ただの村人Bの話

成瀬利人

ただの村人Bの話

 地面に転がっていたのは、寂れた剣と、存外小さいポーチひとつだけだった。




 勇者が、死んだらしい。


 らしい、というのは、俺に、別に勇者との面識はないからで…否、そう呼ばれていたガキのことは、知らないと言ったら噓になるが。でも、それが「勇者」なんて呼ばれるようになってから、俺の知っているそのガキとは違ったし、少なくともそれは、俺のことを、赤の、そして面識すらない他人のように扱った。だから俺も、ガキに話しかけられて、適当にあしらった気がする。


 少なくとも、あの時この世界に勇者なんていなかった。

 ただ、友達の子供が生まれると、そう言われて…友達に気遣ったわけではなく、多分、野次馬根性で、それを見に行ったのだ。


 しわくちゃのサルみたいな生物だった。友達の妻は死んだ。


 それから、魔物が増え始めて、友達は子供を守って死んだ。


 とくに友達と親しくもない村の爺さんが子供を引き取った。それから何があったかは知らないが、子供は勇者と呼ばれるようになった。


 勇者が、死んだらしい。


 じゃあそいつはどこに行ったんだ、と聞いたら、自称勇者の親友は、女神さまのもとに帰ったのだと、そう言った。


 ばかばかしい。


 その剣とポーチを回収して、既に魔物の巣窟に埋まった、友達の墓に放り込んでもいいかと、自称勇者の親友に問うた。


 剣は、王宮に寄贈されるらしい。


 心底呆れて、ポーチだけをかっさらった。


 泥棒、勇者さまのものを盗む気か、だと。


 品のいいポーチに巻きつけられた、ガラス玉のペンダントが、友達が妻に送ったものだったと思い出して、どうしようもない虚無感に駆られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただの村人Bの話 成瀬利人 @rihito_naruse

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画