きっと、この季節が巡ってくるたびに例えば……
吐くいきが白くなった時、讃美歌の、カウンターテナーが聞こえた時、
彼の事を思い出すのだろう。エッグノックと一緒に。
主人公は、いわゆる人ならざる者が見えるという特殊な体質にございまして、
そういう方は往々にして、現実の人間とは距離が遠ざかっていくのが必定なのでしょうな。
友達ができたことがないのでございます。
どうしても心に殻ができ、その中に閉じこもってしまうのだそうで。
そんな彼が、たった一人教会に訪れた時に聞いた、
美しい讃美歌。金色の髪。緑の目。
彼はすぐに気付きました。
『彼は幽霊である』と。
自分を怖がらないことに不思議がる少年と、
そもそも友情を知らない少年。
奇妙な出会いだったのでしょうな。
しかしその出会いが、少年の心の殻をすこじづつでも破っていくきっかけになるのにございます。
出会うはずもなかった二人。知り得なかったはずの飲み物。そして讃美歌。
不可思議な出会いと、温かい物語にございます。
お勧めいたします。
ご一読を。
まさに、カクテルのような多層的な味わいの作品でした。
主人公がBARにて「エッグノッグ」を注文する。卵を使った特徴的な飲み物。アルコール入りで大人な感じも出せるし、子供でも飲めるようなスイーツ的な雰囲気もある。
そんなエッグノッグについて、「霊が見える主人公」には幼い頃の思い出があった。
幽霊が見える体質を持っていた彼は、生きている人間にも死んでいる人間にも「深く関わらない」ことで自分を守っていた。
そんな彼の前に、一人の少年の幽霊が現れて……。
この幽霊の少年とのやり取りが、とても新鮮なものでした。
幽霊なんだけど、生きている少年よりもずと「陽」の感じを持っている。人生の喜びとか日常の楽しみ方なんかを知っている彼は、この世界をとても肯定的に捉えている。
そのやり取りを見ていて、自然と心があたたかくなる感じがしました。
本当に、ちょっと見方を変えるだけで、人生や日常はいくらでも味わいを見せてくれるものなのかもしれない。
それを「幽霊」が教えてくれるというコンセプトが、なんとも粋な感じがしました。
少年の日の思い出のような健やかさ。そして、それを思い出して噛みしめる大人の渋み。
一作で複数の味わいがある。まさにエッグノッグのような多層性を持った一作です。