貝塚を発見した話

志草ねな

貝塚を発見した話

 幼かった私の周りに広がる小さな世界は、未知のものであふれていた。


 幼稚園がしょうに合わず、登拒否していたあの頃、私はよく本を読んでいた。

 自慢じゃないが、幼稚園に入園する前に私はひらがなの読みを完璧に覚えていた。

 母によると、どうやら絵本の読み聞かせをしている時、読む音と書かれた字の関連に気づき、覚えたらしい。

 それゆえに、途中で関係のない話をするとものすごくキレたという。実に学習意欲が盛んで面倒くさいお子様である。


 二歳の頃、偏食がひどい私のために幼児用ビスケットが購入されたのだが、カボチャが嫌いな私はパッケージのカボチャの絵を見て、食べることを拒否した。

 叔母が苦労して、カボチャの絵が描かれていないカボチャ入りビスケットを発見するも、材料を見た私は「これ、かぼちゃってかいてある~」と拒否したという。知識を駆使して己の矜持きょうじを貫く、実に迷惑なクソガキである。


 ここまで読んで、「幼少期に優秀だったという割には、現在の文章力が大いに欠如している」と感じる読者の皆様には、私はいつまでも過去の栄光を引きずる子どもだったわけではない、と言っておく。

 要するに、数年で周りの子どもたちに追いつかれ、あっさり追い越されたのである。


 同世代の子どもたちが幼稚園に通い、兄が小学校に通っている時間は、兄が持っていた漫画を読んで過ごした。我ながら、いいご身分である。

 一度、「そろそろ行ってみる?」と登園を促されたところ、「どこに?」と大真面目に答えたのを覚えている。マイホームが快適すぎて幼稚園の存在を完全に忘れていた。家から放り出さなかったのは、家族の英断か愚策かは不明だ。


 とはいえ、決して家に引きこもっていたわけではない。家の周りで好き勝手に遊ぶことも多々あった。

 我が家の庭には蟻やらカマキリやら時々野良猫やらがいたので、子ども心に飽きることがなかった。遊び相手にされる者たちにとってはたまったものではなかっただろうが。


 そんなこんなで、幼稚園をボイコットしても無事に小学校には入学できた。相当欠席してしまったが、最終的にはどうにかこうにか卒業することができた。

 もし本作を読んでいる方の中に「子どもが幼稚園や学校に行かなくて悩んでいる」という方がいらっしゃったなら、一応ここにどうにかなった一例がいるので、ご安心いただきたい。

 こんな奴みたいになってほしくない、と余計に心配になるという方は、今読んだものを即刻お忘れいただきたい。


 話は変わるが、幼い頃の私はよく落ちている物を拾った。

 幼少期あるあるだろうが、どんぐりは拾う。きれいな色の石があれば、拾って洗ってしまっておく。

 だがある日(幼稚園児だったか小学生になっていたかは忘れた)、妙なものを発見してしまった。

 貝殻だった。


 我が家の周辺は、決して海の近くではない。ではなぜ、貝殻が落ちているのか。

 その時、私はある可能性に気がついた。

 この近くに、貝塚があるのではないかという可能性だ。


 小学校の社会の授業で習う通り、貝塚というのは縄文時代のゴミ捨て場のことである。食べた後の貝殻などを捨てていた場所だ。

 学習漫画も読んでいた私は、社会の授業が始まる前に貝塚の存在を知っていた。だが、近所に貝塚があるなどという話は聞いたことがない。

 歴史的な大発見だろうか。疑問は尽きないが、とりあえず貝殻を家に持ち帰った。


 貝殻を眺めつつ、私はこれをどうしたものかと考えた。

 未だ誰も知らない、謎の遺跡の手がかりだ。

 考えに考えた結果、とりあえずしまっておくという結論に落ち着いた。大発見うんぬんより、自分だけが知っている宝物という響きに憧れを抱いたためであった。

 世の中、個人の身勝手な行動により明らかにされない真実というのは、結構あるのかもしれない。


 家族にも明かすことなく、誰にも見つからぬようこっそりと貝殻はどこかにしまわれた。

 私の記憶力の不確かさ、そしてきれいに片付けるという能力の低さが原因で、未知の大発見は混沌こんとんの彼方へと消え去ってしまった。


 せっかく出てきた貝殻には申し訳ないことをしてしまったが、今回「未知」というお題が出たことにより、私がこの衝撃的な出来事を思い出し、ここに記すことで多くの人々に事実を届けられたということが、せめてもの救いかもしれない。


 ところで、当時の私の一連の行動を家族が見ていたならば、さぞかし不思議に思ったことだろう。

 あいつはなぜ、ゴミ捨て場からアサリの貝殻など拾ってきたのだろうか、と。


(了)

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