9月、事情聴取の日

うだるような暑さが引いていき、9月とは思えない涼しさの中で、僕、勝功康太は駅にいた。なぜ駅にいるかというと、これから取り調べを受けるためだ。僕はは亡くなった壮太とはかなりの接点があるため、親友だからと言って取り調べを受けない理由にはならなかった。

「今日はよく冷えるな」

そういいながら僕は少し苦笑いを浮かべた。そこまで冷えてるというわけでもないが、最近の9月はあまり暑さが引かず、じめじめとした暑さが続くのだ。

駅から警察署まではそこそこ距離があるため、僕はあまり歩くのが好きではない性格だが、歩いてみることにした。

道を歩きながら、僕は思い出に浸っていた。

僕はこれから取り調べを受ける警察署の近くに昔住んでいて、警察官を目指したのは警察署が近くにあるからというのも理由には入るだろう。

そして近くに大きな公園があり、そこには大きな池があるので、少し見に行くことにした。

僕は取り調べに行くのに少し躊躇していた。僕は取調室のことが嫌いだったのだ。

取調室で犯罪を犯した者の独白や虚言を聞くのがうんざりしていて、自動的に取調室が嫌いになっていったのだ。

そうこう考えているうちに公園へ着き、自販機で涼しげな気温には合わない缶コーラを買い、公園のベンチで座りながらぼーっとしていた。

そのとき、少し見覚えのある顔が目に入った。

同じ警察署に勤めている磯山大がいたのだ。

康太と大はあまり関係が深いわけではないが、昼飯などには誘い誘われの仲だった。

それにしてもなぜ彼がここにいるのだろう。

すこし声をかけてみることにした。

「よう、大、どうしてここに?君僕と同じ東京のほうだろ?なぜ埼玉のこんなところに?」

大はすこし驚いた顔をしてこちらを見て、すぐに

「おお、康太!実はさあ、ここらへんに美味いうなぎの店があると聞いてやってきたんだ、俺はうなぎが好きなもんでね」

と言った。

「なるほど、そりゃ偶然だな。僕はここの警察署に用があってね」

大はすこし不思議な顔をしてこちらを見た。

「なぜこっちの警察署に?まさか君ここらへんで犯罪犯した?よくないねえ、君警察官だろ?」

「おいおい勘弁してくれ、僕がそんなことするわけないだろ。実は友人が殺害されたそうで、僕は参考人なんだ。」

大は少しきまずそうに、

「それは...すまない。少し変なことを聞いてしまった。」

「いや、いいさ。もう言われ慣れてる。それよりうなぎの店ってあそこの店だろ」

とうなぎやの方向を指し、こう言った。

大は顔を明るくして、

「いいのか?変なことを聞いてしまったり、うなぎ屋を案内してもらったりで、なんて俺は酷いやつだ...うなぎ食いたいか?良ければ奢らせてくれ」

僕はすこし考えてこう言った。

「お気持ちは嬉しいが、時間が押していてね、今は食べれるようではないから、またあとで缶コーヒーでも自販機で買ってくれ。それで許してやるよ」

大は少し困った顔をしながら、

「わかった。またあとで!」

と言いながら僕が指をさした方向へと歩いて行った。

そして僕は少し急ぎ足で警察署へと向かった。

急ぎ足で向かいながら、僕は友人のことを考えていた。

彼に出会ったのは中学に入って2学期に入ったころ。僕はそのころ友人が一人もできず、いわゆる陰キャというやつだった。

いつも教室の隅で自分の好きなコンピュータについての本を読み、運動神経も悪く、人と話すのが苦手だったのだ。

そんなとき、壮太と出会った。

彼はクラスの人気者で、運動神経は抜群、成績も優秀、性格も良く、僕とは正反対の人間で、僕は関わろうとはしなかったし、関わろうと思っていなかった。

しかし、ある日の体育の時間、バスケットボールの時間で、クラス内で5人チームを作り、対抗で争うという内容であった。

そして当然のように周りは仲のいい者同士でチームを組み、僕だけ一人でぽつんとしていた。

そんなとき、壮太がいたチームが4人で、僕が入ったらぴったりということになった。当然壮太以外の人間は僕を毛虫のように嫌がり、4人チームでやろうと言い出した。しかし壮太だけは違い、僕をチームに入れてくれた。

そして試合が始まり、ぼくらのチームの番になった。

僕は訳が分からず、ただそこら辺を走り回って自チームの邪魔になったりもした。

そして試合が終わる直前、壮太がボールを持ちながら敵に囲まれている最中、僕にパスを出してきた。

僕はゴールに向かって適当に投げた。そしたら偶然ボールがゴールのリングへと吸い込まれ、スリーポイントシュートを決めれたのだ。

そこから自チームは勝ち進み、見事1位に輝いたのだ。

そこからだ、壮太との関係が始まったのは。

彼との出会いで僕は運動もするようになったし、成績も優秀になっていった。彼が僕の人生の分岐点にいる存在だと言っても過言ではないだろう。


そんな思い出に浸っているとき、僕は知らず知らずのうちに涙を流していた。


少し早歩きをしながら涙を拭う。そう、こんな思い出に浸っていても意味はないのだ。今は彼の仇をとるために、いろんな情報をかき集め、この「事件」を解決するのが僕の使命なのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無に帰す いのしし @inosisi0731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ