無花果

久保 心

第1話 無花果

雨が打っていた。無花果はその雨を受け、ぱらぱらと、乾いたような音を立てている。遠方に見えた黒い車が、ゆっくりと、音を伴い私を掠めてゆく。視線を戻すその先には、一房の無花果が、投げ出されたような形で落下し、潰れていた。飛散した赤い果肉は、無機質な道路一面に、飛沫のような赤色を染めている。抉れた一つの無花果。左半分のみが潰れたその果実は、剥き出しの果肉を示すのみで、赤い液体を少しばかり流していた。止むことのない静かな雨は、その赤い液体と混じり合い、排水溝に流れてゆく。

道路に濡れる赤い果実。剥き出した赤い肉。その潰れた無花果は、とめどない雨を受けて、より一層、艶やかな赤光を顕示していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無花果 久保 心 @kubo_47

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る