残る後味、優しさを添えて。

Dr.アクゥ

第1話

店内のBGMが、会話より前に出てきた気がした。誰が次に話し始めるか分からないまま、全員がメニューへ目を落としていた。


「あ、えと、私ルイボスティーにしようかな。―キッカは好きな物とかあるの?」

勇気を出した投げかけに二人は少しホッとしたようにメニューから顔を上げてアインの方を向いた。

「そうだね。ええと、アメリカーノ頼もうかな。サニィは?」

キッカはとっくにメニューを見飽きていたので、無意識に少し悩むふりをしつつ、実際はもうメニューには目を落とさなかった。

「お、2人の美味しそう、迷うなぁ。―オレンジジュースにしよ」

サニィも一応目を通すふりをしてメニューを閉じ、2人へのフォローの余裕も見せた。

「え、美味しそう、2人の聞いて迷ってきた」

「え、変える?私の来たら少しあげるよ。サニィも分けてあげなよ」

「あ、うん…!」

もう一度メニューをめくり出すアインに対してサラッと気遣いを見せるキッカへ、サニィは少しドキッとした。

微妙に顔を出しかけた潔癖症を我慢したのだ。

「え、ほんと?なんかごめん、ありがとう」

アインはアインで、二人は本心とは別に気を使って言ってくれてるだけではなかろうかと、内心気が引けていた。



「―お待たせしました。こちらドリンクです。ルイボスティーの方とフード、もう少々お待ちください」



「あ、はーい」


「え、ルイボスティーそんなかかるのかな。いいけど。―飲みな、アメリカーノ」

「いいの?ありがとう…」

アインにとって最悪のパターンだった。

しかも、よりによって今日初対面のキッカからのお恵み。

お恵みと言うべきか、気まずい。

「んー。美味しいね、このコーヒー」

正直よく分からなかった。まず、アメリカーノってなんだ、クソ苦いじゃん。と思いつつ、なんとかぎこちない笑顔で打ち消したつもりのアインだった。

そのあと、恐らくアメリカーノの後の反動で見つめてしまっていた方向の主と目が合う。

「―いる?」

「あ、ありがとう」

アインはしまったと思いつつ、アメリカーノよりは迷いなくオレンジジュースを受け取った。



「お待たせしました、ルイボスティーとチーズケーキ、チョコブラウニーになりますね」


「ありがとうございます」


「―え、アイン、チーズケーキだっけ」

「え、うん。……美味しそう!食べよ、2人とも」

サニィ、ごめん、でもありがとう。

本当はニンジンと生姜のケーキだけど。

そんなアインの気持ちとは裏腹に、キッカの反応は早く、声は驚くほど通った。


「―すみません、チーズケーキじゃなかったと思うんですけど」


サニィの確信まで至ってない声量を幸いとばかりに、アインは自分の声量と気持ちで押し切ろうとしたつもりが、キッカの声量に負け店員は既に駆けつけていた。


「失礼しました。ニンジンと生姜のケーキですね、もう少々お待ちください……」


アインはややこしいメニューを頼んだ自分を恨み、2人の優しさは、さすがに恨めなかった。

「―食べる?」

アインは、サニィの更なる優しさに、もっと申し訳なくなる。



「―またお待ちしております」





「美味しかったね、あれ意外と、ニンジンのケーキ。良かったでしょ、取り替えてもらって」

「え、そうよね。独特だったけど、私好きかも」

二人の気遣いが最後まで痛い。

「ごめんねキッカ、ありがとう。おかげでほんと美味しかった」

「でしょ?」

「ね、2人ともどう?今日初対面だったわけだけど―」

「―また遊ぼ、この3人で。キッカありがとうね。サニィも、紹介してくれて」

アインは、サニィのナイスパスに少し食い気味になりつつ、2人への感謝をまくし立てた。

「うん、またぜひ。サニィありがとね。」

「いいよぉ2人とも。良かった、2人とも仲良くなれて―」



『楽しかったね、じゃまたねみんな』





それぞれが別の方向の帰り道に向くなか、アインの口にはコーヒーの苦さが少し、ぶり返した気がした―

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残る後味、優しさを添えて。 Dr.アクゥ @dr-knoche_722

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