夜ヲ覗ケバ ー第二夜ー

@hinagiku7ruri

第1話

切江ヒサキの原点


学校の帰りに、たまたまユキさんと顔を合わせた。


挨拶もそこそこに、昨日やっていた心霊番組の話題をこちらから振る。

私から振らずとも、この人の最初の話題は間違いなく心霊番組だっただろう。


私は番組に出ていた心霊写真の感想をユキさんから聞きたくて、普段の通学路から少し離れた公園へと足を進めた。


ここに寄れば解散するまでの時間を10分ほど遅らせることができる。

私の意図に気づいているのか、ユキさんも何も言わない。


噴水のある広めの公園の中を歩いていると、

前方から鳩が首を揺すって近づいてくるのが見えた。


——こいつは使える。


私が首から下げた一眼レフに手をかけた途端、鳩がこちらに向かって飛び立った。


鳩がユキさんの側を横切った瞬間を狙い、

一眼レフのシャッターを切る。


『こういう瞬間』を逃さないために、

ファインダーを覗かなくとも狙った構図が撮れるよう、日頃訓練している。


さて、成果は……。


一眼レフの画面には、

飛翔する鳩の姿がしっかりと収まっていた。


私が狙っていたのは、

ユキさんと羽ばたく鳩がすれ違う構図。


しかし、画面にはユキさんの姿はどこにもない。


おそらく『今回も』

私がシャッターを切る瞬間にカメラの視界から逃れたんだろう。


どんな反応速度だよ……。


当の本人は後ろから一眼レフの画面を覗き込み、一言。


「ここ、霊が写ってる」


私は『またやらかした……』と思いながら、ため息を漏らした。


肝心のユキさんは撮れないのに、

この人に寄ってくる霊は撮れてしまう。


まだまだ修行が足りないようだ。


こうして私が撮影技術を磨く理由は、

実に下らない。


この人……鏑木ユキを、

上手く写真に撮りたいからだ。


私の二つ上の先輩であり、

霊感を使いこなすコツや『怪異』から逃げるコツを教えてくれた恩人。


そして……

私を霊やオカルト世界の沼へと誘った、元凶でもある。


ユキさんは類稀なる霊感の持ち主だ。


すでに誰よりも霊やオカルト、『怪異』の存在が身近であるのに、

さらに自分からそこへ首を突っ込んでいく変人だった。


ここで、ユキさんの変人エピソードを一つ紹介しておく。


あの人には、霊的な曰く付き品を収集する趣味があった。

といっても、現在所持しているのは基本的に『曰く付きだった物』である。


何故なら、ユキさんは曰く付き品を入手すると、たちまち曰くを解消してしまうからだ。


霊が憑いていれば未練を解〈ほど〉き、

『呪詛』がかかっていれば、やはり紐のように解いてしまう。


やっていることは似ているが、

前者は霊と対話しながら。

後者の『呪詛』には、割と容赦がない。


曰くを解消した品々は、

改めて供養した後、然るべき方法で葬っているらしい。


ただし、心霊写真だけは供養後も手元に置いている。


撮影場所や時期などの情報とともにファイリングされ、一枚一枚に情報を添える几帳面さには正直引いている。


だが、写真一枚から詳細な情報を調べてみせる手腕には、素直に感心していた。


……話を戻そう。


どうして私は、

ユキさんを上手く撮りたかったのか。


ある時、ファイル数冊分の心霊写真を眺めながら、ふと思った。


ユキさんの写真を撮れば、

どんな風に写るのか。


人間のものとは思えないほど強大な霊感を持つこの人を撮れば、

引き寄せられた霊が写り込んで、

とんでもない心霊写真になるのではないか。


けれども、どんなにひっそり撮ろうとしても、必ず先読みされる。

今みたいに、別の被写体狙いを装っても無駄だ。


撮れるのはいつも、

ユキさん以外の被写体と、その辺の浮遊霊が同居した写真ばかり。


どうせ心霊写真を撮るのなら、

この人が驚くほど凄まじいやつを撮りたい。


私が撮影技術を磨く理由は、それだけだ。


プロのカメラマンになりたいわけでも、

息が漏れるほど綺麗な写真を撮りたいわけでもない。


「……で、この霊どうすんの?」


一眼レフの画面に映り込んだ霊は、

ぼかし加工でもかけられたかのように輪郭が朧げだった。


霊の『写り方』は、

そいつ自身の状態をも示している。


画面の霊は、

もう『自己』の輪郭さえ朧げなのだろう。


「話を聞いてみるよ」


ユキさんは怖がるでもなく、

面白がるでもなく、当然のように答えた。


この人にとっては、

道に迷った人に声をかけるのと同じ感覚なんだろう。


また、面倒なことにならなきゃいいが……。


そんなことを思いながら、

私はユキさんの後に続いた。

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