路上占い、あれこれ155【占い師は逃げる】

崔 梨遙(再)

ディナーに 2118文字 は、いかがですか?

 僕が夜のミナミで路上占いをやっていた時の話。僕には立花さんという50代後半のハゲ&チビだけど親の遺産で金持ちという常連客がいました。この立花さんは若い処女を追い求めていました。15歳の中学3年生を引っかけてきたとき、僕は本気で怒って立花さんに説教をした。確かに説教をした。滅多に怒らない僕が怒った。なのに、ああ、それなのに・・・立花さんは今度は中学1年生をひっかけてきた。



『立花さん! 中1って言ってるんですけどー!』

『うん、ええやろ?』

『何がいいんですか?』

『俺の今夜の相手にええやろ?』

『君、名前は?』

『私? 杏子(あんこ)』

『杏子ちゃん、なんで君はこのオジサンについてきたの?』

『食事に付き合ったら1万円くれるって言うから。ただそれだけやけど』

『いやいや、わかるやろ? 食事の後、もっとすごい誘いがあるって』

『うん、「ホテルについてこい」とかやろ? 断るもん』

『良かった-! 正常な中1で良かった-! マジ良かった-!』

『崔さん、アホやな』

『え? なんでアホなんですか?』

『人間は金で変わるんや! 杏子ちゃん! 食事の後、お金を払うからホテルに行かへんか?』

『うーん、金額による』

『杏子ちゃんは処女なんか?』

『うん、勿論』

『処女やったら10万渡すで-!』

『安っ! 私の中1の処女がたったの10万なん?』

『いやいや、処女やったらもう少し渡すで。15万か?』

『話にならへんわ。オッサン、自分のキモさわかってないんか? 私の初体験があんたになるんやで! トラウマものやで! 私、初体験を思い出す度にオッサンを思い出すことになるんやから、そういうこともちゃんと考えてや』

『ほな、16万か?』

『なんでたったの1万アップやねん?』

『わかった、17万!』

『1万単位で値上げすんな! もっと思い切って値段アップしてや!』

『わかった! ほな、20万!』

『それが最低ラインやで。問題はそこからどこまでアップしてくれるかや』

『えー!? って、崔さん、椅子をたたんでどこに行くねん?』

『僕、今日はもう帰ろうと思って』

『アカン、アカン、ここにいてくれや』

『じゃあ、向かいのカフェで値段交渉してください。売春の値段交渉を見たくもないし聞きたくもないです。僕は無関係ですからね』

『わかった。ほな、杏子ちゃん、カフェに行くで』

『ええよ』

『マジで行くのかよ・・・・・・』



『やっと目の前から消えたか・・・って、なんで窓際に座るんだよ!? ガラス張りだから交渉してるところ丸見えやんけ。おいおい、通報するぞ、僕が・・・』


『ああ、どうなるんやろ? 気になるなぁ・・・お願い、杏子ちゃん、断ってくれ』


『あ、2人がカフェから出て来た。うわ、手を繋いで歩いてる! あ、立花さんこっちを振り返って笑顔でピースしてる! どういうこと? どういうこと?』



『やっほー!』

『うわ、ビックリした! 杏子ちゃん? ホテルに行ったの?』

『うん、行ったで』

『うわ! 処女喪失?』

『ううん、オッサンがシャワー浴びてる間に逃げて来た』

『お金は?』

『もらったに決まってるやんか!』

『なんぼ?』

『30万~♪』

『まあ、売春が成立しなくて良かった。立花さん、捕まるところだったよね。待てよ、杏子ちゃん、30万だけもらって逃げるって、それも犯罪やんか』

『うふふ、また来るから、その時は占ってや! 友達連れてくるわ。あ、処女はほんまやで。ほなまた!』

『中1が夜遊びしたらアカンで!』

『はーい! また来るけどね』

『・・・・・・』



『・・・ということですので、お客様の恋愛運はちょうど今月から良くなっています。好きな人がいるのでしたらアタックしましょう、誰かがお客様のことを好きならそちらを選んでも構いません。選べる運気、モテ期です!』

『やったー! モテ期最高! 出逢いはあるの?』

『出逢いはあります。半年間は運が良いので積極的に出会いの場に行ってください』

『わかりましたー!』

『崔さん・・・・・・』

『きゃっ! 誰ですか? この人。これも出逢いですか?』

『お金持ちですけど、どうですか?』

『お金持ちでもこの人は嫌です』

『じゃあ、出逢いじゃないです』

『私、帰ります。それじゃあ!』

『崔さん・・・・・・』

『立花さんが急に現れるから、お客さんが慌てて帰ったじゃないですか!』

『崔さん・・・杏子ちゃんとホテルに行ったのに、俺が風呂に入ってる間にいなくなってしもうたんや』

『あ、そうなんですか。良かったですね、犯罪を犯さずに済んで』

『俺、30万も盗られたんやぞ! これも犯罪やろ?』

『あのね! 僕は立花さんに罪を犯してほしくないんです!』



『崔さんー!』

『あ、立花さん・・・なんなんですか? その子は?』

『今、引っかけてきたんや』

『君、歳は? 何年生?』

『私? 小6やけど』

『立花さーー!』

『そう怒らんといてや、俺は若い処女を食いたいねん!』

『私? 私、処女とちゃうで。彼氏おったし・・・』

『崔さん、どないしたんや? うずくまって』

『これは夢だ・・・夢に違いない・・・』

『いやいや、崔さん、めっちゃ現実やんか』

『ああ、きっとここは地球に似てるけど違う星なんだ、僕、いつの間にか違う星に来ていたんだ、そうに違いない・・・』

『何を言うてるねん、崔さん。めっちゃ地球やんけ』



『現実逃避させてくださいよー!!』




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路上占い、あれこれ155【占い師は逃げる】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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