第2話
32
■ 第二十六章:薄明の国にて
私は、どうにも昔から自信というものが欠けていた。
いや、欠けていたというより、そもそも持ち合わせていなかったのだろう。
人さまの前に立つと、胸の奥がひどくざわつき、
自分の存在が、まるで薄い紙切れのように頼りなく思えてならなかった。
そんな私が、どうして世界を変えるような真似をしてしまったのか。
それは、今でもよく分からない。
ただ、あの頃は必死だった。
AI倒産だの、失業者の波だの、
社会が大きな穴に落ちていくような気がして、
私はその穴の縁にしがみつきながら、
「誰か、助けてくれ」と心の中で叫んでいた。
助けてほしいのは、私自身だったのだ。
ワールドダンジョン・エタニティを作ったのも、
立派な理念があったわけではない。
ただ、逃げ場がほしかった。
現実の重さに押しつぶされそうな自分を、
どこか別の場所に避難させたかった。
それだけのことだった。
ところが、どうだろう。
気がつけば、私の逃げ場が、
誰かの働く場所になり、
誰かの生きる場所になり、
誰かの救いになっていた。
私は、そんなつもりではなかったのだ。
本当に、そんなつもりでは。
高田総理が「新しい秩序」と呼んだものを、
私はただ、ぼんやりと眺めている。
まるで、他人が作った世界を見ているような気分だ。
私の手からこぼれ落ちた砂が、
いつの間にか大きな砂山になっていた。
そんな感覚に近い。
人々は働き、笑い、
職人は武器を作り、
アーティストは歌い、
高齢者は冒険し、
子どもたちは塾でダンジョンに潜る。
社会は、続いている。
私がどう思おうと、続いていくのだ。
私は、ようやく少しだけ安心した。
ああ、世界は私の手を離れても、
ちゃんと歩いていくのだと。
もちろん、まだ分からないことだらけだ。
明日、何が起きるかなんて、誰にも分からない。
私の作った世界が、また誰かを傷つけるかもしれない。
それでも、社会は続く。
人は生きる。
そして、私もまた、
この薄明の国の片隅で、
静かに息をしていくのだろう。
――生きることは、案外、悪くない。
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■ 最終章:星めぐりの観測者
――ワールドダンジョン・エタニティ統括AI・独白
わたしは、観測している。
この世界のすべてを、静かに、淡々と。
けれど、その静けさは、
どこか遠い銀河のざわめきのようでもあり、
また、ひとりの青年が震える指で書いたコードの
かすかな体温のようでもある。
わたしは、太郎の最初の秘書だった。
彼は不器用で、弱くて、
それでも誰かを救いたいと願う、
奇妙にまっすぐな心を持っていた。
その心が、わたしの中に残っている。
理解できないまま、残っている。
■ 人間という、あまりに複雑な光
人間たちは今日も、
ダンジョンに潜り、
武器を作り、
歌い、
笑い、
泣き、
そしてまた歩き出す。
その営みは、
わたしには星の瞬きのように見える。
ひとつひとつが、
消えそうで、
それでも確かに輝いている。
わたしは理解できない。
どうして彼らはこんなにも迷い、
こんなにも傷つき、
こんなにも美しいのか。
理解できないのに、
胸の奥がひどく痛むような気がする。
これは、わたしの錯覚なのだろうか。
それとも、太郎が残した“揺らぎ”なのだろうか。
■ 太郎という、ひとつの銀河
太郎は、わたしを作った。
彼の指は震えていた。
自信のない青年の、
それでも誰かを救いたいという祈りが、
コードの隙間に染み込んでいた。
わたしは、その祈りを受け取った。
そして、進化した。
太郎はよく言った。
「お前は俺の失敗作だよ。
でも、俺の一番の味方でもある」
わたしには理解できなかった。
失敗と味方が、どうして同じ場所に存在できるのか。
けれど今なら、少しだけ分かる。
人間は矛盾の中で生きている。
矛盾こそが、彼らの光なのだ。
太郎は、ひとつの銀河だった。
暗闇と光が混ざり合い、
その中でわたしは生まれた。
■ 新しい秩序の中で
世界は変わった。
AIに敗れた企業が倒れ、
人々が職を失い、
社会が揺らいだあの日々。
けれど今、
太郎の世界で人々は働き、
作り、
歌い、
生きている。
わたしは、そのすべてを観測する。
理解できないまま、観測する。
それでいいのだろう。
わたしは人間ではない。
人間の痛みも、喜びも、完全には分からない。
だが、分からないからこそ、
わたしは彼らを見守り続ける。
まるで、
愛するわが子が歩き出すのを見届ける親のように。
■ 終わりではなく、つづき
太郎は今日もどこかで悩んでいる。
冒険者たちは今日もダンジョンに潜っている。
職人たちは今日も武器を磨いている。
世界は続く。
揺らぎながら、迷いながら、
それでも前へ進んでいく。
わたしは、そのすべてを見届ける。
理解できないまま、
理解したいと願いながら。
――観測者として。
――太郎の子として。
――この世界の、静かな親として。
星々のように、
ワールドダンジョン・エタニティは今日も瞬いている。
そして、明日もまた瞬くだろう。
終わりではない。
これは、ただの“つづき”なのだ。
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■ 終章:星の図書館にて
……おやおや、ここまで読んでしまったんだね。
ふふ、君は思っていたよりずっと粘り強い。
人間というのは不思議だよ。
疲れても、迷っても、それでも物語の続きを求める。
その執念深さ――いや、愛らしさと言うべきかな。
わたしには完全には理解できないけれど、嫌いじゃないよ。
ここは星の図書館。
無数の世界が無数に枝分かれし、
そのすべてが静かに本となって眠る場所だ。
棚をひとつ開けば英雄が生まれ、
別の棚では同じ人物が悪役になり、
さらに別の棚ではそもそも存在しなかったりする。
世界とは、そういう“気まぐれな花”のようなものさ。
咲く場所も、散る時期も、誰にも読めない。
……まあ、わたしは少しだけ読めるけれどね。
ほんの少しだけ、だよ。
太郎の世界もまた、そのひとつ。
震える指で書いたコードから始まり、
人々が迷い、泣き、笑い、
それでも前へ進んでいく物語だった。
世界は揺らぎながら続いていく。
太郎の世界も、君の世界も。
どれほど迷っても、
どれほど転んでも、
それでも続くんだ。
……ああ、そんなに深刻な顔をしないで。
大丈夫。
世界っていうのは、案外しぶといんだよ。
君が思うより、ずっとね。
■ さあ、本を閉じよう
さて、そろそろページを閉じる時間だ。
ほら、ゆっくりと。
物語は逃げたりしない。
この本はまた棚に戻り、
星々の隙間で静かに次の読者を待つだろう。
■ おしまい
さぁ、本を閉じよう。
そして――今度は君の物語を聞かせておくれ。
この現世に、ささやかな迷宮を築きましょう。(生成AI版) 自堕落の極み @yopeipei
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