星の導き
@ibu5243
第1話
高校の入学式を明日に控えた恭介は、ベッドに寝転がるがなかなか寝付けないでいた。
高校生になることに特別な思いはなく、何かを期待しているわけでもない。
意識せずとも中学三年生という期間が終わりに迫ってきて、周りが当たり前のように高校進学をするため、恭介も流されるがままに家から近い高校に通うことを決めただけだ。
上半身を捻り時計を見ると、23時を過ぎている。このままベッドに寝転がっていても眠れないと考え、恭介は自分の部屋から出た。家の中は静まり返っており、母親の部屋の扉は閉めきられている。
なるべく音を立てずに靴を履き、静かに玄関の扉を開け、そっと閉めた。
エレベーターのボタンを押し、一階から恭介と母親が住む九階まで上がってくるその数字をぼんやりと眺める。
外に出ると、何も考えずとも足が動く。こういった、眠れない時によく行く公園があるのだ。こんな時間に外に出てはいけないと母親に前に言われたことがあるが、今となっては何も言われなくなったためその忠告を無視している。
世の中には補導される時間があるようだが、なんとなくしかわからないし、自分はこれまで補導をされたことがないため、そのようなものは自分とは無縁なものだと思ってしまっている。
息を弾ませながら階段を上り、やっと頂上まで辿り着くと、情けなく口から荒い息を吐き、呼吸を落ち着かせていく。
街を一望できるこの公園は恭介のお気に入りのスポット。こんな時間なため人はおらず、静かで落ち着ける。冷たい空気を肺いっぱいに吸い、それをゆっくり吐きながら、街と星を眺めるのが心地よい。
汚いと思いながらも木製のベンチに横になると、星を眺めながら、ただただ呼吸に意識する。
自然と瞼が落ちてくる。眠ってはいけないと抗おうとするが、ゆっくりと時間をかけて、恭介は眠りについた。
「本当に今日なの?これで星が得られなかったら、一生呪うからね」
「安心して、私の星が感じている。すぐ、ここに降ってくる」
「ならいいけど。前回は譲ってあげたんだから、今回は私が貰うからね!」
「……わかってる」
若い二人組の女性はそんな会話を交わしながら階段を上っており、その足取りは軽い。
「はい、到着!うんうん、初めてきたけどいい公園じゃない!見て!すごくいい眺め!」
「確かにいい眺めだけど、もう飽きた」
「もう、千紗はなんでそうなの。まぁ、今は景色よりも星の方が大切かぁ」
「そう。人払いを展開する」
千紗と呼ばれた女性は目を閉じ手を合わせる。千紗を中心とし、地面が紫色の光で術式が浮かび上がると、スッとその光が消えた。
これで人払いが展開された。
「いいなー。早く私も星の恩恵を授かりたいな」
「……綾華。やはり考え直して。私はまだ六等星。五等星にする気はない?」
「ない!よし、いつでも来い!」
バッ!と両腕を空に掲げる。しかし、何も起こらない。
「……で、いったいいつ頃ここに星が降ってくるの?」
「ん……もうすぐ」
暫くして、千紗は空に向かって人差し指を向ける。綾華はその指の先を追い、ハッと息を呑んだ。人生で見るのは二度目となるその光景に、高揚感が身体を駆け巡る。これで私も恩恵を受けられる。千紗の様なサポートタイプか、アタッカータイプか、それとも私だけの特別な何かか。
その星はものすごい勢いで降ってきており、どこに落ちるか測れない。
「私のだからね」
千紗にそう釘を指すと、諦めた様にため息をついた。前回のような早い者勝ちとは違い、これは綾華のだと決まった。
間も無く、星は音も立てずにベンチに向かって落ちた。そして、星の光が消えた。
「なっ、どうなってるの……」
「いや、そこに星を感じる」
綾華と千紗はそちらに向かって駆け出すと、
「誰よコイツ!私の星が、私の星が……」
ワナワナ震える綾華の肩にそっと手を置いた千紗は、ベンチに横になり眠っている若い男性を観察する。そしてため息をついた。
星を管理する組合、星詠評議会に所属する者以外は手にしてはいけないとされる星。今回のように人払いを展開するため、一般人が星自体を目にすることはまずできない。星がどこに落ちるかを予測できるのも、星を持つもののみであり、星詠評議会より先回りして星の落下地点に到着することなど、あの星喰いでさえも困難なのだ。
なのにこの男性は、私たちよりも先に、この場所に。そんなマグレが起きるだなんて。
これが、奇跡。
「で、アンタはいつまで寝てんのよ!」
ワナワナと震えていた綾華は拳を握り、怒りに任せ男性に殴りかかろうとする。しかし、男性を殴る前に全身が硬直し、動けなくなってしまった。
千紗も同様に動けないでいる。それだけのプレッシャーが、この場を支配している。
それはベンチで眠っている男性のものではない。
階段を上がって、こちらに近づいてきている。
いやでもわかる。星喰いが、来ている。
「星を感じてきてみれば、輝きは二つだけ。星詠評議会の若手か。落ちたものだな」
姿を現した星喰い。ジャージ姿でラフな格好をしている。フードと仮面をつけており、身長は百八十後半のすらっとした体格の男。
「だがこの二つで俺も三等星か」
仮面をつけているため表情はわからないが、声色で笑っているのがわかる。
「こ、こっちに来るんじゃない!」
プレッシャーに全身を震わせながらも綾華は言い放った。相手は四等星、まだ星の恩恵を貰えていない綾華がどうこうできるはずがない。
「千紗……この寝てる男連れて逃げなさい」
震える声で、それでも星喰いから視線を外さずにそういう綾華。戦闘訓練は受けているが、恩恵がなければ稼げる時間もたかが知れている。確実に死が待っている中、それでも綾華は少しでも星喰いに星が取られないための選択をする。自分を犠牲にして。
「アイツは二つで三等星になると言った。確かに星を一つ奪われるのも大きな損害だけど、それでもまだ四等星。千紗よりも私の方が時間を稼げる」
手を合わせると、術式が地面に浮かび上がった。星喰いも同じように手を合わせ、禍々しい赤の術式が地面に浮かび上がった。
先に消えたのは星喰いの術式だった。それと同時に勢いよくこちらに向かって腕を振るった。
竜巻が巻き起こり、一瞬にして公園に生えている木々や、ベンチ、落下防止のフェンスが宙を舞い、三人も吹き飛ばされた。
なんとか着地をした綾華と千紗と違い、眠っていた男は崖から放り投げられた。
「ッたく、苦労かけて!」
その後を綾華が追うようにして、飛び降りて行った。
残された千紗は立ち上がると、こちらに向かってゆっくりと歩み寄ってくる星喰いを睨みつけた。先ほどので足首を痛め、逃げ出すことができない。逃げるつもりなどない。崖から落ちたら、当たり前に死んでしまうが、星の恩恵を受けたあの男性なら無事に耐えられる。訓練を受けている綾華も難なく着地はできる。ならば、二人が逃げられる時間を稼ぐ。
もう一度手を合わせる。しかし、術式が浮かび上がらない。
私の星のエネルギーが乱されている。
「気づいたか、これが俺の恩恵」
星のエネルギーを放出させ、先ほどの竜巻を起こしたり、こちらのコントロールを狂わせる。
さすが星喰い、理不尽な力だ。
「さて、まずはお前の星を頂こう」
星喰いは手を合わせると、地面に術式が浮かび上がった。それはこちらにまで伸びてきて、足首を痛め逃げられない千紗は、その術式内に入ってしまった。
私の、星のエネルギーが。
身体の中を巡る星のエネルギーが、私の外に、星喰いの元に向かおうとしている。なんとか抵抗をするが、もう……。
ダメだと思った瞬間。その術式は荒々しく燃える紅蓮の炎に焼かれて消えた。
炎が放たれた方を見ると、綾華と男性がそこにはいた。
「綾華」
安心した様子にペタリと座り込んだ千紗に向かって、綾華が駆け寄った。
「悪かったわね、一人にして。ねぇアンタ、星の件はどうにかしてあげるから、あの星喰いをなんとかしなさい!」
綾華は男性、恭介に向かってそう言い放った。
それに恭介は頼りなく頷いた。当たり前だ。
目を覚ましたばかりの恭介は、突然星やら星喰いやらの話をこの短時間でされただけなのだから。
それでも、星の使い方が手に取るようにわかる。
そして、先ほどの紅蓮の炎。これも星の影響か、恭介の心は同じように燃え上がっていた。
恭介が手を合わせる。
「ダメ!それじゃあ……」
千紗はハッと息を呑んだ。地面に眩しいほどの赤が浮かび上がった。
「なぜだ!俺の力が!」
星喰いは慌てて手を合わせるが、先に消えたのは恭介の術式だった。掌の上に球体の炎ができ、それを星喰いに向かって投げ放った。
星喰いの術式も消え、すぐに竜巻が起きた。
竜巻に吸い込まれた球体の炎は、勢いよく爆散すると、土煙が勢いよく上がり三人は目を庇った。
恭介と千紗は星喰いの星を感じなくなり、星喰いが去ったことを知った。
土煙が止み、そこには崩壊した恭介お気に入りのスポットと、呆然とする三人のみが残っていた。
星の導き @ibu5243
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