おわりに——習合の見本市

 弁財天の歴史を振り返ると、その変容の激しさに驚かされる。

 インドの河川女神サラスヴァティーは、言葉・音楽・学問の神となり、仏教に取り込まれて中国を経由し日本に伝わった。日本では八臂の戦闘神として仏法を守護し、やがて財福の神へと性格を変えた。さらに、出自不明の蛇神・宇賀神と習合して頭に蛇を載せ、記紀神話の市杵島姫命と同一視された。

 一人の神がこれほど多くの習合を経験した例は、世界的にも稀である。弁財天は、まさに「習合の見本市」なのだ。

 この多重の習合は、日本の宗教文化の特質を象徴している。

 日本人は、異なる宗教・異なる文化圏の神々を、排斥するのではなく「習合」させてきた。出自が違っても、「福をもたらす」「水を司る」「女神である」といった共通点があれば、同一視し、融合させる。その結果、一人の神が複数の顔を持つようになる。

 弁財天が琵琶を弾く天女であり、八臂の戦闘神であり、蛇を頭に載せた奇怪な姿であり得るのは、この習合の論理による。どれが「本当の」弁財天かという問いは、日本の宗教文化においては意味をなさない。すべてが弁財天なのだ。

 七福神の紅一点・弁財天は、日本という土壌で花開いた習合文化の、最も華やかな結晶である。


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 次回予告


 第三話では、七福神で唯一の「日本産」とされる恵比寿を取り上げる。しかし、恵比寿の正体は極めて曖昧だ。記紀神話には「恵比寿」という神は登場しない。蛭子か、事代主か、それとも海から漂着した「まれびと」か——恵比寿の謎を解き明かす。

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【神の源流】七福神② 弁財天 くるくるパスタ @qrqr_pasta

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