境界線
木村玄
第1話
瞼を擦る。
珈琲を一杯。
服は着替えず、寝癖も直さず、ただ帽子をかぶる。
ローファーを履く。靴紐はない。
人がいない道を、枯れ葉のみが歩いている。
家から徒歩6分のコンビニで水を買う。
25分歩き、駅に着く。
人がいる。
イヤホンを付け、遮断する。
歌詞はない。声もなく、ピアノだけが鳴り響く。
改札を抜ける。
秋風が頬を少し赤らめる。
人の声はピアノに溶け、聴こえない。
電車は到着し、人が降りる。
逆光するように、僕は乗り込んだ。
人がいない。
いや、人がいた。
変わらない日常を、今日もまた一歩。
三十一分の、長くも短い微かな揺れ。
車内に貼られた多種多様で馬鹿げたポスター。
対向窓に映る、帽子をかぶった私。
目に映るの描写は1秒経たずとも変わっていく。
田舎から下町に変わるこの瞬間。
感覚の収束線となり、心安らぎ、人となる。
下車駅のふたつ前。
ドアが開くと人が増え、感覚が沈んでいく。
目に見える人、皆、猫背になっている。
滑稽だ。いや、美しい。
駅員の声がする。
下車駅の高低で、
私のなかに、今日も、喜びが満ちた。
境界線 木村玄 @kimumu14
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