憧れの王子様系女子は、いざ付き合ってみるとド変人だった。

水稲

憧れの王子様系女子は、いざ付き合ってみるとド変人でした。

「思ってたんと違う」


 私、沼田舞紀がずっと憧れ、慕い、愛してきた女性――唯華が私と腕を組んで歩いている。そんな夢のようなシチュエーションの中、私は独り嘆いた。


 高校に入学して最初の一年は、唯華の事を思い続けるだけの一年だった。

 クラスみんなの憧れの凛々しくて美しい文武両道の王子様系女子。勿論、周りに流されやすい私が憧れないはずも無かった。

 最初の席替えでたまたま隣の席になってから、憧れは恋心に変わっていった。


 んで、一年クネクネした後に告った。「私のものになってください!」と言って告った。マジこう言った。まあこの時はテンパってたからしゃーないね。それでなぜかOKを貰えた。


 これがちょうど半年前の出来事。

 それで、半年間色々と恋人っぽい事をした。デートは何回も言ったし、手も繋いだしキスもしたし、お揃いのアクセサリーなんか買っちゃったりもした。

 そうして今に至る訳だが――先に述べた通り、「思ってたんと違う」のだ。


 私と今腕を組んで歩いているいる唯華は、はっきり言ってかなりの変人である。突然脈絡の無い話をしだす事もしばしばあって――


「お手洗って言葉、トイレの本質の部分は表せていないから間違ってると思うんだよね」


 ほらこういう事を急に言う。街中を歩いていて急にこういう事を言う。私が心内で色々と嘆いている最中に。私の心など知らず。

 凛々しくて弱点なんて一個もない完璧超人、いわゆるスパダリという感じの女性を想像していたし、実際に学校ではそうだったのだが、私の前ではこれだ。


「舞紀もそう思わない?」

「あー、まあ、そうかも?」


 いやそんな事言われても返答に困るよ。と思いつつ、何となく返事をする。




 さて、ここで誤解が無いように説明しておかなければいけないのだが、私は正直言ってこれはこれでめちゃくちゃ幸せだし、唯華が変人なのも満更でもない。

 確かに全然王子様のような人ではなかったが、これはこれで可愛いところもあるのだ。

 例えば――


「あ、舞紀!でっかいパフェ売ってるよでっかいパフェ!食べない!?」


 こういうところとか。

 目をキラキラ輝かせ、でっかいパフェの売ってる店を指さす。

 唯華のいい所その一、感情をめちゃくちゃ表に出すから可愛い。本当に信用した人にしか出さないけどね。唯華から信用されてよかったー!


「はいはい、でっかいパフェだね。食べようか」


 内心では「そうだねぇ〜♡♡でっかいパフェだね〜♡♡でっかいパフェ食べたいんだね可愛いねぇ♡♡でっかいパフェ食べようねぇ♡♡」などと思っているが、表に出さないように、冷静を装って淡々と言う。

 それに対し、唯華は裏声で小さく「ヤッター」と返す。

 裏声である理由は全く分からないが、そういうよく分からない行動も唯華の魅力の一つだ。


 入店後も唯華の調子は変わらない。

 私は普通のパンケーキ、唯華はでかいパフェを頼んだ。


「美味しそ……」


 店員さんが持ってきたでかいパフェを前に、つい言葉を漏らす。知らない人の前だとあまり感情を表に出さないが、でかいパフェの前では流石に感嘆が漏れてしまう。

 店員さんが去った後、すぐにスプーンを手に取り、パフェを食べ始める。

 この歳の女子がこれだけの物を前にして写真の一枚も撮らずに食べ始めるのは少し珍しいようにも思える。が、そういう独特さも唯華の魅力の一つだ。

 ちなみに、いただきますと言うのは勿論忘れていない。唯華は尋常じゃないくらい育ちがいいからね。

 勿論私は(唯華が少し映り込むように)写真を撮ってから食べたが。


 昼食を済ませたばかりで私はパンケーキ一つでも食べきれそうにないくらいだったのに、唯華はでかいパフェをすんなり食べ終えた。

 唯華はかなり大食いだ。しかし、栄養はだいたい身長に行っており、綺麗な体型のまま171cmになってしまった。日頃から努力してこの体型を保っている私からすれば、羨ましい限りである。


 私がパンケーキを前にして悪戦苦闘していると、唯華が羨ましがるような目でこちらを見てくる。まさか、まだ食べたいのか?

 恐る恐る、「食べる?」と聞いてみると、嬉しそうにニコニコ笑って無邪気に「食べる!」と返してきた。

 勿論あげた。


「私も舞紀に何かあげれば良かったかな」


 私のパンケーキを食べながら、申し訳無さそうに唯華は言う。

 唯華はこういう風に後悔する事が多い。唯華の悪いところだと思う。


「いいよ、私お腹空いてなかったし。あ、でもパンケーキは食べたかったから……手伝ってくれてありがとう」

「そう?そっかぁ……そうだね、うん。」


 お腹空いてなかったし、とだけ言うと、唯華は「ああ、別にパンケーキなんて食べたくなかったのに私がパフェを食べたがったからそれに付き合ってくれたのかな」などと考え、勝手に申し訳無さを感じてしまうだろう。

 そのため、パンケーキは食べたかった、と付け足した。

 こういう風に慰めてやった時の唯華の反応がもう最高なのだ。暗い顔をしていたところから、雨上がりの空に虹がかかるように、はにかんだ笑顔に変わっていくのが最高である。


「ところで、パンケーキって名前すごいよね。パンとケーキだよ。どんな由来なんだろうね」

「あ、それ前に調べたことあるんだけど、パンケーキのパンってフライパンとかのパンらしいよ」

「えそれ本当?物知りだね、舞紀」


 こういう話をどうせするだろうなと予想して、事前にパンケーキの名前の由来を調べておいてよかった。




店を出て、再び腕を組みながら歩く。


「さて、次どこ行こうか?」

「んー、映画屋さんでも行く?」


 唯華は映画館を映画屋さんと呼ぶ。映画館はあまりにも「館」じゃ無さすぎるからだ。


「何見るの?」

「前に見て好きだった作品の続編やってるらしいんだけど……一緒に見ない?」

「いいよ。一緒に見ようか」


 私が承諾すると、唯華はまた裏声で「ヤッター」と言った。これやるのハマってるのかな。

 さて、私は普段映画を見る時、前日までにしっかり予約を取るタイプだ。映画だけじゃない。何事も事前に予定を決めてから物事を行う事が多い。

 だが、唯華と付き合ってからは、唯華に振り回されるような形で突発的な行動を行う事が増えた。色々不便な事はあるが、新鮮で毎日楽しい。


 という訳で、映画館に来た。ポップコーンは1個しか買わなかった。流石にあれだけ食べた後にポップコーンは太る。良くない。


「確か舞紀は前作も見てたよね?」

「うん。前に見たよ。結構前だから忘れちゃってるけど……」

「私も結構忘れちゃってるなぁ」


映画館は結構混んでいて、席は後ろの方。ポップコーンに並んでいたので時間はギリギリ。着席してほんの数十秒で映画本編が始まった。


 映画の出来は前作に比べると良いとは言い難いものだった。途中で退屈になってきて、私はスクリーンから唯華に目を移す。

 唯華は目を輝かせ、口を半開きにしながらスクリーンを凝視している。スクリーンを凝視したまま口にポップコーンを運ぶから、何粒も零してしまっていた。可愛いなぁ、と思う。


 そうしているうち、映画もいつの間にか最終盤。中盤までは駄作だなと思いながら見ていたが、なんだかんだ前作のような熱い雰囲気があって、結局熱中してきてしまった。

 唯華はどうしているかな、と思いふと左を見ると、唯華大号泣。まじ?

 別に涙を誘うようなシーンでもない。そんな泣くとこか?とは思ったが、唯華の感受性は超豊かだ。まあ泣いてもおかしくないだろう。

 くっそ可愛いなぁ、と思いながら見ていたが、涙を袖で拭き始めたから慌ててハンカチを貸した。

 スクリーンは既にエンドロールを写していたが、まだ涙を拭いている唯華。恥ずかしいのか、私から顔を逸らしていた。


「ほら、行くよ」

「……うん」


 エンドロールが終わっても余韻に浸り座ったままでいる唯華の手を取り、立ち上がらせる。

 まだ鼻をすすっている。唯華の人生めちゃくちゃ楽しいんだろうな。




 さて、今度は映画の感想戦がてら、私の自宅にやってきた。


「ただいま」

「おかえり……あれ、唯華ちゃんまた来たの?いつも舞紀と仲良くしてくれてありがとうね〜」

「いえいえ、こちらこそいつもお世話になっております」


 唯華は外面が良い。私のお母さんからはなんの欠点も無い完璧イケメン女だと思われているようだ。改めて、そんな唯華が本性をさらけ出して関わってくれる事を嬉しく思う。


 とりあえず、唯華を自室に連れ込む。唯華は慣れたように勝手に私のベッドの上に座る。


「いい映画だったね。前作が好みだっただけに続編が蛇足にならないか心配だったけど全然そんな事なくて――」


 唯華が目を輝かせて喋るのを私はただ聞いている。時折相槌をうったり、共感したり。

 こうやって唯華が楽しそうにしているのを見るのが一番楽しい時間だ。私が唯華と一緒に映画館に――いや、映画屋さんに行くのは、映画を見るためではなく唯華の感想を聞くためである。


「――それでエンドロールを見てみたら脚本家のところに……ああ、ちょっと話しすぎちゃったかな?」


 一方的に喋りすぎると反省できるのも唯華の良いところである。


「いいよ、全然。私唯華の話聞いてるの好きだから」


 もちろん本音からの言葉だ。


「そっかぁ……いつもありがとう、舞紀。こんな私の事、受け止めてくれて」

「受け止めるも何も、私が好きで唯華と一緒にいるだけだよ。唯華は自己評価低すぎ。みんなに見せてる面も、私にしか見せてない面も、全部最っ高に素敵だよ?」

「え〜?そう……?」


 唯華が嬉しそうにニマニマ笑いながら隣に座る私にくっついてくる。私はその肩を抱く。身長差があるからちょっと腕が疲れるけど。


「でも、舞紀の方が素敵な人だよ。仲良くなってからずっと私に優しくしてくれてさ。ずっと好きだったのに告白できなくて悩んでたら、舞紀の方から告白してくれて、嬉しかったよ」

「え?」


 ずっと好きだったのに、と唯華は言った。そんな事ある?ずっと私の片思いだと思ってた。いやまあ私の事好きじゃなかったらあんな告白でOKしてくれる訳無いんだけど。


「ちょ、ゆ、唯華。ずっとっていつから?」

「んと、クラスが一緒になったあたりから」


 私よりちょっと早いじゃん。ごめんね一年も告白できずにクネクネしてて。待ち遠しかったよね。


「そんな、なんで私に惚れて……?」

「だって舞紀――王子様みたいだったんだもん」

「え?」


 それはお前だろ!と言いたくなったが、思い返してみると、私の行動の方が王子様なんじゃないか、これ。話聞いてあげたり、ハンカチ貸したり、告白の文言「私のものになってください」だったりしたし。

 ああ、盲点だった。王子様系女子に惚れたと思ってたら私の方が王子様だったとは。

 なんだかちょっと納得がいかないような感じもするが、まあ唯華が好きでいてくれるならそれでいいか、と思い直す。


「じゃあ、もう遅い時間だし、そろそろ帰るよ。楽しかったよ、ありがとう」

「あ、うん。ありがとう」


 唯華は急に帰る。急に帰るので寂しい。でも、帰りたくない帰りたくないと駄々をこねて帰るよりはよっぽどスッキリしていて良い。こういうところも唯華の魅力の一つだ。

 ここでふと、今日恋人らしい事を何一つしていないなと気付く。せっかくならキスの一つくらいしておくか。

 帰ろうとドアノブに触れる唯華を呼び止め、そのまま振り向いた唯華と唇を重ねる。私の方が身長が低いので、ちょっと背伸びをしなくてはいけなかった。


「……っ、急に、舞紀そんな急に、準備できてないから……」

「ふふ、びっくりした?」


 口元に手を当て大慌てする唯華。恥じる姿も最高。


「私が白雪姫だったら起きてるよ。私は白雪姫じゃないから今二回分起きてる事になるね。普段よりも毒林檎一個分多く起きてる」


 言ってることはマジで意味わからないけど。




 さて、唯華が帰り、一人部屋に残される。でも、そこまで寂しさは感じない。唯華はSNSでもめちゃくちゃ連絡を寄越してくるからだ。


――「お笑い」って言葉すごくない?


 ほら来た。唯華はこういう日常で気になった事を全部私に報告してくるのだ。もっと恋人なら、好きだよ、とか、愛してる、とか、そういうメッセージを送って欲しいものだ。


――なんで?

――笑わせるコンテンツを「お笑い」って呼べるんだったら、泣ける映画とかは「お泣き」にならない?


 ついつい感嘆の声をあげてしまった。確かにそうかもしれないな。


――じゃあホラーは「お恐れ」?

――いや、笑いと泣きは行為だけど恐れは行為じゃないから「お叫び」とかになるんじゃない?

――ああ確かに!


 やたら論理的で腹立つ。


――ありがとう、こんな話付き合ってくれて。愛してるよ


 急にこういう事言われると脳がおかしくなる。これがギャップ萌えってやつか?にしては落差が大きすぎやしないか?




 はあ、とため息をつきながらベッドに倒れ込む。唯華と話すのはちょっと疲れる。


 ふと、帰り際にしたキスの感触を思い出す。

 当初思ってたのとは違ったけど、なんだかんだ唯華は私にとって最高の彼女だった。

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