『白い息の向こうで』
@yuto3005
『白い息の向こうで』
碧は、今日も教室の隅で窓を見ていた。
みんなの笑い声が遠く聞こえるのに、自分だけ別の世界にいるみたいだった。
「どうせ、ぼくなんか……」
口に出したら、本当にそうなってしまいそうで、碧は心の中だけでつぶやく。
外は白い息が溶けていく冬の朝。曇った窓ガラスに、指で小さく丸を描いた。
そこにふっと風が吹くように、文字が浮かんだ。
──きょうも、生きててえらいよ。
「……え?」
急いで手をこすっても、消えない。
まるで窓が、碧の気持ちを知っているみたいだった。
胸の奥がきゅっとして、涙がにじむ。
誰にも言えなかった言葉。ずっと欲しかった言葉。
“えらい”なんて、誰も言ってくれなかった。
ネガティブな自分なんて、居場所なんてないと思っていた。
碧は小さく笑った。
笑おうとしてじゃなく、自分でも気づかないうちに。
「……ありがと。」
窓ガラスにそっと指で書き足す。
──ぼく、もう少しだけがんばるよ。
白い息がふわりと広がる。
その向こうで、曇った窓に残った文字が、弱い光に揺れていた。
まるで、彼だけの味方がそこにいるように。
『白い息の向こうで』 @yuto3005
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