夢想
k
ルームシェアの女
「おお。kさん、のんのんびよりの最終話が載ってるアライブじゃないですか!俺もこれ持ってます」
俺は女の本棚の中にあった雑誌を見つけて、そう叫んだ。
本棚は埃がかぶっており、疲れ果てた教授の本棚のように乱雑に積み重ねられている。正直、本を大切に扱っていないというのは明白であり、本が好きな俺には少しイラッとするところだが、好きなマンガが置いてあり、どうでもよかった。
「ああ、それは私が仲の良かった同居人から預かってほしいって言われた雑誌だね」
タバコの火の粉をトントンっと落としてから、kは振り返った。
「いつ帰ってくるんだろうね。彼。もう10年も私はここにいちゃってるよ」
寂しげなのか、それとも自虐なのか。
縁側から見える、楽しげな小学生の黄色い帽子を見つめながら、彼女は息を吐いた。
kとは一週間ほど前、スーパーで知り合った。意識がポツンと切れたように、カップ麺コーナーで突っ立ていた俺を不思議がり、声をかけてくれたみたいだ。
声をかけてくれたみたいだ、というのは俺にはその記憶もない。俺が記憶しているのは、彼女とこの部屋で、彼女と同じ布団で寝ていたというところからだ。
彼女は俺の横について、俺の持っていたマンガを手に取った。体が密着した。
「この本ともお別れしたいんだけどね。決心がつかなくて」
水平線に波立てないような、トーンのない声で、彼女はつぶやいた。
俺は彼女の唇をそっと蓋をするように塞ごうとした。
「ダメだ」
ガラガラという音とともに、ただいまーっと少しなまった日本語が部屋に響いた。
「君には彼女がいるんだろう。なら君はもっと彼女のことを考えたほうがいい」
夢想 k @sizen
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