後半
♢
俺の名前はリク。転生者だ。今から1か月前、アレスの魔女に勧誘されて、魔女になった。
理由は、上から見下してくる偉そうな奴等を、この手で一掃したかったから。
それなのに、新人である俺の監視役に就いた先輩は、殺人を許さなかった。痛めつける事は許可しても、命を奪う事だけは絶対に許可しない。
最初はそれでも、俺は構わなかった。人間離れした力で、社会のクズ共を蹂躙するのは最高に良い気分だったからだ。
だが段々と、満足できなくなってくる。偉そうにふんぞり返っていた奴に痛みを教えるだけじゃ、満足できなくなってきた。
『もっと、面白くならねーかなァ……。』
俺は思いついた。先輩は俺を見下すのではなく、俺の長所と短所を客観的に見ているだけ。だから別にぶっ飛ばそうとは思わない。
俺に力を与えた奴は、どうだろうか? きっと俺の事を見下しているに違いない。ソイツを痛みつけてやればいい。
『なァ先輩、TSギアを作った奴って何処にいるんだ?』
『……知ってどうする。』
『ちょーっとだけ、感謝を伝えたくてよォ。』
『ボクはお前を信用していない。』
『まさか、俺が警察の犬だとでも言いたいのか……?』
『勘違いするな、お前に問題があるんじゃない。ボクが組織の人間として仲間を信用しないだけだ。』
『……あァ、そういう。』
先輩のこういう所、ちょっと好きなんだよな。見た目だけ可愛いくて、中身はしっかり腐ってる感じ。
先輩は俺に気を遣ったのか、奇妙な提案をしてきた。
『退屈してるなら、ゲームでも したらどうだ。』
『ゲーム……。俺、あんまゲームしないっス。』
そんな事を言っていた俺だが、普通にハマった。無限に湧いてくる雑魚を狩りまくる、それだけの単純なスマホゲーム。
もしかして、これが「見下す側」の景色なのか? ……なるほど、これは確かに心地良い。
どこか、クズを
『……
俺はしばらく、「見下す人間」として無双ゲームをプレイした。警視庁を襲撃し、警察の特殊部隊を殺してやった。
この上無く心地良かった。あの日以降、先輩が俺を嫌っている気がするのは、俺が人殺しになったからか。
でも、先輩も所詮は仕事仲間だ。別に大好きな人とか、そんなんじゃない。
そんな事は気にせず、俺は「ゲーム」を楽しんでいた。
―――――だが やはり、俺は人を見下す奴が許せなかった。俺には「無双ゲーム」で遊び続ける事ができない。
俺を見下してくる奴等は、この手でぶっ飛ばす。
♢
「俺を、見下してんじゃねェ……!!」
「なんか、さっきから君プライドすごいね……!?」
薔薇の魔女に呆れながら、俺は赤いハートの《A》と黒いハートの《jack》を組み合わせた。
俺は勝利を確信したが、カードのルールが発動する頃には、既に魔女は攻撃を終えていた。
俺の腹に、強烈な殴打が押し込まれている。俺が泡を吹きかけた瞬間、後方へ身体が弾け飛ぶ。
「がッ……はぁッッ!!」
地面と身体が激しく衝突する。染み込んでくる痛みが、俺から油断と安堵を奪い去っていった。
ハートの《A》のルールが発動してから、俺の体感で4秒が過ぎた。まだ大丈夫だ。ルールは発動している。
《A》のルール:4秒間『対象の時間進行を10倍速にする』、《jack》:『自分を対象に指定する』。つまり、実際には0,4秒しか経過してない。
俺が10倍速で行動できる残り時間は、俺の体感で約40秒。今なら、魔女のスピードについていけるはずだ。
魔女が何か言っているが、余りにも遅すぎて聞き取れない。俺は拳を握ると、魔女に向かって駆け出した。
少し遅れて、魔女も俺に向かって走り出す。
「っ……!?」
俺は驚いた。この魔女、まだ速い。今の俺が安定して身体を動かせるスピードと、およそ同じ速さだ。
「おいおいオイ、10倍速だぞ!? なんでついて来れるんだよ!?」
……いや、もっと。俺は、完全に制御できなくてもまだ加速自体はできる。
俺は片手で魔女の拳を
「…………。」
相手の反応からして、威力が足りてない。俺が一旦魔女から距離を取ると、キョウカちゃんが銃撃で魔女を牽制してくれる。
そのうちに、俺はトランプの束をシャッフルしてカードを1枚だけ引く。《JOKER》だ。
《JOKER》:4秒間『任意のルールを、任意の対象に発動』。そして、ルールと対象は……。
「
ここで重要なのは、俺の体感ではなく、実際の4秒間このルールが発動するという事だ。
俺の体感で、
時間は十分。美少女の姿が茶髪の青年に変わったのを見ると、俺は手加減して彼の頭を殴った。
青年はスローモーションで倒れていく。念の為、腹にも1発。なんかコイツ ウザかったから、頭にもう一発。
「
《JOKER》の時間切れで、青年が再び魔女に戻る可能性を心配をしていたが……杞憂だったらしい。
何秒経っても彼は魔女に変身しない。というか、完全に伸びちゃってる。
「ふっ……。俺とキョウカちゃんの勝ちだな。」
という訳で、薔薇の魔女との戦闘は一件落着した。強かったのは間違いないが、キョウカちゃんが頼もしすぎた気がする。
そもそもだが、俺がカードを操作する時間があったのは、キョウカちゃんが敵を引き付けていてくれたからだ。
俺が10倍速でどうにか魔女と一騎打ちで勝てたのも、相手が雷撃で消耗させられていたから。
俺は与えられた時間と機会の中で、どうにか足掻いて勝たせてもらっただけだ。
俺の実力が、アレスの魔女を相手に通用した訳じゃない。
薔薇の魔女——自称「熱海リク」————は警察に逮捕された。ギアも破壊された為、変身して刑務所を脱獄する心配はないだろう。
それから数日、報告書を作成したり、キョウカちゃんと特訓したり。久々におっさんの姿で、郷矢さんと一緒に飲んだりもした。
郷矢さんは、金髪でピアスを空けて、黒い皮ジャケットを羽織ったヤンキーみたいな恰好だった。最初、想像と違い過ぎて怖かった。
某日、自宅。俺は 例のトランプのカードを1枚ずつ確認していた。
「3は……カードと対象の位置を入れ替える、か。これって『ルール』なのか……?」
俺が小さく唸っていると、スマホから通知音が鳴った。
「キョウカちゃんかな……?」
西木キョウカは郷矢さんの偽名だが、正直こっちの方がしっくりくる。キョウカちゃんも、なんか乗り気みたいだし。
『おう、キョウカだぜ。』
by 酒の入った郷矢さん。機密保全は どこ行った……?
待ち受け画面を見ると、SNSアプリのメールが届いていた。その送り主は、意外な人物だった。
「ハナビちゃん……?」
内容はこうだ。『こんにちは、この前コンビニで会った小石ハナビだよ! 覚えてるかな(笑)』
「忘れる訳ないよ、君みたいな素敵な子……っと。——それにしてもキモいなぁ、俺。」
向こうは女子同士の会話だと思っているけど、俺の正体は警察のおじさんだ。普通にホラー過ぎる。
俺、犯罪者になってないか? 大丈夫なのか、コレ?
『良かったー!』
『もし良かったらさ、今度ボクとデートしない?』
謎過ぎる、可愛いペンギン(?)のスタンプ。赤いハートを抱きながらウインクしてる(?)。
この世界の若者はスゴイなぁ。なんか、うん。こう、何というか……スゴイよね。(語彙が死んでる)
「……ん?」
『無理なら全然言ってね!』
『デート』だとゥ……!? 犯罪じゃねーかッッ!! 無理なら言ってね? うんうん、絶対に無理だね!!
だが、俺は思い出してしまった。ハナビちゃんの無垢な、エメラルド色の瞳を。
あの子は俺……じゃなくて、ユージニとの再会を楽しみにしているのだ。良い歳した大人が、健気な子供の夢を壊すのか?
否。断固として否である。一度着ぐるみを着たなら、最後まで子供の夢を守らなければ。これは大人としての、俺の責任だ。
「大丈夫だよ、いつが良い……?」
『明後日とか、どう……?』
再び舞い降りる、謎のペンギン様。
「いいね、と。……にしても、何してんだろ。俺。」
銀髪の美少女の可愛らしい声が、心なしか俺を嘲笑しているように聞こえる。自分の声のはずなのに。
「……あっ、ファッションどうしよう!?」
黒月凪咲へ 添削してほしい話はここに入れるぜ へろあろるふ @bkuhn
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