路上教習

いまかれ

短編

ある18歳を迎えようとする少年が、運転免許

取得のため一般道で路上教習を受けていた際、重大な交通事故を起こしたそうです。


警察による事故現場の検証結果は
「教習車が

交差点右折時、時速80kmで対向車と衝突」


事故現場は極めて凄惨で、
教習車は車体前方

左側が大破し、対向車は前方部分が全損。


現場に残されていたブレーキ痕は対向車のもののみで、教習車には一切確認されなかったとのこと。


死亡者は3名。
教習車を運転していた17歳の少年と、対向車に乗っていた夫婦2名。


通常、路上教習には必ず教官が同乗します。

なぜ、教官は被害を受けなかったのか。


事故現場付近で、ただ一つだけ一致していた

目撃証言があったそうです。


交差点の手前、教習車が減速することなく走行していた最中、


「助手席側のドアから、同乗していた教官が

路上に飛び降りた」


車はそのまま速度を上げて走り続け、
数秒後、交差点に進入し、対向車と衝突しました。


警察が教習車を詳しく調べたところ、
大破した助手席側から、瞬間接着剤の成分が大量に検出されたそうです。

事故直前まで教官が乗っていた、助手席から。


「何か理由が無いとおかしい」


走行中の車から飛び降りた教官は、すぐに

救急車で運ばれ、数時間後に意識回復。


意識回復後、警察は病院へと向かい、教官へ

事情聴取を行いました。


教官は、終始淡々と

「補助ブレーキが効かなくなって、それまで

会話していた受講生がパニックになっていた

ような気がします」

「危険を感じたので、咄嗟に車外に出ました」

「手袋を補修するための瞬間接着剤がポケットから落ちたんだと思います。手袋がよく破れる

ので」

「飛び降りた後の記憶はないです。どうせなら

事故の瞬間見られれば良かったのに」



車両の整備不良等の可能性を鑑みた警察は、

教習所へ向かいました。


教習所が所有する教習車全台の整備記録を確認しましたが、何の所見もありませんでした。


しかし、

不可解な点が一つだけ見つかりました。


現在入院している教官の、人が一人入れるほどの私物ロッカーから、大量の瞬間接着剤、何度も使ったであろう複数の汚れた手袋、固まったティッシュの束。壊された大量のミニカー。


その場にいた警察官たちは、同時に顔を見合せました。


異常の無い車両状況、3人もの命が奪われた

教習車による凄惨な事故、ロッカーの中の

状態...

静まり返った室内で、警察官はこんな会話を

したそうです。



警察官A「変な私物ですね...瞬間接着剤もあまりに多いし...」

警察官B「まさか、これを使って補助ブレーキ側に細工を?」

警察官A「え、そんなことあります?」

警察官B「受け答えも変だったよな、どうせなら事故を見たかったって」

警察官A「確かに、ちょっと変わった人でしたね...」


警察官C「......おーい!鑑識の結果出たって!」


警察官B「どうだった?」

警察官C「車両への細工の痕跡は一切無し。

運転席の少年が、一般道走行中に助手席の教官を左手で数十発の暴行、教官が車外脱出後、

単独で暴走。だってよ。」


警察官B「は?えっ、、は?」


警察官C「少年の親の話だと、イライラすると急にキレ出すことがよくあったんだと。教官には殴られた痕跡が多数あって、飛び降りた影響もあって軽い記憶障害になったみたい。事情聴取した時も、殴られたこと覚えてなかったんだな」


警察官A「えぇ...」

警察官C「殴られながらスピード上げられたら、飛び降りても不思議じゃないか」


警察官B「......え、じゃあこのロッカー何?逆に怖いんだけど...」


警察官A「壊れたミニカー...汚れた手袋...

固まったティッシュ..」





警察官B「......帰ろか」





令和8年4月1日より仮免許取得可能な年齢が引き下がって17歳6ヶ月とのことです

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路上教習 いまかれ @imakare

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