咲耶は嫉妬深い妹です

「ご、ごめんなさい、えっと、は、裸になって無様におっぱい揺らしながら踊るから、こ、殺さないでぇええ!!」


 そう叫びながら着ているシャツの裾に手をかける女の子。いやいやいや! そんなの求めてないって! なにその反応!?


「待ってストップ! そんなことしなくていいから!」


 勢いよくシャツを捲りあげようとする女の子の手を掴んで止めに入る私。


「そうだよ! 音芽の言う通り! 音芽って小柄な女の子のおっぱい大好きだから誘惑なんて許さないよ!!」


 阿呆かこの妹は! ふたりきりじゃないから名前呼びに変える冷静さを持っていながらなんちゅうこと言ってんの!?


「人をロリコンみたいに言うなや!! 興味ないわ!!!」


「お、おっぱいに興味ないなら……そ、そうだ! お、お尻は!? 兎獣人の血が入ってるから、お尻も大きいよ!?」


 なんてその場で後ろを向く女の子。四つん這いになってカーキ色のショートパンツに包まれたお尻を突き上げた。あ、尻尾もあるんだ……なんてつい見てしまう。


 女の子はたぶん私はもちろん、咲耶よりも歳下だと思う。中学生――下手したら小学生くらいの可能性もある。そう考えると確かに肉付きいいかも……特に胸。咲耶より背が低いのに大きいし。


「だから音芽を誘惑するなって言ってるのわからない? 殺すよ?」


 怖っ! 目から光がなくて本気で言ってるようにしか思えない。


「ふぇえええええええ!!? 殺さないでえええええええ!!!!」


 私たちに向き直り、涙を流しながら土下座する女の子。私たちが謝っていたはずだよね? それが……私を誘惑してるとか言ってキレている咲耶と、変なとこだけ聞き取って命乞いをしているウサ耳少女と、反応に困っている私の図。なんだこれ……。外見からして明らかな異世界人とわかる相手と無事に言葉が通じて安堵する間もなく場がカオスになっていく。いや、言葉が通じるのと話が通じるのが別なのはわかってるんだけど……この状況はさぁ……。


 とりあえず、場を落ち着かせるために私は――馬鹿妹の頭に手を乗せて無理矢理頭を下げさせた。


「意味のわからないキレかたする前に、ごめんなさい、でしょ?」


 まぁ意味わからなくはないんだけどね……ずばり嫉妬。


「ごめんなさい」


 うん、ここで変に抵抗せず謝れる咲耶はいい子だと思うんだけど、色々とね……。


「私の妹がごめんね」


 もちろん姉として一緒に頭を下げる。


「え、えっと……ヨウのこと、殺さない? 痛いことも、しない? え、えっちなことは――す、少しなら我慢するよ?」


 少し落ち着いたのか再びペタンと座った女の子が上目遣いで窺うように私と咲耶を見てくる。なんていうか庇護欲をくすぐる姿だった。ヨウっていうのは名前かな? もちろん最後のは聞こえなかったことにする。


「何もしなから安心して」


「よ、よかった」


 ようやく安堵したように小さな笑みを浮かべる女の子。


「咲耶がごめんね? お試しで魔法を使ったんだけど、まさか人が居るとは思わなくて当てちゃったの……」


「ごめんなさい」


「ううん、覗き見してたヨウが悪いの。びっくりしたけど大丈夫!」


 覗き見って単語が引っかかるけど、スルー。こんな森の中でちゃんと話せそうな相手と出会えたのはラッキーだ。その機会を無駄にしたくない。内心でホッとしつつ改めて女の子の姿を確認する。まず目を惹くのはやっぱり頭の上に生えているウサ耳だった。その大きさは女の子の顔よりも長い。


「「……」」


 実はさっきからずっと気になってるんだよね……女の子の感情を表すかのようにピコピコ動いてるウサ耳。どう見ても本物だ。ぶっちゃけ――さ、触りたい。咲耶も隣で同じように思っていることが見なくてもわかる。でも流石に初対面でそんなことお願いできないよねぇ……。


「ど、どうしたの?」


 私たちの視線を感じてウサ耳がピクピクと小刻みに動く。その下にある顔は系統的には咲耶に近いかわいい系でまだ幼さが残っている。赤く大きな瞳が自信なさげに揺れているのも庇護欲を刺激する一因かもしれない。それにしても――少し生地が厚めの白シャツを押し上げる胸が……大きくてほんと羨ましい。咲耶の魔法で濡れ透け状態――ブラはなんと黒――だからあんま見ちゃ悪いか。恥ずかしそうにしてるしね。さり気なさを装いながら視線をずらした先はショートパンツから伸びる剥き出しの太もも。こっちも肉付きいいな……色白の肌もすべすべしてそうだ。亜麻色のショートヘアーもサラサラしているのがわかる。こっちも触り心地がよさそう。でもやっぱ初対面で触ら(略


「……なんでもない」


「音芽と同じく」


「えっと、お、おとめ? って、そっちのお姉ちゃん? だよね?」


 私を指差す女の子。


「そうよ。私の名前、音芽って言うの。そんでこっちは咲耶。さっきも言ったけど、私の妹」


「名前……よ、ヨウは――わ、わ、私は、ヨウ」


 自分のことを「私」って言うの慣れてなさそう。きっと普段から一人称が名前なんだろうね。


「ヨウちゃんって何歳なのかな? 私は19で、咲耶は17歳だよ」


 別に自分が歳上アピールをしているわけじゃない。単に相手に聞くから自分のを先に教えているだけ。だから咲耶は意味深な顔を向けてくんな。あんたと違って私は歳上だから敬語を使えとか言わな――痛っ!? 私の考えていることがわかったのか、咲耶が足を踏んできた。だけどいいのかな? そっちはスニーカーだけど、私……ブーツだよ? 反撃として固いかかと部分でつま先を踏み抜いてあげた。


「~~~~っ!?」


 声にならない悲鳴を上げて私を睨んでくる咲耶。自分が先にやったんだろうに……そう思わずにはいられない。ちなみに私たち姉妹の暗黙の了解として、物理的な反撃の反撃は禁止だ。だってキリがなくなるし。お互いを痛めつける趣味は持ってない。


 妹は片足立ちになって靴の上からつま先を揉み痛みを和らげている。姉としてはスカートであんまそういうことしないで欲しいんだけどね。角度次第では見えそうだし。今回は私が踏み抜いたせいだから口には出さないけどさ。


 一連のできごとを見ていたヨウちゃんが立ち上がり、私の背後に回ってくる。その小さな手が私のシャツを握ってきた。うっわ、かわいいっ! 妹が居ればこんな風なんだろうなぁ……いやまぁ、咲耶も妹には変わりないけどね? ほら、出会ったのが中学のときだから姉妹でこうした記憶なんてないからさ……。


「ヨウは12歳だよ?」


「ヨウちゃーん? どうして音芽の後ろに隠れるのかなー?」


 咲耶の声に、ヨウちゃんは私の背中に顔を埋めるようにしてくる。この反応が答えだ。


「咲耶が怖いんでしょ」


「え!? わたしのほうが優しそうな見た目してるよ!? 音芽みたいに性格悪くないし!」


 優しそうな外見してるのは認めるけど、性格はどっこいどっこいでしょうが! むしろギャップで酷いことになってる自覚持てっての!


「おとめお姉ちゃんはヨウのこと守ってくれそうだもん」


 更に密着してくるヨウちゃん。ぎゅーっと両腕を私のお腹に回して抱きついてくる形になった。あの、それはいいんだけど……胸の感触がですね? すんごい存在感でありつつ絶妙な柔らかさなのです。どう頑張っても意識してしまう。それこそヨウちゃんの胸元は濡れてるからシャツに染みて冷たいんだけど、上書きされてしまうレベルだ。


「っ、わたしも守ってあげるよー? 音芽は戦えないし、わたしの方が強いんだぞー? つうか音芽から離れろ、場所変われ」


 最後に本音出てるってば!


「おとめお姉ちゃんがいい」


「ヨウちゃんはどっちのほうが優しいのかわかってるみたいだけど?」


 私の言葉にヨウちゃんが背後で頷くのがわかった。出会ったばかりなのに――普通に嬉しい♪


「――音芽? 小さいヨウちゃんだけブラが透けて恥ずかしい思いしてるの問題だと思わない?」


「濡らしたのあんただけどね」


「んんっ! ここは最年長として、音芽も同じ状態になるべきだと思うんだぁ♡」


 わざとらしさ全開の甘え声で碌でもないことを言う咲耶。そんな妹がバッと後方へ跳んだ。その距離数メートル。いくら運動神経のいい咲耶でもあり得ない距離を1回のジャンプで跳んでいた。勇者スキルの恩恵か……身体強化もあったし、それだよね――ってのんびり見てる場合じゃない! このジャンプは私が妨害するのを避けるためだ! ただでさえヨウちゃんが背中にくっついていて、身動きとるの難しいのに! 馬鹿の狙いはわかりきっている。案の定さっきと同じように右手を銃の形にして私の胸へと向け、水球を作り出した。


「ちょっ! 大きい大きい!! 胸元どころか全身びしょ濡れになるってば!」


「避けちゃダメだよぉ?」


 言葉には出してないが、その目が「そしたらヨウちゃんに当たっちゃうかもだし――わたしはそれでもいいけど」と言っている。我が妹ながら最低! ほんとに最低だ!


「あんた……覚えておきなさいよっ」


「音芽……ヨウちゃんに『おとめお姉ちゃん』って呼ばれて――喜んでるの、バレてるからね♪ それと――背中でわたし以外のおっぱいの感触意識したよね?」


 そんな言葉とともに水球が目の前に迫る。あ……私の反応が気に障ってたのか。それなら仕方ない……咲耶の性格をわかっていながら喜び、意識してしまった私がいけないなら――諦めて受け入れるしかない。私が覚悟を決めるのを狙ったかのようなタイミングで水球が破裂した。せめてもの抵抗として両腕で胸を庇うけど、そのガードを嘲笑うかのように大量の水が変幻自在に軌道を変え、私の全身をずぶ濡れにするのだった。特に胸は重点的に水が降りかかり、シャツが張り付く。


「……冷たい……」


「水色♡」


 咲耶が鼻の下を伸ばしながら私の胸元を凝視している。その表情からは直前まであった不機嫌さが霧散していた。まったく……。


「おとめお姉ちゃんとさくやお姉ちゃん……仲がいいんだね!」


 ヨウちゃんが背中から離れて、私と咲耶、両方の顔を交互に見ながら言ってくる。いまのを見てそういう感想になるのが謎で仕方ない……。


「うん♡わたしと音芽は愛し合ってるもん♡」


「合ってないから」


 愛されてる自覚はあるけど……妹としては好きだけど、恋愛感情は持ってない。


「くすっ、あはははは」


 そんな私たちを見て、ヨウちゃんが大きく笑い――お腹をぐぅーっと鳴らすのだった。

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