除け者とスクール(3)
お昼を食べると言っても、食堂は人でごった返している。
そうなると、私たちは校舎裏に向かうしかなくて……液体になったオカズとか、吸引型のお菓子とか、そういう購買で売っているものを買うことすらしないで、足を動かす。
幸いなのか、校舎裏に先客はいなかった。というか、キツネの少年に「辛気臭い場所だし」と言われたので、スクールの生徒に校舎裏で昼飯を食べるという考えはなさそうだ。
「……」
「名前、教えてくれますか」
そういえば聞いていなかったな、ぐらいのトーンで聞いた。
こわばっていた彼は、力を抜いて「ドニスタだよ」と答えてくれた。それが癪にきた私は、そのままのトーンで「あれ、虐めっ子たちに差別用語を持ち出させたの、ドニだよね」と言う。
明らかにこわばったドニスタは、尻尾を膨らませた。
「僕がなんだって?」
「あいつ、私が周りの生徒を『宇宙人』と認識してるって言っていたけど、それ吹き込んだのドニじゃないかなって」
根拠なんてない、ただの勘なんだけどね――そう、付け足す前にドニスタは「僕が卑怯な手をつかって、失望したよね」と自白した。なんだこの素直なキツネは。つままれた気分になったのですが。
「いや、別に」
「え?」
「元から期待してないから。失望とかないし」
そんなことを言いつつ、私は持ってきていた鞄から『いちごオレ』を取り出す。無言で差し出せば、ドニスタは受け取ってくれた。
「昨日のお返しぐらいはするけど」
「……ごめん」
彼は頭を下げて謝った。それから何てことない顔で「実はいちごオレ嫌いなんだよね」なんて付け足すから、思わず腹パンをしてしまった。これに関しては、ドニスタが悪いと思う。
「こんなことあった上で言うのあれだけど、女子生徒の前で襲う話するデリカシーのないやつらだと思わなくて」
携帯食を頬張った彼は、口をもごもごさせたあと、盛大に愚痴を吐いた。
友達だと思っていた三人組との関係が、だんだん変わっていったこと。遊んでいるというより遊ばれている感覚に辟易していたこと。
決定打は、主犯の生徒が好意を寄せている女子生徒がドニスタをかばったことにあるそうだ。全部、嫌そうな顔で語ってくれた。
「助けてくれる女の子がいてよかったですねー」
「……あれ、助けたって言えるのかな。中途半端な介入のせいで、僕はクラスから浮いたわけだし」
話がコメディタッチじゃないぞ、なんて慌てた私は、話題を変えることにした。例えば、いつも携帯ゲームをしている二人組のことを聞いてみたり。
「あの二人は、変わっているっていうか、なんか独特で怖い」
「助けてくれたけど」
「常識は知ってるみたいだよ」
まるで常識知らずが多いと言っているようにも聞こえる。いや、あのクラスの八割は常識を知らないか。
あの二人も常識的な人に見えなかったけどなーと、仕方なしにいちごオレを飲んでいたら、チャイムの音が聞こえてくる。
「そろそろ戻ろうか」
「そうだね……」
昼食と言いながら、ほとんど喋っていた。まあ、いちごオレがあったから喉は乾かなかったけども。
できることなら、助けてくれた青年にもお礼をしたい、と思う。どう声を掛けようか、なんて考えながら教室を目指した私は、また別の面倒ごとに巻き込まれるとは全く思っていなかった。
そう、例えばドニスタが毛嫌いしている、例の助けてくれた女の子に目をつけられてしまったり……
アヒル・スクリーム 蛸屋 匿 @takoyarou_109
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