ブラジル

中田甲人

ブラジル


鍵とスマホと小銭入れに入れた140円。

これが男の朝の日課である、ランニングの持ち物だった。


近所の公園にある池をぐるりと囲んだ外周路。

3周を走り終え、シリコンベルトのスマートウォッチを見ながら、

歩きに移行してクールダウンする。

脈拍は130、時刻は6:37。いつもより3分ほど早い。

気分よく、いつもの自販機に小銭入れから出した硬貨を投入する。


スマホ決済も便利ではあるが、

ランニング継続のモチベーションを維持するため、

前日夜に小銭入れに硬貨を入れ、自販機でそれを使うルーティンを組んだ。

それから2ヶ月半。飽きっぽい自分にしては継続している方だった。


ゴミ箱横の木のベンチに腰掛け、コーヒーを飲みながら

夜が終わっていくのを眺めるのは、男にとって悪くない時間だった。



品名:コーヒー

原材料名:コーヒー(コーヒー豆(ブラジル、ペルー))


何の気なしに温かい缶に書かれた成分表示を目で追う。

コーヒーの修辞技法じみた反復。括弧内括弧という閉塞、遠い南米の国名。


賞味期限:下方に記載


という文字に目がとまる。

缶コーヒーの賞味期限。そういえば気にしたことはなかったなと思い、

缶の底面を覗き込む。


20XX/10/25


スマートウォッチを見ると20XX/11/01。


飲み干すことも捨てることもできず、そのまま部屋に帰った。

中身の残った缶をテーブルに置いてシャワーを浴び、スーツに着替え出勤した。

5分程遅刻してしまった。

遅刻なんていつぶりだろう。


昼休み。

リビングに置かれたままの黒い缶と、

成分表示に書かれた地球の裏側の国のことが頭をよぎった。

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ブラジル 中田甲人 @nakata_kouto

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