おじさん、JKとクリスマスデートをする

有原優

クリスマス

 俺はクリスマスの街中をゆっくりと探索している。

 ただただ、俺の中にはびこる負の気持ちを整理する整理するために。



「あー、彼女欲しい」


 俺は街中で叫ぶ。その言葉に、周りの人たちがびくっとし、俺の近くから去っていく。

 ああ、今絶対にやべえやつだって思われたな。


 まあ、実際にやべえやつなんだが。



 俺は今日、仕事終わりにここにやってきた。意味などない。あるはずもない。


 ああ、馬鹿らしいよな。なんでさあ、わざわざクリスマスの日に、仕事をして、どの帰り道にカップルどもを見なきゃならねえんだ。


 俺はお前らがキャッキャフフフしている間に、人様のために仕事をしてたんだぞ。

 おい、そこの女。インフラは誰のおかげで回ってると思うんだ。

 おい底の馬鹿そうなチャラ男。誰のおかげで電気が通ってると思ってんだ。


 あーくそ、そんなことを言ってやりてえよ。でも、そんなことを言う優希なんかねえよ。

 俺はどうしたらいいんだよ。




 家に帰れば酒はある。だけど、家まで待てねえ。まだ15ふんぐれえ歩く必要があるからな。

 俺は、コンビニに行き、缶ビールを買った。そして近くのベンチに腰掛けて、ビールのふたを開けた。


 ごくっごくっ飲んでいく。

 もうこうなったらやけ酒しかねえ。

 飲んで飲んで飲みまくるしかねえ。

 幸いさっき5本セットで勝った。まだまだ酒はいくらでもある。


 飲む、飲む、とにかく飲む。


「あーおいしいなあ」


 街中のやつらは馬鹿だ。デートなんか言う行為よりももっと大事なことがあるのに、

 酒の方が美味しいってんのに。



「ねえ、おじさん」


 唐突にそんな声がする。

 俺はすぐに振り向いた。


「それ美味しい?」


 そこには、可愛らしい美貌を舌女がいた。


「は?」


 俺はおもわずそう、言葉を吐いた。


「何を言ってんだよ」

「それ美味しいの?って聞いたの」

「美味しいぞ」

「え、ほんと?」


 そう言って彼女は俺のビールを一つとり、飲んでいく。その手際の良さに、俺は暫くビールを取られたことに気が付かなかった。


「は? お前何をしてんだよ」

「さけのんでまーす」

「っ誰の酒だと思って」

「あたしのでーす」


 どういう事だ。この女は俺以上にいかれてんのか?

 まったく意味が分かんねえ。


「ねえ、おじさん」

「なんだ?」


 それに俺はまだ28。まだ若いのにおじさんとはいったいどういう事だよ。


「これ、苦い」


 そう言って少女はビールを飲みながら舌を出す。


「お前なん歳だ?」

「17!!」

「だめじゃねえか!!」


 俺は思わず叫ぶ。制服だから、未成年じゃないとは思ってたが、やはりか。


 堂々と未成年飲酒。犯罪だ。待てよこれ、俺が酒を飲ませたことになんねえか?


「なにさせてんだ」

「あはは、いいじゃーん」


 しかもこいつ。たったのあの量で酔っている。

 思えば苦いと言っていた割にはそこそこ飲んでいた。

 あーもう!!


「眠たい」


 そう言って俺の肩に乗っかられる。


 寝ている。俺はどうしたらいいんだ、なんて疑問はもう口にしない。


「仕方ねえ」


 こいつは連れて帰らねえといけない。

 このまま放っておくことはできない。

 この世には変態も多い。こいつがなぜ俺に話しかけて来たかは分からねえが。このまま放っておくわけにはいかないのも分かっている、



 連れ帰ってきてしまった。

 普通に今考えてしまう。普通にこれ犯罪だ。誘拐とかに当たるんじゃないか。何も考えていなかった。

 最悪だ。


 まさかクリスマスに、犯罪者確定演出が来るなんて。

 だけどあのままベンチに寝かせておくのもだめだったわけで。

 ああくそ畜生。脳内が暴走している。

 色々と変な思考が巡りに巡って訳が分からなくなる。


 とりあえず起きるのを待つか。そう思い俺は残りのお酒もどんどんと開けていき、飲んでいく。


「あえ」


 そう言って、彼女が起き上がったのは家に連れ帰って1時間後だ。

 起きて欲しかったのは事実。だけど、起きて欲しくなかったのも一つ。

 何しろ起きられたら、無断で家に連れ帰ったことに対して、文句でも言われそうな気がする・


「あ、おじさん!」


 こちらを見る。俺は今いったいどんな顔をしているのだろうか。険しい顔でもしているのだろうか。

 どうか、怒られませんように。


「おはよー、連れ帰ってきてくれたんだねー、いやーほんとーに感謝だよ」

「感謝?」

「うん、ほんと―に感謝」


 それは一体どういう意味か、俺にはすぐには理解が出来なかった。


「あたしねー、ねてたっしょ?」

「ああ」

「寝てたら襲われたりすんのかなーって、でもさ多分あたし襲われてないんだよね、だから感謝感謝」


 そう、少女は軽い口調で言う。


「怒ってたりとかしないのか」

「なんで? 怒る理由がないっしょ」

「そっか」


 なら安心だ。俺はまたビールをゴクっと喉に流し込む。


「ねえ、おじさん」

「何だ?」

「SEXしてもいいよ」


 ブハッ

 俺は飲んでいたビールを吹き出してしまった。


「何を言ってるんだ」

「え、おじさんムラムラしてない?」

「ムラムラなんて気軽に言うな」


 そもそも、今!俺が!むらむらしてないなんてことあるわけあるか?

 俺だつて男だ。

 勿論、無抵抗な女を襲おうなんて一切思わないが、それでも年相応に性欲はある。

 それに今日はクリスマスだ。クリスマスはたまに性なる夜と揶揄されることがある。

 それは、カップルはこの日に行為をすることが多いからだ。


「本当に?」

「ああ。だからそんな事を気軽に言うのはやめてくれ」


 流石にそろそろ理性が働かなくなってくる。


「男の性欲をなめないでくれ」

「じゃあ発散すればいいじゃん」

「家から放り出すぞ」


 そもそも、寝かせてやったんだ。

 もうこの家に置いておく義理はない。


「あー、もうやめてよ。あ、でも一つお願いがあんだけど」

「なに?」

「あたしと一緒にデートしてくんない?」


 そのお願いは意味が分からなかった。

 その誘いをわざわざ俺に?


 そもそも、一応8歳年上のはずだ。

 そんな俺に頼むお願いじゃねえ。


「お前、親は?」

「親はあたしの事なんて見てくんないよ」

「見てくんない?」

「うん。だからおじさんがいいの」


 俺はこの言葉に、どう反応したらいいんだろうか。


「あたしはさ、自分の事をめちゃくちゃにしたいの。最悪死んだっていいんだから」

「だから、俺に身を任せたいとでもいうのか?」

「うん。だからあたしを襲ってもいいし、あたしに意地悪をしてもいい。あたしは、クリスマスにめちゃくちゃにされたいの」


 その言葉。俺はどれほど信用していいのだろうか。だけど、少なくともわかる事は、


「俺に訊かせてくれよ。俺でいいなら話を聞くから」


 このまま破滅感情に身を任せるわけにはいかない。


「あたしはさあ、さっきも言ったけど、親から見られてないんだよね。所謂放置後っていうか、鐘だけおいて好きにしてって感じなんだよね。だからさ、あたしには友達出来ないの。当たり前だよね、あたしにはお金がないんだもん。スタバ行こうよとか言われても、マック以降よって言われても、あたしには行けないの。だからクリスマスもしょうもない事なの。チキンも食べられないしケーキも食べられない。そんなんに意味がある?って。だから自棄になってたんだけどさ、あたし波長あったと思ったの。おじさんを見た時にさ、この人もクリスマスの事をしょうもない事とみなしてる人間だって。だからあたしはおじさんに話しかけた。その後めちゃくちゃにされてもいいやって」

「だから俺に襲われたかったのか?」


 その言葉に少女は頷く。


「俺が言うのもなんだが」

「分かってるよ。これがばかげた行為ってことは」そう言い切った彼女の顔には、確かな決意が見えた。


「本当に俺にめちゃくちゃにされてもいいのか?」

「っうん!!」


 そんな彼女にしてやれることは一つしかない。


「デートだけは付き合ってやる」


 俺は彼女に対し、そう言った。

 彼女の気持ちを晴らすために、


 そして、満足してもらうために。


「ありがとっおじさん」

「俺はおじさんじゃない」


 まだ28だ。30にすらなっていない。


 そして俺は彼女と手をつなぎながら歩いていく。普通に考えてJKと手をつないでるの未成年何とかの罪になるのではないか、なんて不安が生じる。


 だけど、その手が暖かかった。だからこそ、ドキドキする。

 そして俺も結局ただの性に囚われた獣だという事なのか。


「ねー、おじさん」

「何だ?」

「あたしさ、こうやって手をつないでもらう事が夢だったのかもしんない」

「それは、どういう意味だ」

「おじさんの手、暖かいんだもん」

「暖かい、か」


 その言葉。


「おじさん照れてない?」

「照れてない」


 照れてない。それは嘘になる。

 しかし、それを安易に認めたくないという気持ちがある。


「ふーんそっかー」


 凄いニヤニヤしてんな。


「あたしの魅力伝えてあげる」

「はいはい。そもそも今の状況は俺にとっては完全に夢の様だからな」

「夢だと思ってくれるのー?」

「ああ」


 そもそも先程からこの子、だいぶ攻めてるんだよな。


 俺に対してだ。


「なあ」

「どしたの?」

「俺でいいのか?」


 その言葉に対し、彼女は首をかしげる。


「大丈夫だよ。おじさん自信もって、かっこいいよ」

「そうか、ありがとう。なあ、君は今日どこに行きたいんだ?」

「あたし? てかさあ、君っておかしいよね」

「そりゃ、君だろ。名前知らないんだから」

「あー、そっか。あたしそう言えば名前教えてなかったね。あたしは瀬原渚だよ」

「渚」

「いきなり下の名前なんて、受ける」

「うるさい」


 俺は仕返しとばかりに、彼女――渚の手に力を入れる。すると、「痛い痛い痛い」と、目に見えるように痛がる。


「そう言えばおじさんは?」

「佐々木誠也だ」

「誠也君」

「なんで君付けなんだ」

「いいじゃん」



 そして俺たちはどんどんと先へと進んでいく。


 街中の景色を眺めている。


「あたしはさ、こうして手をつないでいるだけで満足。おじさんは?」

「俺もだ」

「JKの手だから」

「そんな事はどうでもいい。君だからかな」


 もう既に俺の心は、渚に、10もしたの少女に解凍させられつつある。

 渚と会うまでの廃れ切った俺の心はもうどこに行ったんだ。


「たぶんさ、もうそろそろ解散になるけどさ」

「おう」

「今日の事は忘れないと思う」

「俺もだ」



 そして俺たちは、空を見上げる。


「ねえ、おじさん。クリスマスにデートできてうれしかったよ。周りの人に、パパ活って思われてそうなのが嫌だったけど」

「そりゃな」


 制服姿のJKと歩いててパパ活だと思われない理由がない。

 俺が父親の年齢じゃなかったとしても。


「でもお金は貰ってねえから」


 そもそも、むしろ酒飲まれてるからマイナスなんだよな。


「また会ってくれる?」

「まあ、いつかな」


 俺がそう言うと渚はニコッと笑った。


「じゃあ、またね」

「おう」


 そして俺のクリスマスの夢のような出来事が終わりを告げた。

 今でも夢の様だった。


 俺は渚が去った後の空を見る。


 それは星が輝いていて奇麗だった。

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おじさん、JKとクリスマスデートをする 有原優 @yurihara12

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