咲耶の禊と、この森……危ないらしい

「ぁ、ぅ」


 両手でお腹を押さえて俯くヨウちゃん。その頬は真っ赤に染まっていた。よっぽど恥ずかしかったらしい。


「ヨウちゃんお腹すいてるの?」


 一瞬イジりにいったか? と思ったけど、流石の咲耶もそこまで鬼畜ではないと信じたい。


「う、うん……」


「なら一緒にご飯食べようよ。わたしたちもお腹すいててそろそろ食べようと思ってたとこなの」


 小さく頷くヨウちゃんに、咲耶はそんな提案をした。チラッと私を見た意図はすぐに理解できた。アイドルの付き人スキル……非常に便利だけど、地味に不便だ。


「咲耶、ヨウちゃんにもご飯出してあげて」


 咲耶が鬼畜じゃなくてよかったとこっそり安堵する私。確実にバレてるけど、他に優先することがあるから見逃してくれた。もっとも、それがわかってるから私も露骨に反応を示したんだけど。水をかけられたお返しの嫌がらせだ。


 幸いにして気温が暖かいから全身ずぶ濡れでも寒くはないけどさ……肌に張り付いたシャツとスキニーパンツの感触がキモい。それにブーツの中のソックスもグチュグチュになっていて悲惨だ。まぁそれも下着よりはマシだけどさ! ……いま最も嫌なのはパンツだったりする。


 本音は下着の替えも出してもらいたいけどさ……普通にお願いすると咲耶の好みになるよね? それを避けるためには、私が欲しい下着の詳細を咲耶に伝えないとならないという羞恥プレイ。だからって咲耶に任せるのも不安で仕方ない。布面積が少ないのとか出してきそうでさ……。夜までに乾くかな……そっちにワンチャンかけるのもありか……? 現状である着替えが体操服とジャージだから、最悪ノーパンノーブラ――いやそれこそ無理! バレたら――というかバレないはずがない――咲耶が喜んでスキンシップ(笑)をとってくるに違いない。


 くっ……どっちにしろ恥ずかしい思いすることが確実なら、自分から希望を伝えるほうが……まだ精神的なダメージが少ない、か?


「りょうかーい♪ でもその前に……」


 葛藤する私をチラ見した咲耶が自身の頭上に水球を浮かべた。そのサイズは私の全身を濡らしたモノよりも更に大きい。


「さ、さくやお姉ちゃん?」


 ヨウちゃんが後ずさる。もしかしたら自分へ向けられると思ったのかもしれない。


「あ、ヨウちゃんにじゃないから安心して大丈夫だよ」


 咲耶の答えを聞いて、今度は私を心配するヨウちゃん。だけどその心配は無用だ。


「ターゲットは音芽でもなくて――わたし♪」


 ほらね。咲耶はそのまま頭上で水球を破裂させると、バケツをひっくり返したような勢いで大量の水を被ることになった。あっという間にずぶ濡れだ。髪先や服からは水が滴り落ちている。私がポタッ、ポタッなら、咲耶はポタタタタって感じだ。上が薄ピンクのブラウスで胸元には大きな黒リボンがあるから、私やヨウちゃんみたいにブラは透けてないけど……その代わり身体のラインが1番ハッキリと出てしまっている。どっちがマシかは人によると思う。この場には同性しか居ないからそんな姿を見られても許容範囲内ではあるんだろうけど……。よくやるよ……。


「まったく……」


 つい呆れ声を漏らしてしまった。自分だけダメージがない状態だとヘイトが集まるからね……原因が他にあるなら運が悪いで済むかもだけど、今回は誰がどう見ても咲耶が元凶。私やヨウちゃんの怒りが向く前に、自爆ってわけだ。もっとも私はもちろん、ヨウちゃんも恨んでなさそうだ。だって――。


「――うわぁ……」


 ――咲耶の行動を見て普通にドン引いてるし。ただ引くってことは理由を理解してるってことだよね? もしかしてヨウちゃんって割と頭が回るのかな?


「ヨウちゃんは何か食べたいモノあるのかな?」


 禊は済んだとばかりにヨウちゃんに聞く咲耶。しかしその直後「あ」って表情を浮かべて固まった。だよね……咲耶が生成できるのって日本のモノ。ヨウちゃんが知っているのは、当然この世界のモノ。もし知らない食べ物を言われたら困ることに気づいたんだろうなぁ……。


「何でもいいの!? 果物のパンが食べたい!」


「果物でパンなら……フルーツサンドとかどう?」


 あからさまにホッとした様子の咲耶が自身の魔力を使って生成したのは、お皿に載ったいちごのフルーツサンドだった。いや、そのフルーツサンドってさ……家の近くにあったパン屋のじゃん……そういえば咲耶ってあのお店のフルーツサンドをよく食べてたね……ヨウちゃんの要望に応えつつ、ちゃっかり自分の好物を出している咲耶にジト目を向けてしまうのは仕方のないことだと思う。数もさり気なくふたり分っぽいし。


「わーぁ、美味しそう!」


 目をキラキラとさせて喜んでいるヨウちゃん。まぁ喜んでいるならいいか。でもこうなってくると……私もパンが食べたくなってくる。あのお店、私たち姉妹のお気に入りで当然ながら私のお気に入りもある。我ながら我儘だと思う。


「咲耶……さっき出してくれたおにぎりはおやつか夕飯に取っておいて、私にもパンを出して欲しいかも」


「ん、いいよー」


 軽い返事と共に出てきたのは、クロワッサンだった。こっちはお皿じゃなくてビニール袋入りだ。お店のロゴまで入っている。うん、ちゃんとわかってる妹でお姉ちゃん嬉しいよ。ありがたく受け取り、3人で顔を見合わせる。立ったままってのも行儀悪いか……。


「咲耶、3人で座れるレジャーシートもお願い」


「ほいっと♪」


 また水玉模様だ……サイズは前の倍だけど。


「それとヨウちゃんの着替えも」


「ヨウなら別に大丈夫だよ? 今日は暖かいし、すぐ乾くもん」


 そうは言うけど、咲耶のせいで風邪をひかせても申し訳ない。ちょっと前までヨウちゃんに嫉妬してた咲耶に頼むのはちょっと心配だけど……いまの流れなら大丈夫なはず。


「あいっと♪」


 妹が生成したのはライトブルーのワンピースだ。よかった……ウサ耳だからバニー服とか出してこなくて、ほんとによかった。信じてぞ妹よ! 私の視線を受けて嬉しそうに頬を緩める咲耶。あ、これ単に私の好感度稼ぎしてるだけだわ……。別にそんなことしなくても嫌ったりしないのに。


「さくやお姉ちゃんって収納魔法を使えるの?」


 次々にモノを出す咲耶にヨウちゃんがそんな質問をしてきた。


「うーん、ちょっと違うけど魔法ではあるかな?」


 魔力を使ってるらしいからね。よくわからないけど、分類的には魔法になるんじゃない?


「いいなぁ~、ヨウは魔法使えないから羨ましい」


「私も魔法使えないみたいだから仲間だよ」


「そうなの? この森に入ってるから冒険者だよね? 武器を持ってないから魔法を使えるんだと思ってた」


 ……なんか不穏じゃない? 気のせい?


「……この森って、もしかして危ない?」


「うん。強い魔物が多くて、普通の人は近づいてこないよ? 来るのは採取か魔物素材目当ての冒険者くらいかな」


 …………。はい? 魔物って言ったよね!?


「ヨウちゃんはどうしてそんな危ない森に居るのかな?」


「……ヨウは兎獣人と魔族のハーフだから……街になんて住めないもん」


 そう言って、ヨウちゃんは寂しげな微笑みを浮かべる。あっちゃー最悪だ……地雷踏んだっぽい。

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最弱魔王軍に保護されてアイドルやってます!~一緒に送られた義妹はヤンデレ勇者~ 綾乃姫音真 @ayanohime

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