ずっと4人で

青鷺

ずっと4人で

 水筒の氷どころか水筒ごと溶けてしまいそうな真夏の昼前。

「皆さんへの宿題を私からも出したいと思います、それは、2学期の初めにここにいる皆さんが元気で学校に来ることです!」

 古から使われてきた、テンプレートの言葉をまるで自分が思いついたかのように言い放つ校長はとても滑稽に見えた。

 今日から夏休み。多分今年もほとんどの時間を家で過ごすことになるのだろう。そんなことを考えていると校長の話は終わり各クラス順番に各々の教室に戻っていく。

 かなり体育館の中が空いてきたあたりでやっと順番が回ってきた。クラス全員が後ろを向き歩きだす。体育館の外は涼しい…わけはなく、陽の光が直に当たるせいで体育館と同じくらい蒸し暑い。それでもなんとか歩みを進めていると後ろから勢いよく肩を捕まれた。振り向いた先にいたのは同じクラスの奏多だった。

「やっと夏休みや!死ぬほど遊ぶで!」

「いや、家でゆっくりするよ?」

「いやいや、無理よ、絶対外出さすから。」

 奏多の父親は奏多が物心つく前かおらず、母親は仕事で忙しいため、こいつはいつも家で1人のことが多い。だからとても寂しがりやで、常に誰かといたいのだ。

 教室に戻るとクラスメイトは「やっと夏休みだ!」と歓喜の声をあげて騒いでいた。自分の席に着き、鞄から水筒を取り出し水を飲む。氷がすっかり溶けて生ぬるい。

 俺の椅子の後ろで奏多は夏休みの遊び計画表を頭の中で思い浮かべてほくそ笑んでいる。

「稔!空!」

 奏多は自慢の雄叫びで2人を集め、いつものメンバーが揃ったかと思うと提案を始め出した。

「とりあえず、今日もマスコンやるよな?」

 マスコンは最近俺らの中で流行っている対戦ゲームで、大体週2回くらいのペースで夜電話しながらやっている。正直最近あのゲームに飽きてきている。今日は適当な言い訳作ってパスしたい。

「もちろんやるよ?」

 少なくとも稔はまだあのゲームに飽きていないみたいだ。

「稔はなんでそんな乗り気なん?」

「だって、この4人でいるとめっちゃ楽しいから…。」

「「あっつ…。」」

 空と奏多がと口を揃えて言う。

「じゃあ決まりな、今日の21:00にマスコン!」


 ピロン!風呂から上がり、片手を腰をにあてて牛乳を勢いよく掻き込んでいると、スマホの通知がなった。スマホを手に取りLINEを開くと、奏多が4人のグループLINEで通話を初めていた。駆け足で自分の部屋に戻り、通話に参加する。

「来たか、悠里。」

「もう全員おるん?」

「いや、まだ稔が来てない。」

 いつもだったら奏多の次に通話に参加している稔がまだいないのは珍しい。

「あいつが奏多の次にやりたがっとったのに。」

「まあ、そのうち来るって。先やっとこ。」

 そう言って、しばらく3人でゲームを続けたがその日は結局、稔が通話に参加することはなかった。


 次の日の朝、4人のグループLINEに1件の通知があった。稔からだった。

「昨日は通話入れなくてごめん。ちょっと急な用事ができて返信もできなくて、本当にごめん。」

 そんな気にすることじゃないのに。そう思いながら返信する。

「そんな謝る必要ないで、今度は入ってこいよ。」

 そう送るとすぐに3つの既読がついた。

「そんな気にすんな!」

「逆に大丈夫だった?」

 奏多と空も稔のことを心配していた。

「全然大丈夫よ!今度は絶対入るから!」

 奏多がgood!と書いてあるスタンプで返信する。会話が終わったと思いスマホの電源を閉じてベッドに置こうとしたとき、またLINEの通知がなった。

「突然だけど、肝試しでも行かない?」

 稔からだった。突拍子もない文に手の動きが止まる。

「おー!!!行ったことない!」

 奏多は興味津々のようだったが、俺はそういった類いの物に興味がない、というか信じてない。だからそんなに行きたくない。

「最近流行ってる都市伝説で、”死の世界”って知ってる?」

「なにそれ?聞いたことない。」

 空がそう返信すると、その言葉を待ってましたと言わんばかりの文量でメッセージが送られてくる。

「深夜の2:00〜2:30に緑公園にある公衆トイレ、そこの女子トイレの2番目の扉を開けるとそこは死の世界への入り口になっているんだ。」

 緑公園?!家のすぐそこにある公園だった。

「おもしろそ!」

「ていうか、そもそも死の世界ってなに?」

「死の世界ってのは、そのままの意味で、死んだ人が行く世界のこと。」

「それって大丈夫なんか?戻れなくなるとかないよな?」

「まあ細かいことはいいから、早速今日の、じゃなくて日付跨ぐから明日の深夜1:30に緑公園集合ね!」

「了解!」

「ちょっと怖いけど、了解!」

 いきなり決められた予定に慌てて返信する。

「いや、ちょっと決めるの早すぎるて、本当に行くん?」

 なんでこの2人がそんなに乗り気になれるのか分からない。絶対そんな世界なんてあるわけないのに。ていうか、死の世界って。そんな陳腐な名前、誰がつけたんだ。

「悠里、もしかして怖いのか?笑」

 奏多の挑発的な返信に反抗するように指をスマホの上で走らせる。

「いや、怖いとかじゃなくて絶対そんな世界ないから。行っても意味ないっていうか。」

「いいじゃん、どうせ暇なんだし。」

 空まで挑発的になってきた。これ以上言っても仕方ないと思った。

「分かりました。行きます。」

「はい!決定!絶対遅れるなよ!」

 スマホの電源を切り、ベッドに放り投げる。そんな世界絶対無いって、これで行って無かったら何してもらおうか。そんなことを考えていると微かに一階の方から生姜焼きの油っぽい食欲の唆る匂いが漂ってきた。ベッドから降りてスリッパを履く。階段を降りていると、母さんの鼻歌が聞こえてきた。俺がキッチンについても、息子の存在に気づかずにまだ鼻歌を歌っている。

「ふ〜んふふふ〜ん。」

 息子が今日から夏休みで、もう朝早く起きて弁当を作らなくていい事を喜んでいるように見えた。

「おはよう。」

「あっおはよう。今日昼ご飯生姜焼きね。冷蔵庫入れとくからチンして食べて。」

「うん、ありがと。」

 壁に掛けてある時計を見ると、もう昼の11時だった。昨日遅くまでマスコンをやったせいだ。そして今日も深夜の2時に公園に行くと思うと、なんだか夏休みの無駄遣いをしている気分になる。

 ため息を吐きながらリビングのソファーに腰掛ける。テレビはニュース番組が流れていた。それを力を抜いてぼーっと眺める。綺麗なお姉さんと頭の硬そうなじいさん、髪をくるくる巻いた陽気なレトロおばさん、メガネをかけた優しそうなおじさん。

 テレビに映るこの4人が、空と俺と奏多と稔に見えた。

 空は俺らの中では一番顔が整っているし、少し臆病で女々しい。

 俺は捻くれ者で、誘われても自分に興味があるもの以外誘いに乗らない頭の固いめんどくさいやつだ、という自覚がある。

 奏多はいつ何時でも明るく鬱陶しいくらいの元気さで話しかけてきては、俺を遊びに誘ってくる。

 稔は一眼見ただけで分かるくらい、優しそうな顔をしていて、実際とても優しくて面倒見が良い。奏多のわがままにも懲りずに付き合ってあげて、稔は俺らのお父さんって感じだ。

「次のニュースです。」

 さっきまで笑っていたお姉さんの笑顔がスッと消え、次のニュースに切り替わった。

「昨夜午後18:00頃、福山市野上町で轢き逃げ事故が発生、自転車に乗っていたK高校の学生が死亡しました。自転車に乗っていた男性はK高校の制服を着ており、K高校の生徒とみられ、車との衝突によって遺体を激しく損傷し詳しい身元は不明、車は現在も逃走中のようです。」

 K高校…。

「あら、K高校ってあんたが通ってる高校じゃない。怖いわー。」

 母さんの言葉で我に返る。

「うん…。」

「あんたも気をつけなさいよ。本当に怖いわ。」

「うん…。」

 普段は特に死なんて意識してこなかったけど、今身近に死があることを認識させられ、生と死は紙一重というとことを思い知らされる。あいつらともいつ会えなくなるか分からない。そう考えると今たくさん遊んどいた方がいいような気がしてきた。昨日の稔の言葉が蘇る。

「この4人でいると楽しいから…。」


 深夜1:45、夜空では月明かりが常夜灯の役割を果たしている。

 幼い頃はよくあの公園で水飲み場の蛇口を思いっきり捻って噴水みたいにして遊んでたら、公園の私有者のじいさんに小一時間くらい叱られて家の門限を守れずに、じいさんにも親にも叱られた嫌な思い出がある。だから、そんな幼い頃から遊んでいた公園の公衆トイレにそんな都市伝説があると聞いた時は驚いた。まあどうせ嘘っぱちだけど。

 公園が見えてきた。遠くから見た感じ、まだ誰も来てなさそうだ。車止めを跨いで、背もたれのない木製のベンチに腰を下ろす。自然と公園の奥の公衆トイレに目がいく。確かに稔の言うとおりあそこの公衆トイレは何か出そうな雰囲気が漂っている。

「おー、悠里早いねー。」

「ちゃんと来たんだ笑。」

 奏多と空がチャリを公園の入り口近くに止め、こちらへ歩いてくる。

「あれ、稔は?」

「いや、まだ来てないな。」

「言い出しっぺが遅刻してる。」

「おーい。」

 公園を出たすぐの道路に手を振る人影が見えた。

「稔!」

 奏多がそちらに駆け寄り肩を組む。

「遅いぞ!早く死の世界っての行ってみたい!まじでどんな世界なんだろ?全く想像つかん!」

「いや、それにしても本当にあるのかな?」

「稔が持ってきた都市伝説だろ?」

「まあそうだけど笑。」

「ていうか稔、チャリは?」

「あー、ちょっと壊れちゃって。」

「まじか、歩いてきたん?」

「うん。」

「すごいな、まあまあ遠いのに。」

「全然。ていうかそんなことより、もうみんな揃ってるんなら作戦会議しよ!」

「了解!おーい、空、悠里、トイレの前来て!」

 それに従ってトイレの前まで行くと4人ともしゃがんで、作戦会議が始まった。

「改めて言うけど、この緑公園の公衆トイレ、そこの女子トイレの2番目の扉を開けるとそこは死の世界。そして、その死の世界ってのは死んだ人が行く世界のことで、そこで黒い蛙を見つけて、願いを一つ言うとなんでも叶えてくれる。」

「「「ん?」」」

 3人ともまだ聞いたことがない情報に戸惑う。先に口を開いたのは空だった。

「黒い蛙って何?」

「え?だから、願いを叶えてくれる蛙。」

 次に口が開いたのは奏多だった。

「なにそれ?聞いてないんだけど!」

「え?!言ってなかったっけ。」

「言ってない…。」

 稔が僅かな沈黙の後、急に立ち上がり、

「まあ、その死の世界で黒い蛙を見つければ願いが一つ叶えれるってこと!言ってなかったのはあれだけど、別に損する話じゃないし良いよね!」

 奏多も急に立ち上がる。

「全然いいよ!てか、その蛙見つけたらなんでも願い叶うのかよ!やばっ、シェンロンじゃん!」

「そうだよ!だから頑張って見つけよ!」

「本当にいたら良いなー。」

「悠里、まだ信じてないん?」

「まあ、そうね。」

 稔は少し間を開けて、

「掛ける?」

「何を?」

「この都市伝説が本当だったら、マイコンの夏の特別イベントBOX(12000円)を僕に奢って。逆にこの都市伝説が嘘だったら僕が悠里に奢る。」

 まじか、このほぼ勝ち確みたいなギャンブルで12000円のBOXが貰えるのは正直熱い。

「本当にそれで大丈夫なのか?」

「ああ、良いよ。でもその代わり、この肝試し中はみんなと一緒に楽しんでよ?」

「分かった。」

 稔が公衆トイレの壁に掛けてある時計を見上げる。

「もう2時だ、みんなそろそろ行くよ。」

「楽しみすぎる。」

「どんな世界なんだろ。」

 奏多と空は完全に信じ切っている。

「いやー楽しみ。」

 死の世界じゃなくて、マイコンのBOXの中身が楽しみ。俺と空も立ち上がってみんなで女子トイレに入って行く。

「やっぱり怖いね。」

 空が辺りをちらちら確認しながら声を漏らした。

「大丈夫だって。今から死の世界に行くのにそんなんで大丈夫か?」

「悠里、急に乗り気なったね。」

「もちろん、約束したしな。」

「ここが2番目の扉…。」

 稔が扉に触れる。

「みんな開けるよ。」

 その言葉に一同は唾を飲み込む。

ガチャ…キィィィィ…


 俺はつい目を凝らす。そこは真っ暗だった。便器も無ければ壁も無い。夏の特別イベントBOXも無い。ただ黒い部屋。

「本当にあった…。」

 つい声が出る。

「ね?言ったでしょ。夏の特別イベントBOX奢り決定!」

 稔はさほど驚いていないみたいだ。まるで一度来たことがあるかのように。

「やば…。」

「本当にあるんだ。」

 奏多と空も心の声がダダ漏れしている。すると稔が放心状態の3人を見て、ぶっ、と吹き出して笑いだした。

「なにしてんの?早く行くよ。」

「なんかやっぱり怖くなってきた…。」

 空が呟く。

「大丈夫だって。みんな付いてるから。」

「でも…。」

 そう拒み出すと、稔は空の細い腕を掴んだ。

「え?!ちょっ…!」

「2人も早く来てよ!」

 そう言い残して2人はこの真っ暗な空間に飛び込んで行ってしまった。

「俺らも行こう!」

「うん…。」

 奏多の後を俺も追う。


「なんで女子トイレに男の人がいるの?」

 目の前には年長さんくらいの幼い女の子がこちらを下から覗いていた。状況についていけない、多分それは4人とも同じで奏多は顔をキョロキョロさせて、空はこの女の子のことを口を開けて見下げている。稔はこの状況を理解したのか首を縦に振って頷いている。

俺も一回冷静になって状況を把握してみる。

 辺りを見渡すと俺たちが来た現実と同じ構造の女子トイレ。そして、外からの日差しがトイレの小窓から差しているおかげで日中だということは分かった。そしてこの女の子。多分、ここは死の世界なのだろう。ただ、死の世界は現実とほぼ同じ地形、構造をしているのかもしれない。

 となると、ここに男4人がいることはまずいことじゃないか?俺がそうようやく気づいた時。

「みんなダッシュで逃げるよ。」

 稔がそう言って走り出した。やはり、あいつも俺と同じ考えに至ったんだ。俺が稔の後を追うとそれにつられて残りの2人も走りだした。公園を出てすぐの車通りの少ない道路を男子高校生4人が駆け抜けている姿はなんだか青春ドラマみたいだが、実際は建築物侵入罪を犯した変態たちが逃亡しているみっともないシーンだった。

 走っていて分かるがやはり、現実世界と地形も構造もルールも、ほとんど一緒のようだ。ただ、異常に人通りが少ないのは唯一の違いかもしれない。

 公園から10分ほど走った所にある田んぼの目の前でようやく稔の足が止まる。

「ここなら流石に大丈夫。」

「はぁーはぁーはぁー。」

「疲れた…。」

「ふーふー。」

 稔以外、皆ぜぇぜぇ言ってくたばってしまった。

「稔なんで疲れてないん?」

「だって10分くらいしか走ってないじゃん。」

 ていうか、なんでこんな所で止まったんだ?もっと屋内とかの方が絶対隠れられるだろ。

「なんで、こんななんも無い所で止まったんだ?」

「え?俺たちの目標忘れたの?黒い蛙を見つけるために田んぼに来たんだよ。」

 もう全力疾走して完全に頭から抜け落ちていた。

「そっか。でも黒い蛙って本当にこの田んぼにいるのか?」

「うーん…分からない。」

「まじか、なんの情報もないん?」

「うん、本当に黒い蛙がいるっていう情報だけしか知らない…。」

 終わった…。そんなのこんな広い世界で見つけられるわけない。もう諦めて帰りたい。待てよ、帰りってどう帰るんだ?

「なあ、稔。帰りはどうやって帰れるんだ?」

「あー、帰りはもう一回あのトイレに入れば帰れるらしいよ。」

「本当だよな?」

「本当だよ。」

 まあとりあえず、黒い蛙を見つけるまで帰れそうにないな。

 パン!稔が手を叩いて全員の顔を自分に向けさせる。

「それじゃあ、手分けして黒い蛙を探そう。僕がこの田んぼ周りを見るから、空があっち

で、悠里があっちで、奏多が…。」 

稔の指揮を奏多が遮る。

「ちょっと待って、俺まだ状況飲み込めて無いわ、死の世界ってこんな現実と一緒なん?」

「多分そうなんだろうね。まあ地獄みたいな所じゃなくて良かった。」

「まあ、それはそうだけど。」

「はい!じゃあ黒い蛙探し始めるよ、みんな各々の田んぼ探して、いたら大きい声でみんなを呼んで。とりあえず1時間は探してみよう。」

 職場監督のように振る舞う稔の姿に圧倒され、皆それぞれの配置について田んぼ周りに黒い蛙がいないか確認する作業が始まった。

多分、稔以外誰1人として、ここに黒い蛙がいると思ってない。だけど他にどこを探せばいいのか分からないためここを探すしかない。

 この時期の稲はまだバッタのような色をしていて、そこに黒い蛙がくっついていれば分かりやすいのだが、泥は真っ暗なせいで擬態されたら見つけるのがとても困難だ。皆、目を凝らしたり、しゃがんだりして必死に探したが30分ほど経っても誰1人として、黒い蛙どころか普通の蛙すら見つけられなかった。

「どうする、まだここ探す?」

奏多が稔に問いかけたが、返事はすぐには返ってこない。

「うーん…、まあでも、ここ以外探すあてが無いし、やっぱりまだここを探そう。」

 本当にここにいるなら探してもいいけど、いないかもしれないのに探すのはだいぶしんどい。実際、体にもうだいぶ疲れがきていた。 

「本当にずっとここ探してていいのか?」

「でも、他にどこかいい所ある?」

 確かに、情報が足りなすぎる。もうこればっかりは仕方がないのか…。

「あっ!なんか今田んぼの中で黒いのが動いた気がする…。」

「まじか!」

「本当?!」

「どこ?!」

 空の驚きの声が全員に少しの希望を与えた。3人で空が指差した箇所を囲うようにしてその場にしゃがむ。その場が静寂に包まれる。いた!ちょうど俺の真下の雑草に紛れている。真っ暗な蛙だ。あの時のトイレの扉の向こう側と一緒の色だった。俺が空中で人差しを下に向けて上下に揺らしてみんなにここにいるとジェスチャーで伝えると、奏多と稔は俺の方によって来て下を覗いては目を見開いて驚いている。

 俺は両手を少し丸めてドーム型を作り、それを蛙の上持って行き、そーっと下に降ろしていく。みんなからの視線で、より緊張感が高まる。手と蛙までの距離が残り15cm程になった時、手をピタっと止め、一気に下に降ろして蛙を手で囲う!

 手の中でひんやりとした柔らかいわらび餅のようなものが当たった感触があった。成功した…。手の中の蛙を逃がさないようにドーム型の手を球体にしていく。ゆっくりと指と指の間からやつが溢れないように慎重にやっていくと、やっとおにぎりを握る形の手にできた。

「捕まえたかも…。」

「悠里凄いよ!」

「まじですげぇ!」

 後ろから空も駆け寄って俺を称賛してくれた。でも本題はここからで、これが本当に黒い蛙で本当に願いを叶えてくれるのか。それが重要だ。

「なあ、稔。」

「なに?!」

 稔は珍しく興奮しているようだった。

「黒い蛙を見つけたら願いが叶うんだよな?」

「そうだよ!」

「よし、奏多。最初にちょっとお願いしてみてくれないか。」

「え、俺でいいの?!」

「うん。」

 俺は奏多に近寄り右手の親指少しずらして中の黒い蛙を見せてあげた。

「じゃあ、めっちゃ美人のボンキュッボンの彼女が欲しい!」

どこかのおバカ幼稚園児キャラみたいな願いを恥ずかしげもなく大きな声で願った奏多の前には先程まではいなかった、めっちゃ美人のボンキュッボンの女性が立っていた。

一同その女性から目が離せない。

「本物の黒い蛙だ…。」

「本当にいたんだ…。」

空がそう呟くと、次は俺が行かせてくれと言って俺の側に近寄ってくる。俺は親指を少しずらす。

「一生困らないくらいのお金が欲しい!」

 そういった空の前には一枚の紙切れが落ちていた。それを空はしゃがんで確かめる。

「宝くじだ…。」

 まじか…。じゃあ俺も。親指を少しずらす。

「一生困らないくらいのお金が欲しい。」

 そう言った俺の前にも宝くじが落ちていた。

まじでこんな夢みたいなことがあるのか…。

こんな夢みたいな都市伝説…。

「次、僕良いかな?」

「お、おん…。」

 親指を少しずらす。

「菊の花を3本ください。」

 俺は耳を疑った。

稔の前には菊の花が3本置かれていた。

「菊?そんなんで良いのか?」

「うん!僕は今これが欲しいんだ。」

「まじでもったいないで?本当にいいん?」

「うん!大丈夫!」

「あっそう。」

そこで手の中のひんやり感が一気に無くなったことに気がついた。手を開いて確認してみたがもうすでに黒い蛙はいなくなっていた。

「蛙いなくなったわ。」

「まあ、もう十分叶えて貰えたし本当にここに来て良かった…。」

 稔が菊の花を手に抱えてしみじみした顔で言っている後ろで腰の曲がったおじいさんがのろのろと歩いてこちらへ歩いて来ているのが見えた。新しくできた彼女に夢中な奏多と、宝くじに目を輝かせている空を一旦現実に引き戻す。

「おい、空、立て。奏多もあれ見ろ。」

 ひとけの全くないこの世界で会う2人目の人だった。顔はくにゃっと萎れて優しそうに見えるが少し不気味に見える。奏多の新しい彼女以外、あの老人を見ていた。段々と近づいてくる。もうほぼ真ん前だ。老人は俺らの前を通り過ぎるかと思ったが、そこでピタリと立ち止まった。

「あんたがた…、さっきまで生きておったじゃろ?」

 …さっきまで?俺たちは今もまだ生きている。何を言ってんだ、ボケてんのか。

「この世界に長くおると、こっちの住民になってしまうからの。」

「長くってまだ1時間くらいしか経ってないと思うんですけど…。」

 奏多が震えた声で問いかけると老人は眉を顰める。

「1時間もあれば…十分なんじゃ。」

「こっちの住民って…、その、死人ってことですか…?」

「そうじゃな。」

「えっ…。」

 空が手で口を抑えて震えている。今にも泣きそうだ。

「死ぬの…もう死ぬ…の?」

 天国から一気に地獄へと引きずり込まれた。

 死ぬ?俺らが?ちょっとまだ頭が追いつかない。急に願い叶えてもらったと思えば次は死ぬ?いやだ、まだこんなに若いんだ…。やり残したことが腐るほどある。まだ稔に夏の特別イベントBOXだって奢ってないんだ。死んでたまるか。死にたく…ない。

「本当に気の毒にな…。もう少し早くに気づけていたら3人とも助かったかもしれんのに…。」

「なあ、じいさん!まだ助かるほうほ…。」

 ん?3人?…俺たちは4人だ。俺と奏多と空と…そして、

稔…なに笑ってんだよ。



「次のニュースです。一昨日の福山市野上町で起きた轢き逃げ事故で無くなった遺体の身元が判明しました。遺体はK高校に在学中の沖島 稔くんだということが判明しました…。」






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ずっと4人で 青鷺 @MISUTUBAKI

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