森の動物のクリスマス
清ピン
第1話⋯ 森のクリスマスと不思議な星の灯(ひ)
冬の森に、雪がふわりふわりと降りつもる季節がやってきました。
木々は白い衣をまとい、凍った小川は光をはね返し、世界中が静かに息をひそめているようです。
その森の真ん中には、たくさんの動物たちが集まって暮らす大きな広場がありました。
今日は、動物たちが一年でいちばん楽しみにしている――
クリスマス・パーティーの日。
動物たちは朝からそわそわし、あちこちで準備を進めていました。
――――――――――――――――――――――
◆第1章:ふくろうのフロストと古い地図
森の一番高いモミの木のてっぺんで、ふくろうのフロストがじっと遠くを見つめていました。
白銀色の羽根をふわりと揺らし、冷たい風に目を細めます。
「今夜はよい星が出そうだ」
低く、穏やかな声。
フロストは森でいちばんの物知りで、みんなのおじいさんのような存在でした。
その横には、古い羊皮紙――森の地図が広げられています。
「星の灯を見つけないと、クリスマスの奇跡は起きない……」
フロストはふむ、と顎に羽根を当てました。
そこへ、雪の中を走ってきた足音。
「ふろすとーっ! みんな集まってきたよ!」
元気よく飛び跳ねながら現れたのは、ウサギのミミ。
白い耳がピンと伸び、赤い毛糸のマフラーがよく似合っています。
「クリスマスツリーの飾りつけができたんだって!みんなで見に行こうよ!」
フロストはやさしく笑い、地図をそっと巻きました。
「そうだな。星の灯のことは後にしよう。今日は仲間たちが主役だ。」
二匹は雪を踏みしめながら広場へ向かいました。
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◆第2章:広場に響く笑い声
広場に着くと、動物たちのにぎやかな声が広がっていました。
大きなモミの木には、色とりどりの木の実、キラキラした氷の飾り、小鳥たちが作った小さな星形の帽子――。
「今年はすごいなあ!」
シカのブランが、感心しながらツリーを見上げました。
「そりゃあ、みんなで作ったんだもの!」
赤いほっぺのリス姉妹、ポンとピピが胸を張ります。
板の台の上には、雪ウサギ団の小さな合唱隊が並び、歌声を響かせています。
そこへ、もこもこした毛並みのクマ、ゴローが背中に大きな樽を背負って登場しました。
「はっはっは! 今年もハチミツリンゴジュースを持ってきたぞ!」
動物たちがわあっと歓声を上げます。
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◆第3章:一匹足りない友達
そんな中、ミミが辺りを見まわして言いました。
「あれ……? キツネのルカはどこ?」
ルカはとても仲良しの友達。
去年のクリスマスも一緒に歌って踊ったのに――。
「そういえば見てないなあ」
ブランが首をかしげます。
「ルカなら北の丘のほうへ行くのを見たよ」
鳥のチッチが翼を広げて言いました。
ミミは心配で胸がざわつきます。
すると、フロストが空を見上げて語りました。
「ルカは、去年の大雪の日に家族と離れ離れになってしまった。
それからずっと、星の灯に祈っているのだ。
いつかまた会えるように、と。」
動物たちは静かになりました。
「……じゃあ、ルカはひとりで……?」
ミミは手をぎゅっと握りました。
「今夜はみんなで祝う日なのに。ひとりなんてだめだよ。」
――そして、ミミは走り出しました。
「行ってくる! ルカを連れてくるんだ!」
――――――――――――――――――――――
◆第4章:雪の丘とひとつの光
北の丘は深い雪に包まれていました。
ミミの小さな足はすぐに沈んでしまい、歩くたびに息が白く濃くなります。
それでも前へ――。
遠くに、かすかに光が見えました。
「ルカ?」
雪がきしりと鳴ったその場所には、
赤い毛皮のキツネ、ルカがひとり座っていました。
ルカは夜空を見つめ、首に下げた星のペンダントを握りしめています。
「ミミ……?」
ルカは驚いた顔で立ちあがりました。
「ここにいたんだ! みんな待ってるよ! クリスマスなんだよ!」
ミミが笑うと、ルカは小さく笑い――そして、少し目を伏せました。
「ごめんね。でも……今夜は、お父さんとお母さんのことを思い出すんだ。」
ミミはそっと隣に座りました。
「会いたいよね。」
ルカは黙ってうなずきました。
そのとき――。
空にひときわ強い光が走りました。
星たちが音もなく瞬き、夜空が広がっていきます。
ルカのペンダントが淡く光りました。
「星の灯……?」
ミミがつぶやくと、丘の下からフロストの声が聞こえました。
「二人とも、戻っておいで! パーティーが始まるよ!」
ルカはペンダントを掲げ、決意したように息を吸いました。
「行こう。」
二匹は雪の中を走り出しました。
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◆第5章:森中が歌いだした
広場に戻ると、パーティーはさらに盛りあがっていました。
暖かい香り、笑い声、歌声、灯火――。
ルカを見るなり、みんなが口々に声をあげました。
「ルカだ!」
「よく来てくれた!」
「一緒に歌おう!」
ルカの表情がほどけ、雪の頬がほのかに温かく色づきました。
クマのゴローが樽を叩いて宣言します。
「さあ、始めよう! 森のクリスマスだ!」
音楽が鳴り、雪の上が舞台に変わりました。
合唱隊が歌い、子どもたちが踊り回り、ツリーがきらめきます。
ルカはミミの手をそっと取って言いました。
「ありがとう。来てくれて。」
ミミはにっこり笑いました。
「当たり前だよ。友達なんだから!」
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◆第6章:星の灯と、願いのしずく
夜がふかまり、森の頭上に星が降るように輝きだしました。
フロストが静かに声をあげます。
「毎年この夜、星は願いを聞くと言われている。」
動物たちは空に向かって目を閉じました。
ルカだけ、目を開けたまま星を見つめました。
――と、星の光がルカのペンダントにすうっと吸いこまれるように流れました。
ルカの目には涙が浮かびます。
ミミが心配そうにのぞきこむと、ルカは声を震わせながら言いました。
「……感じるんだ。お父さんとお母さんが、そこにいるみたいに。」
ミミはルカをそっと抱きしめました。
「きっと届いたんだよ、想いが。」
星が広場いっぱいに降り注ぎ、動物たちの背中を照らし、
ツリーのてっぺんでひときわ輝く特別な光が生まれました。
――それが、森の星の灯。
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◆第7章:静かな朝、あたたかい足あと
次の日の朝。
雪はやみ、森中に白い毛布が広がっていました。
広場には、昨夜の余韻が残っています。
動物たちは片づけをしながら、楽しそうに語らい合っていました。
ミミはルカのもとへ駆け寄りました。
「昨日はすごかったね!」
ルカは微笑み、ペンダントを軽くさわりました。
「うん。もう寂しくない。ここには、仲間がいるから。」
そこへフロストが地図を手に近づいてきました。
「星の灯が見える場所がある。
来年のクリスマスは、みんなでそこへ行こう。」
広場の仲間たちは目を輝かせました。
「新しい冒険だ!」
「来年が楽しみだね!」
ゴローが両手を広げて叫びました。
「じゃあ来年、ここでまた会おう!
もっと大きなツリーを作って、もっと大きな歌を歌うんだ!」
動物たちは笑顔でうなずきました。
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◆最終章:森に消えない灯
夕方、森は淡い白い光で満ち、雪はきらきらと輝いていました。
ミミとルカは肩を並べて歩きます。
「ねえ、ルカ。」
「ん?」
「私ね、昨日と同じもの見つけたんだ。」
「何を?」
「しあわせって、ひとりじゃもちきれないくらい大きいんだよ。」
ルカは笑いながら、足跡の列を見つめました。
「じゃあ、ふたりで持たなきゃね。」
白い森に、二つの足跡が並びました。
その足跡はまるで、遠くの未来へ続く道のようでした。
空には、星の灯がそっと光っています。
――森に、永遠に消えない灯を残して。
そして、動物たちは毎年クリスマスが来るたびに歌います。
この森には光がある。
仲間がいて、心があたたかい。
――それこそが、クリスマスの本当の奇跡なのだと。
―――――――――――――――――――
おしまい。
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森の動物のクリスマス 清ピン @kiyotani
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