〆を決めて
小狸
掌編
ようやく、である。
ようやく年末の大掃除が終わった。
最後に残しておいた書棚の整理整頓が、やはり一番時間を必要とした。元々雑なくせに変なところに拘泥するゆがんだ完璧主義という、もはやこの世の終わりのような性格をしている私ではあるけれど、書棚に関しては、色々とこだわりたいと思っていた。
ここまでいくと、こだわりというより、もはや主義かもしれないが。
そんなこだわりをここで明かすような真似はしない。奇人変人扱いされて敬遠されるのが関の山だと分かっているからである。故にここは秘伝の「読者のご想像にお任せする」という文言を使わせていただこうと思う。無論、人様に迷惑を掛けない程度にこだわっている、という注釈も、忘れてはならない。
結局、半日程度、書棚と向き合っていたことになる。
増えたなあ、本。
そう思う。
私は一人暮らしで、部屋も決して広くはないので、室内に持ち込むことができる書籍の量には限界がある。その限界をどれだけ誤魔化すか、というところに、私の度量、というか技術が試されるわけである。
一人暮らしを始めたのは、大学一年生の頃からである。当時からずっと同じ書棚を使っている。確か、第一志望大学に受かった祝いも兼ねて、親が色々と生活用品を揃えてくれたのだ。
最初は空虚だった書棚にも、今ではみっちりと、隙間なく、しかし余裕を持って、書籍が敷き詰められている。
ふと、私は思った。
今年最後には、何を読もうか。
いや、別段今年の締めくくりを大団円としたいわけではない。今の私の生活は、そういった華々しいものとは、むしろ無縁である。世間一般的にいうような普通の社会人としての生活を送りながら、物語を読み、物語を書いた、そんな一年だった。波乱万丈というほどではなかったけれど、何もないわけではなかった。
そんな一年の最後を飾る一冊、か。
私は、「これだ」という一冊を持たない主義である。
具体的に言うと、書籍に関して序列付けをすることをしない。
まあ、しないというか、できないのだが。
故に、週刊少年ジャンプを購入した際には、毎度読者アンケートを出すのにとても苦労する。「面白かった作品3つを、面白かった順に」書いて出す必要があるのである。これがとても難しい。いやいやだったら出さなければ良いじゃんという話かもしれないが、そこで発揮されるのが、前述した謎のこだわりと完璧主義、というわけである。
特にその主義には、理由があるわけではない。ただ、私がそうしたいと思っているから、そうする、という、ただそれだけの話である。
ただ、それと同時に、きちんと締めくくりをしたい、(了)の文字を見たい、という欲求もまたあるのだから、もう大変である。
さて――どうしようか。
ちなみに、今年の初めはとある有名作家の、創作者たちの物語を読んだ。
素晴らしい作品を作る者が、素晴らしい人間であるとは限らない。
それを体現し表現するかのようなその小説は、私の大好きな作品の一つである。中学時代に購入してからというもの、もうずっと読んで、読み込み過ぎて――表紙が擦り減ってしまっている。それでも飽きないというのだから、私は本当にこの小説が好きなんだろう。序列は付けないとか言っておいて、都合の良い完璧主義も良いところである。
ならば――。
ならば、創作に関わる何かが良いのではないか。
そんな安直なことを考えていると、ふと一冊、書棚に陳列し忘れている本があることに、気が付いた。
不覚である。
私としたことが。
陳列し終えたと思い、満足してしまった。
そう思って、背表紙の側になっているその書籍を手に取って。
表紙を見た。
すると――果たして。
集英社の、藤本タツキ先生の短編漫画、『ルックバック』であった。
「…………」
この一年は、仕事とプライベートと並行して、創作に打ち込み、熱中し、耽溺した。
作中の登場人物たちのように、一発で賞を受賞することは、できていない。10歳の頃から創作を始めて、分かっていたことだった。私は天才ではない。私は秀才ではない。
それでも。
結果は出ずとも、報われずとも、頑張り抜いて、生き抜いた。
私は漫画に全力で自己投影できるほどに、もう子どもでもないけれど――大人になってしまったけれど。
そんな一年の〆には、ひょっとするとこの本が良いのかもしれない、と。
私は思い、書棚の中の「次に読む本」の領域に、その本を置いた。
来年も良い一年になりますように。
良い
そう願って。
(「〆を決めて」――了)
〆を決めて 小狸 @segen_gen
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