第14話 カマキリ
「これが『代償』だ。精々噛みしめろ」
アウトライアーの声が脳裏に響いた。
――
喉が縮こまった。息が入らない。
眼の前には、人間の背丈ほどの虫がいた。
艶めいた外骨格、棘だらけの肢。膨れた頭部は、エイリアンめいている。
虫は言った。
「ああ、もしかして、パラメトリックが切れましたか?」
「お見苦しいものを。たまにいらっしゃるんですよね、認識を戻せる方」
脳が理解を拒む。言葉が、日本語に“聞こえない”。
「心の準備が出来るまで待ちましょうか」
「……なんの御用でしょうか」
「ええ。あなたの理性に感謝いたします」
「協力していただきたい。報酬は“この施設の正体”でどうでしょう」
――映画館裏の公園に出た。
「人目がつかないとこで処理しようってんですか」
「そうも不信感を露骨に出されると、傷つきますね」
虫は少しうつむいた。
そうしてトイレの裏に肢を当てた。次の瞬間、足元が裂ける。
――空間が開いた。
「さて、行きましょうか」
――地下。
空間の奥は真っ白な実験室だった。換気が一定すぎて鼻の奥がひりつく。
薬品臭の奥に、焦げた甘さを一瞬混じった。
白衣の“人間”がせわしなく動いていた。
――応接室と書かれた部屋に通された。
椅子を引く音が響く。天井のスピーカーから、やけに整った音楽が小さく流れていた。
虫は『古見海斗』と名乗った。
「私は日本支部担当でしてね」
「では、“化け物”が製薬会社を?」
古見はくすくすと笑った。
「我々がいなくては、世界が魔法で包まれます。癇癪で施設を壊されるのは不本意ですしね」
挑発にすらならない。虫の表情なんて読めない。
「さて、違和感の正体、でしたね」
「結論からいきましょう。ここは映画館の姿をしたエネルギー施設です」
「感情エネルギーを用い、魔導式阻害剤などを作成しています」
視界がくらんだ。欲しかった答えが、殴りつけるように飛んでくる。
「さて、続けますか?」
俺はコクリと頷いた。
「それでは」
「葉月凛、葉月咲希。両名をここへ」
――俺はハナから釣り餌だったらしい。
その場で凛に電話をした。軽く睨まれながら。
「ニューヴォイドに呼ばれた」と凛に告げた。
電話口の向こうで、声が固くなった。
「……わかった。向かう」
電話は切れた。
俺はずっと聞きたかった事を古見に聞いた。
「じゃあ、お前らがコラプスを?」
「……ああ。それは“ハイタ祝祭管弦楽団”の話ですね」
「我々はパトロンになっているだけです」
「招来されたら、お前らだって困るだろ」
「さあ? まあ、上の意向ですので」
……待つしかなかった。
そうして、二人の黒服に案内され、凛と咲希は連れてこられた。
二人は震えていた。怯えと怒りが目に貼りつく。
古見に向かって凛は叫んだ。
「てめぇ! 良くもまぁ私たちの前に姿出せたな!!」
古見はスマホを触り、言った。
「私としては、はじめまして、ですがね」
「ニューム如きが口を開くな。私たちに何したかなんて、貴様なら知ってるだろうが」
「また咲希に手をかけようってか? 上等だ。殺してやるよ」
控えの黒服がピクリとした。
「ええ。存じ上げています。ですから、佐藤さんに仲介してもらおうと」
「仲介だ? ただの人質だろうが!」
「ですが、こうでもしないと、ここには来なかったでしょう?」
凛の歯ぎしりが聞こえた。
咲希は細かく震えながら言った。
「あなた方の目的は?」
「地魔法の研究。つまり凛さんです」
「まあ成果としてのあなたが見たかったというのもありますが」
古見の値踏みするような視線に、咲希の肩はすくんだ。
「私が素直に協力するとでも?」
「貴方方の捜索を打ち切っているのが、我々だとしても?」
「……研究が凍結済みなのは知ってんだよ」
古見はニヤリと笑った。
「ブラフも含めですかね? まあ、正解ですよ」
そうして古見は肢を上げた。後ろの黒服が動く。
「この状況に持ち込めた時点で私の勝ちです」
「は! こうなるのは想定済みだよ!」そう叫びながら、凛は床に手を当てた。
剣の創造だろう。
が、凛が黒く光ることはなかった。
凛は地面に倒れこんだ。
今いる君に平穏を ――魔法が常識の現代で、探偵助手は神を殺す ほの、 @hno3_492
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