海とブルー

天気

第1話

「ねえ、なんでお前はここにいるの?」

不思議だった。

見たくもねえ海にいるやつは、俺だけで十分だ。

「なんでだろうな」

「誤魔化すなよ」

目を見ても,逸らされる。

「何も変わらないから」

「はあ?」

俺は、人生が終わるならここでいいと思ってる。

弟が海に飲まれて、俺も飲み込まれかけて、結局吐き出された。

「何も変わらないから,好きだな」

海は,そんなもんじゃない。

「お前,本気で言ってんの?」

のうのうと生きてるこいつにビンタしたら、どんな顔をするのだろう。

きっと、平然としてるんだろうな。

「まあ、お前にはわかんねえか」

「そうか」

ちょっとぐらい聞いてこいよ。

波の音がする。

ずっと、ずっと。

彼はこっちも見ずに、言葉を発した。

「おれが死んでも,海は悲しまないんだぞ」

「悲しまれないのは嫌だろ」

「そうだな」

変わってやれよ。

でも、そもそも海は変わり続けている。

人を飲んで、木を噛み砕いて、生き物を飼って。

「どこいったんだろーな」

弟はこの海の,どこにいるんだろうな。

「なにが」

「別に,何も」

適当にはぐらかせば、彼はそっぽを向いてしまった。

もっと、気になることないのかよ。

ほんと、お前って

「変わんねえな」

波が強くなってきた。

「おまえもな」

「はあ?」

わけがわからない。

ずっとそうだ。

こいつも、いつか波に飲まれるのかな。

「なあ、もっと近づこうぜ」

「遠慮しておく」

なんだ,つれねえな。

俺は,海岸に座りなおした。

「この距離感がベストなんだ」

「映えるってか?」

「かなりな」

よくわからない。

どのアングルから見ても、オレンジがかった黒に見える水達が広がってるだけだ。

「触れてみたいって思わねーの?」

「もう思えないな」

気に食わない。

「そーゆーとこどうにかしろよ」

「どういうとこだ」

あー、もう。

むしゃくしゃは,しないけど。

免許持ってないやつのバイクに乗せられているようだ。

海は平等だの変わらないだの。

こいつがそもそも落ち着かないので,説得力がない。

「なあ、そろそろ俺…」

帰らないと、いけない。

一応ガキでも、働くぐらいはしてる。

「そうか」

「…」

午後のチャイムが鳴る。

ちょうど、弟と海に行っていた時だ。

「お前はさ、なんで…」

ずっと、こいつは海を見てる。

変わらないのが海というなら、おれは一体なんなんだ。

波の音がする。

ずっと、ずっと。

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海とブルー 天気 @Laikinto6913

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