折りたたんだ時間

@REDDAY

第1話

 雨が降りはじめていた。

 帰り道のコンビニ前で、私は一瞬だけ立ち止まった。

 濡れたアスファルトが街灯を映し、

 白い光が薄い膜のように揺れている。

 湿度よりも、その揺れの方が先に肌に触れた。

 傘は持っていなかったが、そのまま歩こうと思った。

 濡れることよりも、いまは、

 この静けさに身を置くほうが楽だった。

 視線をずらすと、文具店の灯りが見えた。

 ガラス越しに見える棚の一段に、

 淡い橙色の便箋が並んでいる。

 ――ああ、似ている。

 十年前に受け取った便箋の色と、

 その折り目の薄さと。

 気がつけば、私は店に入っていた。

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