第2話 チーム作成

世界が、少しずつ騒がしくなっていく。


新しいプレイヤーが入るたび、

同じ混乱と、同じ質問が繰り返された。


「帰れないの?」

「これ、夢じゃないよな?」

「死んだらどうなる?」


kaichanbabyは、すでに分かっていた。

この世界は“攻略”する場所じゃない。


――暮らす場所だ。


彼は、メニューを開いた。

見慣れたUI。

現実では何千回も触れた画面。


HOME SETTING

Home 1:未設定

Home 2:未設定

Home 3:未設定


「……3つまで、か」


個人ホーム。

TP可能。

死亡後も、任意で戻れる安全地点。


さらに、もう一つ。


TEAM HOME:未設立


チーム拠点。

複数人が共有できる、帰る場所。


kaichanbabyは、少しだけ目を閉じた。


「……ソロは無理だな」


人が増え続ける以上、

混乱は必ず起きる。

PvPも、資源争いも、拠点破壊も。


放置すれば、この世界は壊れる。


だから――


「作るか」


彼は、チーム作成画面を開いた。


Create Team

Team Name:


一瞬の迷いもなく、打ち込む。


kaichanbaby


確認。

決定。


視界の端に、小さな通知が出た。


Team [kaichanbaby] has been created


次の瞬間、チャットが更新される。


[kaichanbaby]kaichanbaby: テスト



自分の名前の前に、チーム名。

世界最強だった証が、タグとして可視化される。


チャットが、静まり返った。


REX_777: ……え?

LimeCat: そのタグ、まさか

mikan_soda: 本人?



kaichanbabyは、否定しなかった。


[kaichanbaby]kaichanbaby: ああ

[kaichanbaby]kaichanbaby: 元世界1位だ



数秒の沈黙。


そして、一気にチャットが爆発した。


parkourKid: うそだろ

youtuber_Aoi: マジで本人!?

REX_777: じゃあ、この世界どうなるんだよ



kaichanbabyは、拠点予定地に立ち、地面を見下ろす。


「まず、帰る場所を作る」


ブロックを置く。

無駄のない配置。

防衛、視認性、リスポーン動線。


チームホーム設置。


TEAM HOME SET


「ここが、最初の“拠点”だ」


チャットに、短く打つ。


[kaichanbaby]kaichanbaby: 生き残りたい奴は集まれ

[kaichanbaby]kaichanbaby: ここは終わらない世界だ

[kaichanbaby]kaichanbaby: だから、秩序が必要だ



一人、また一人と、

プレイヤーが拠点にTPしてくる。


恐怖を抱えた者。

興奮している者。

現実を受け入れられない者。


kaichanbabyは、全員を見渡した。


「この世界に、ラスボスはいない」

「クリアも、脱出もない」


そして、静かに言った。


「あるのは――生き方だけだ」


世界最強は、

もう“最速クリア”を目指さない。


終わらない世界で、終わらせないために。


チーム

[kaichanbaby]

その名前は、やがて

このログアウト不可サーバーの

“基準”になる。

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2025年12月24日 00:00
2025年12月26日 00:00
2025年12月28日 00:00

ログアウト不可の世界で元世界最強は生きることにした @orange_2916

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