世界が敵になっても、君の隣で息をした

赤塚シャルル

幼馴染eスポーツ恋愛

第一章 幼馴染という距離


柏木一吾と白石みなみの関係を、一言で説明するのは難しい。

恋人ではない。だが、他人でもない。


二人が出会ったのは、物心つく前だった。

同じマンション、同じ階。朝、玄関を出れば必ず顔を合わせ、夜になれば互いの家の明かりを確認する。それが日常だった。


「一吾、またゲーム?」


小学生の頃から、みなみはそう言っては呆れたように笑った。


「将来どうするの?」


「世界一になる」


ふざけているようで、一吾は本気だった。


みなみはそんな一吾を横目で見て、少し考えてから言った。


「じゃあ私は、有名人になる」


「なんで?」


「一吾が世界一になるなら、その隣に立つ人も、すごい人じゃないと釣り合わないでしょ」


その言葉を、一吾はずっと覚えていた。


第二章 別々の舞台へ


高校三年の春。

一吾はプロゲーマーとして正式契約を結び、世界大会の日本代表候補になっていた。


毎日、十数時間の練習。

勝つことだけを考える生活。


一方のみなみは、YouTubeに日常動画を投稿し始めていた。


「おはようございます!今日は学校行く前に撮ってます!」


最初は再生数も少なく、ただの自己満足だった。

だが、彼女の自然な笑顔と飾らない言葉は、少しずつ人を惹きつけていった。


登録者数は伸び、やがて十万人を超えた。


「すごいじゃん」


一吾がそう言うと、みなみは照れくさそうに笑った。


「一吾の方がすごいよ」


二人は、違う世界に立ちながらも、同じ方向を見ていると思っていた。


第三章 何気ない一日が壊れるまで


その動画は、本当に何気ないものだった。


「今日は幼馴染とカフェに来てます」


画面の端に映ったのは、帽子を被り、伏し目がちな一吾の横顔。


数時間後、SNSが騒ぎ始めた。


《この男、柏木一吾じゃね?》

《プロゲーマーとYouTuberの熱愛?》


切り取られ、拡散され、憶測が事実のように語られる。


みなみのDMは、急激に色を変えた。


――裏切り者

――一吾を利用するな

――消えろ


「……怖い」


深夜、震える声でみなみは一吾に電話をかけた。


「私、何か悪いことした?」


「してない」


即答だった。


「でも、俺の世界は、弱さを許さない」


その言葉が、二人の間に小さな溝を作った。


第四章 炎上という現実


世界大会が近づくにつれ、状況は悪化した。


スポンサー、チーム、ファン。

すべてが一吾を「商品」として見ていた。


「私が距離を置けばいい?」


みなみがそう言った夜、一吾は何も言えなかった。


守りたいのに、守れない。

一緒にいたいのに、それがリスクになる。


その矛盾が、一吾の集中力を削っていった。


第五章 許されない瞬間


世界大会当日。

ステージの光が、やけに眩しかった。


ヘッドセット越しに聞こえる歓声。

だが、頭の中は静まり返っていた。


《また炎上したらどうする》

《みなみは大丈夫か》


その一瞬の迷いが、致命的な判断ミスを生んだ。


「……嘘だろ」


モニターに映る敗北の文字。


実況は言葉を詰まらせ、SNSは爆発した。


――戦犯

――失格

――引退しろ


一吾は、ステージを降りる途中で、初めて足が震えた。


第六章 終わった夢


数日後、引退発表。


短い文章だった。


「これ以上、戦えないと判断しました」


会見も、言い訳もない。


みなみは隣で、ただ黙っていた。


「私のせいだよね」


「違う」


だが、その声は弱かった。


一吾は、空っぽになった。


第七章 裏方として生きる


それからの一吾は、みなみのYouTube撮影を手伝うようになった。


三脚を立て、照明を調整し、編集を覚える。


「一吾、これカットした方がいい?」


「いや、その間がいい」


勝負の世界で培った感覚は、裏方でも生きていた。


みなみの動画は変わっていく。

派手さよりも、言葉の重さを持つようになった。


「炎上しても、私はやめない」


そう宣言した動画は、再び賛否を呼んだ。


第八章 支えるという選択


批判は続いた。

だが、それ以上に、応援の声が増えていった。


「一吾がいるから安心する」


みなみがそう言った夜、一吾は初めて救われた気がした。


表舞台に立てなくても、

誰かの隣に立つことはできる。


それは敗北ではなかった。


第九章 百万という数字


一年後。


「……見て」


登録者数100万人。


みなみは泣きながら笑った。


「一吾がいなかったら、無理だった」


一吾は、ただ頷いた。


もう、逃げないと決めていた。


最終章 それでも愛を選ぶ


夜の公園。

幼い頃と同じ場所。


「俺、もう戻れない」


「うん」


「それでも、一緒にいたい」


みなみは、迷わなかった。


「最初から、そのつもりだよ」


二人は手を繋いだ。


世界が敵になっても。

炎上しても。

夢が形を変えても。


それでも、隣で生きる。


それが、柏木一吾と白石みなみの物語だった。第一章 幼馴染という距離


柏木一吾と白石みなみの関係を、一言で説明するのは難しい。

恋人ではない。だが、他人でもない。


二人が出会ったのは、物心つく前だった。

同じマンション、同じ階。朝、玄関を出れば必ず顔を合わせ、夜になれば互いの家の明かりを確認する。それが日常だった。


「一吾、またゲーム?」


小学生の頃から、みなみはそう言っては呆れたように笑った。


「将来どうするの?」


「世界一になる」


ふざけているようで、一吾は本気だった。


みなみはそんな一吾を横目で見て、少し考えてから言った。


「じゃあ私は、有名人になる」


「なんで?」


「一吾が世界一になるなら、その隣に立つ人も、すごい人じゃないと釣り合わないでしょ」


その言葉を、一吾はずっと覚えていた。


第二章 別々の舞台へ


高校三年の春。

一吾はプロゲーマーとして正式契約を結び、世界大会の日本代表候補になっていた。


毎日、十数時間の練習。

勝つことだけを考える生活。


一方のみなみは、YouTubeに日常動画を投稿し始めていた。


「おはようございます!今日は学校行く前に撮ってます!」


最初は再生数も少なく、ただの自己満足だった。

だが、彼女の自然な笑顔と飾らない言葉は、少しずつ人を惹きつけていった。


登録者数は伸び、やがて十万人を超えた。


「すごいじゃん」


一吾がそう言うと、みなみは照れくさそうに笑った。


「一吾の方がすごいよ」


二人は、違う世界に立ちながらも、同じ方向を見ていると思っていた。


第三章 何気ない一日が壊れるまで


その動画は、本当に何気ないものだった。


「今日は幼馴染とカフェに来てます」


画面の端に映ったのは、帽子を被り、伏し目がちな一吾の横顔。


数時間後、SNSが騒ぎ始めた。


《この男、柏木一吾じゃね?》

《プロゲーマーとYouTuberの熱愛?》


切り取られ、拡散され、憶測が事実のように語られる。


みなみのDMは、急激に色を変えた。


――裏切り者

――一吾を利用するな

――消えろ


「……怖い」


深夜、震える声でみなみは一吾に電話をかけた。


「私、何か悪いことした?」


「してない」


即答だった。


「でも、俺の世界は、弱さを許さない」


その言葉が、二人の間に小さな溝を作った。


第四章 炎上という現実


世界大会が近づくにつれ、状況は悪化した。


スポンサー、チーム、ファン。

すべてが一吾を「商品」として見ていた。


「私が距離を置けばいい?」


みなみがそう言った夜、一吾は何も言えなかった。


守りたいのに、守れない。

一緒にいたいのに、それがリスクになる。


その矛盾が、一吾の集中力を削っていった。


第五章 許されない瞬間


世界大会当日。

ステージの光が、やけに眩しかった。


ヘッドセット越しに聞こえる歓声。

だが、頭の中は静まり返っていた。


《また炎上したらどうする》

《みなみは大丈夫か》


その一瞬の迷いが、致命的な判断ミスを生んだ。


「……嘘だろ」


モニターに映る敗北の文字。


実況は言葉を詰まらせ、SNSは爆発した。


――戦犯

――失格

――引退しろ


一吾は、ステージを降りる途中で、初めて足が震えた。


第六章 終わった夢


数日後、引退発表。


短い文章だった。


「これ以上、戦えないと判断しました」


会見も、言い訳もない。


みなみは隣で、ただ黙っていた。


「私のせいだよね」


「違う」


だが、その声は弱かった。


一吾は、空っぽになった。


第七章 裏方として生きる


それからの一吾は、みなみのYouTube撮影を手伝うようになった。


三脚を立て、照明を調整し、編集を覚える。


「一吾、これカットした方がいい?」


「いや、その間がいい」


勝負の世界で培った感覚は、裏方でも生きていた。


みなみの動画は変わっていく。

派手さよりも、言葉の重さを持つようになった。


「炎上しても、私はやめない」


そう宣言した動画は、再び賛否を呼んだ。


第八章 支えるという選択


批判は続いた。

だが、それ以上に、応援の声が増えていった。


「一吾がいるから安心する」


みなみがそう言った夜、一吾は初めて救われた気がした。


表舞台に立てなくても、

誰かの隣に立つことはできる。


それは敗北ではなかった。


第九章 百万という数字


一年後。


「……見て」


登録者数100万人。


みなみは泣きながら笑った。


「一吾がいなかったら、無理だった」


一吾は、ただ頷いた。


もう、逃げないと決めていた。


最終章 それでも愛を選ぶ


夜の公園。

幼い頃と同じ場所。


「俺、もう戻れない」


「うん」


「それでも、一緒にいたい」


みなみは、迷わなかった。


「最初から、そのつもりだよ」


二人は手を繋いだ。


世界が敵になっても。

炎上しても。

夢が形を変えても。


それでも、隣で生きる。


それが、柏木一吾と白石みなみの物語だった。

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