鋼鉄は祈らない

白鳥丘鸝斗

プロローグ

この地球には、人はいなかった。いや、正確には魂がなかった。人々はもぬけの殻で倒れ込み、風で砂が地面を打つ音だけが残っていた。


荒廃した街の真ん中で巨大な機械生物がゆっくりと動いている。その鋼鉄の体の奥で誰かの生気がひっそりと燃えていることも知られずに。


《防衛機能エラー、始動できません。》


「あっれー、おっかしいなぁ。」

小学三年生のトナはエラーを吐いた防衛機械を見つめていた。

「まだやってんの、トナ。動かないんだから諦めなさい。」

後ろからため息を吐いたのは幼馴染のユズ。

「えー、でもでもぉ…!」

トナが意地を張るが、ユズは真剣な顔で少し悲しみ混じりの声で呟いた。

「…この世界は終わってるのよ。」

ユズは絶望しているようだった。脳波感知システムエラーの影響を受けなかった者だけ取り残されている。

「ママもパパもみんな…あなたも…無理だとわかってるでしょう?」

ユズの瞳には涙が浮かんでいた。ユズの言葉にトナは黙り込んでしまった。その時、ドアを叩いたのはリアだった。

「二人とも、突然だけどさ。」

トナとユズの視線がリアの方へ向く。トナは期待の眼差しを向けていたがユズにはどうも信じがたかった。

「この世界、私たちで直さない?」

「…え?」

「マジ?リアお姉ちゃん天才!」

トナは大はしゃぎで立ち上がった。しかしユズは口を開いた。

「…あなたまで…何であんたたちはこうも諦めないの?」

ユズは怒りが混じったような声で言った。トナは再び黙ってしまったが、リアは諦めずユズに言った。

「…だって、ママたちのこと助けたくないの?みんなのこと助けたくないの?」

「そりゃあ…でも私たちにそんな…」

ユズの言葉を遮ってトナは言い聞かせるように言った。

「僕たちがやらないで誰がやるの?それこそ終わりだよ!」

「…確かに。」

リアはあの頑固なユズがすぐに納得したのを見て少し驚いた。それを後押しするようにトナが動いた。

「じゃあさじゃあさ!あのでっけえ奴倒そうよ!」

そう言って窓の奥の巨大生物を指差した。生物はまるで自分の意思がないようにずっと同じところを毎日行き来している。トナは一人でに街へ飛び出して行った。

「トナ待ってー!」

「ちょっと二人とも!」

続いて出て行ったリアに頭を抱えるようにユズは腰を上げた。しかしユズの目に映る巨大生物は赤く燃えていた。

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鋼鉄は祈らない 白鳥丘鸝斗 @Rootori_madeevery

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