足したんだ。だからこんなこともできる。」
彼のホログラムが横にひとつ、またひとつ増え、それぞれが実態を持った人の肉体を得る。すぐに分身はもとに戻った。
「と、いう具合でな。俺の本体は動けないから眠っているが、意識を分割したり色々するのには慣れている。」
「そんなことスクリプトじゃできないですよね……これがオリジンなんだ、すごいなぁ、としか言葉が出ないです。それで、私はどうやってお役に立てるんでしょう?大した特技はないですよ?間違い探しとかが好きなくらいで……」
「聞いていなかったか?君のオリジンとその元になっている主観次元の特性には、俺や多くの人々を救う力があるかもしれない、という話しだ。」
「おりじん」
「ああ。オリジンだ。」
「わたしに?」
「そうだ」
衝撃や痛みは実感が遅れるらしい。彼女はことさら反応速度には自信があるがそれでもだ。
…………風船が割れるように。大きな驚きの声が上がる。
「え、ええ――――っ!?」
「お前……もしかしなくてもけっこう聞き流してたな?」
軽く睨みつけるような視線を一は凜花に送る。すぐ呆れたように目を閉じて言う。
「まあいい。君に参加してもらいたいプロジェクトがあって、そのためにいくつか検査と、説明することがある。聞いてもらえるか」
「えっと、痛いとか苦しいとかなくって、日が沈んでからで、わたしのできる範囲で……なら?」
「十分だ。感謝する、ありがとう。対価としてもちろん報酬は出すし、俺と俺の会社のできる範囲できみに便宜を図ろう。何か望みはあるか?」
「うーん。急に言われてもそんな大層な願いとか夢なんてないですし……」
しばしうなる。さらに背を丸めて考え込む。少し考えて思いついた、それは。
ずっと叶わないと諦めて心の隅でホコリをかぶっていたかすかな夢だった。
セピア色のサングラスを外す。
光の奔流が目を濁流のように押し潰すような感覚に襲われ、カメラのフラッシュのような鋭い刺激が目を刺してくる。頭の芯がずきずきと痛む。必死にこらえながら一をまっすぐ見る真っ赤な眼差しは真剣そのものだった。
「わたし、アルビノで。太陽の光とかがダメで。これ、治せますか!?」
それを聞いた一はやわらかく笑みを浮かべて。
「簡単なことだ。それも君自身の力でどうにかできるだろう、方法は教える。わかったからメガネを掛けていいぞ、つらいだろう?」
ゆっくりと眼鏡を掛けながら驚きが口をついて舌の根を再び潤す。
「ほんとに治せるんですか!?夢みたい……」
「大丈夫だ。安心して信用してくれていい。それにしても。あー、なんというかだな。いや、はっきり言うべきだな。君はとてもきれいな眼をしていると思う。眠っていた秘蔵の宝石のようで俺は好きだが、君はその髪の色や瞳を嫌だと思うか?」
「いえ、むかしは嫌で呪いのように感じていましたけど、今は宝物だって思ってます。」
「その双方の解釈はどちらも正しいものだと俺は思う。その見た目も含めて、君のこれからへの祝福にするため力を尽くそう。」
中身のない人形のようなかりそめの姿が最初は怖かったが、その口から紡がれる声は冬の朝の空気のように澄み切っていて誠実な、クリアな色彩として凜花には視えていた。この人を信頼してついていっていいという信頼感が凜花の心に響いた。
「やります。教えて下さい。あなたと、わたしのためにすることを」
プリズマ・スクリプト ー七橋凜花の色彩理論と次元改変概論ー おおにもつ @motsu7329
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