ミツバチのブンとビーとハニー

くっすん

第1話 ミツバチのブンとビーとハニー



春が来ました。

森の木々が芽吹き、花の香りにあふれたあたたかな朝です。

森のはずれのサクラの木の穴に、ミツバチたちの巣がありました。

そこに、3匹のなかよしきょうだいの、ブンとビーとハニーがいました。

まだ子どもなので、花からミツを集めるれんしゅうのまっ最中です。


「この青い花のミツはとってもあまいぞ!」

好奇心いっぱいのブンは、何でも試してみるのが大好き。

「でも、茎のトゲがいたそうだなぁ。」

慎重なビーは少し心配顔です。

「下からツルの間をすり抜けて、花びらの上にとまればいいのよ。」

ハニーは大きな目をくるくる回してにっこり笑いました。


ある日、3匹がいつものように森の中を飛んでいると、

「たすけて~!」という声が聞こえてきました。

「行ってみよう!」ブンが言います。

「気を付けて!クモの巣があるわ。」ハニーが言いました。

「ホントだ。でも、風もないのにキラキラ光ってる。」ビーがささやきます。

そっと近づくと、クモの巣にチョウのおばさんがからまっていました。

「動いちゃダメ!」ハニーが強い声で言います。

「あばれるともっと糸がからまっちゃうわ。

まず、5本目の足の糸からほどきましょう。」

3匹は力を合わせて、クモの糸を少しずつほどいていきました。

「最後の1本だ!」ブンが糸をバチンッと切ると、

チョウのおばさんはふわりと空に舞い上がりました。

「ありがとう!ありがとう!」

チョウのおばさんはうれしそうに何度もお礼を言って、

青空の中に消えていきました。


それから少したって、3匹が森の中を飛んでいると、

ブンがはなをヒクヒクさせました。

「下の方からうっとりするくらい良いにおいがしてくるぞ!」

「ブン、気をつけて!」ハニーが言いましたが、

ブンは聞かずにブ~ンと羽音を立てて急降下します。

ビーとハニーが追いつくと、ブンが指をさしました。

そこにはハエトリグサが生えていて、

大きく開いた葉のすきまにアブのおじいさんがいました。

「うい~、いい香りだ。何だか足もしびれてきた。」

おじいさんはうっとりしています。

「おじいさん、それハエトリグサだよ!

良いにおいで油断させて食べられちゃうのよ!」ハニーが小声で言いました。

「なんじゃ、いい気分なのにジャマするな!」

おじいさんは赤い顔で笑っています。


その時、ハエトリグサがピクッと動きました。

「危ない!」3匹は顔を見合わせます。

「ジャマするな!だって、放っとこうか?」ブンがつぶやくと、

「ダメよ、助けてあげなくちゃ!」ハニーがそう言って、

ビーに「あの枝を使いましょ。」と耳うちしました。


ブンとハニーは「いち、にの、さん!」で

おじいさんの触角を引っ張りました。

「イテテッ、なにをするんじゃ!」おじいさんがあばれたので、

ハエトリグサがピクッとふるえて、そのまま葉を閉じ始めました。

「大変だ、間に合わない!」ブンが叫んだ時、

ビーが太い枝をくわえてきて、葉っぱのあいだにかませました。

ガチッと音がして、閉じかけていた葉っぱの動きが止まりました。

「今のうちよ!」

「うんしょ、うんしょ!」3匹で力を合わせると、

おじいさんはドロドロの中からスポンと転げ出ることができました。


「助かった・・・、わし、あのままだったら食べられていたかも知れない!」

おじいさんはそう言って、ブルッと体をふるわせました。


そんな日々を過ごす内に、ハニーの体はだんだん大きくなって

いつの間にかブンやビーよりも大きくなっていました。

とくべつにローヤルゼリーを食べていたからです。


ある日、3匹の前に大きなスズメバチが現れました。

カチカチと大きなアゴをならして、

「お前たちの巣はどこだ?言わないといたい目にあわせるぞ!」

とおどしてきました。

「相手にしないで行きましょ!」ハニーが言うと、

スズメバチはハニーの羽根をつかんでかみつこうとしました。

ビーはハニーをかばって言いました。

「わかったからハニーを放して。

ボクたちの巣は、あのサクラの大木の穴の中だよ!」

それを聞いて、スズメバチはにやりと笑ってどこかに飛んで行きました。


翌朝、ブ~ンという羽音と共に、スズメバチの群れが巣をおそってきました。

その数、10匹。

巣には400匹のミツバチの仲間がいます。

仲間の数は多いけれど、スズメバチは体が三倍も大きくて

強力なアゴをもっているので、戦いはあっという間に不利になりました。


「ビーが巣の場所を教えたからだぞ!」ブンがどなりました。

「ビーのせいじゃないわ。私を助けようとしただけよ!」

ハニーはビーをかばいましたが、ブンはおこって飛んで行ってしまいました。


その時、枯れ葉のかげから声がしました。

「お~い、わしじゃよ。アブのじいさんじゃ。」

「あぶないから下がっていて!」ハニーが叫ぶと、

「わしをたすけてくれたお礼に、ええこと教えてやる。

スズメバチの体にみんなでくっつくんじゃ!」とじいさんが言います。

「そんなことしたら、スズメバチにやられちゃうよ!」ビーが答えると、

アブのおじいさんは「力を合わせておしくらまんじゅうをして、

みんなで温めるんじゃ。ぎゅうぎゅうに熱くすればやつらが先にまいるぞ。」

と言ってVサインをしました。


アブのおじいさんの言葉にみんなはおどろきました。

「勝てるかも知れない!」とみんなが思いました。

でもこわくて足がすくんで、だれもスズメバチに飛びかかれません。


「え~いっ!」ビーが勇気を出してスズメバチに飛び付きました。

スズメバチはふりほどこうとしてはげしくあばれます。

スズメバチのアゴがガチガチと音を立てて

ビーの身体に届きそうになりました。


そこへ、どこから現れたのかブンが

「ビー、オレも行く!」と叫んでまっすぐスズメバチに飛びかかりました。

それを見た仲間たちも次々に飛びかかって、

あっという間にスズメバチたちはミツバチのたいぐんに

ぎゅうぎゅうにつつまれてしまいました。


ミツバチたちの体は熱く輝いて、

スズメバチの羽根がジュッと音を立ててちじみます。

「熱い、苦しい、助けてくれ!」中からスズメバチの悲鳴が聞こえてきます。

「こうさんだ、にげろ!」

ボスの声とともに、スズメバチたちは去って行きました。


たたかいは終わりました。

けれど、巣はこわされ、女王バチもたおされてしまいました。

「帰る家もないし、女王様もいない。これからどうしたらいいんだ・・・。」

ミツバチたちはオイオイ泣き始めました。


その時、ハニーが立ち上がりました。

もう体はブンたちの5倍ほどもあります。

「みんな聞いて!新しい土地に行って、一から巣を作り直しましょう!」

その姿はもう、立派な女王そのものでした。


「でも、どこをめざせばいいんだ?」ビーがつぶやいた時、

ヒラヒラとチョウのおばさんが飛んできました。

「みなさん、あの時は助けてくれてありがとう。

お礼に私たちのとっておきのお花畑を教えてあげるわ。」


案内された先には、見わたすかぎりに色とりどりの花が

ユラユラとゆれていました。

「すごい・・・なんてすてきなところでしょう!」

ブンもビーもハニーも、思わずいきをのみました。


ミツバチたちはそこに新しい巣をつくりました。

今日も、せっせと花から花へ飛びまわって、

甘くておいしいミツをたくさん集めています。


どんなにたいへんな事があっても、みんなで力を合わせれば、

きっと乗りこえられる。

お日様の光が森いっぱいに広がって、

小さな命たちをやさしくつつみこみました。


おしまい

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ミツバチのブンとビーとハニー くっすん @kusugaia

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