異世界配信者ですが何か? 追放された俺のダンジョン配信がバズって勇者たちが土下座してきた件

@tamacco

第1話 追放された実況者、異世界にログイン

「レオン、お前はもういらない。パーティーから外れてくれ」


その言葉を聞いた瞬間、俺の喉から乾いた笑いが漏れた。

まさか、ゲーム実況時代にさんざん見たテンプレ展開を自分が食らうとは思わなかった。


「……は? ちょっと待てよ、いらないってどういう意味だよ」


「どういう意味もなにも、回復アイテムを使うしか能がないサポーターなんて足手まといだ。魔王討伐隊に必要なのは戦力だけだ」


リーダーの勇者カイルが言い放つ。

今も整った顔と光り輝く剣のおかげでファンは多い。配信者としての再生数もうなぎ昇りだ。

……ああ、羨ましいね。俺が持ってない全部を持ってるやつ。


「それに、お前さ……配信しながら戦うとか正気か? ふざけてんのかよ」


「べ、別にふざけてねえよ。情報共有と戦闘記録兼ねてただけで……」


「言い訳はいい。お前が魔物にやられそうなとき、そいつを守るために何人かが危険に晒されたんだぞ? そんな奴はもういらない」


……呆れられたような視線。そして、俺が最後に見た仲間たちの顔は、目も合わせようとしない薄情なものだった。


それきり記憶が途切れ、次に目を開けたとき、俺はダンジョンの外の草むらに放り出されていた。


ベルトにぶら下げていた小さな端末、俺が前世で使っていたスマホが、奇跡的に生きていた。

割れた液晶にノイズが走り、見慣れたアプリ一覧がかすかに光る。


「……は? え、これ圏外じゃないのか?」


異世界転移してから三か月。スマホは電源すら入らなかった。

にもかかわらず、今、通知がピコッと鳴った。

画面には見覚えのある文字が並んでいる。


【異界ネットに接続しました】

【配信アプリ“StreamGate”が起動しました】


手の震えを抑えながら、俺は思わず笑っていた。


「おいおい……マジかよ。配信、できんのか?」


この世界には魔導通信だの、映写水晶だのと呼ばれる原始的な通信技術があるが、リアルタイムでネットワークを繋ぐなんて夢物語だった。

そんな中、スマホの通知が次々と流れ、コメント欄が立ち上がる。


【初見です】

【この世界の配信者?】

【カメラ画質すげえ!】


目を疑った。誰だよ、こいつら。いや――見てるのか? 本当に俺の映像を?


「……ちょ、ほんとに繋がってるんだな。えー、ども、レオンです。今、追放されました」


どこかで笑いが込み上げてきた。

こんなバカな展開、俺がやるはずなかったのに。


「今から一人でダンジョン攻略します。……配信しながらね」


数秒後、コメントが増える。


【一人? 無謀すぎ】

【でも面白そう、応援します!】

【追放って何したん?】


少数とはいえ、初期視聴者がいる。それだけで心が浮き立つ。

現代でも配信をやっていた頃のあの感覚が、手の中に戻ってきた。


俺は草むらから立ち上がり、洞窟の入り口へ向かう。

空気が湿っていて、薄暗く、奥から獣のうなり声が聞こえた。

ただの初級ダンジョン――のはず。


カメラボタンを押すと、スマホの裏のカメラが青白く光った。

視界の隅に、リアルタイムコメントが浮かぶ。


【おお、入った!】

【怖っ。でも映像きれい】

【この勇気、推せる】


たった数件のコメント。それでも、炎のように胸の奥が熱くなる。


「よし、まずは実況やってくか」


半分冗談、半分本気で、俺は昔の癖で口を開いた。


「えー、みなさんこんにちは。レオンです。未踏ダンジョン、初見チャレンジしていきたいと思います。今日はね、追放記念なので、死なない程度に頑張ります!」


【草】

【死なない程度ってフラグw】

【頑張れ!】


笑う声が聞こえる気がした。


足元に転がるスライム。青い半透明の粘液がぬるっと動く。

ゲームでは見慣れた光景だが、現実で見たのは初めてだ。


「じゃ、1匹目、いきまーす!」


俺は腰の短剣を構える。

ヒュッという空気音。斬撃がスライムを半分に裂いた。


想像よりあっけない感触。切断面がゼリーのように震えて、ぴちゃりと消える。

その瞬間——


【ナイス】

【スライム討伐おめ!】

【これでレベル上がった?】


「……まじか。コメント早すぎだろ」


同時に、スマホの画面下に「チップを受け取りました」と表示が出る。

金額を見ると、銀貨二枚分ほどの価値。


現実の貨幣で換算するなら、昼飯代くらいにはなるだろう。


「こ、これは……投げ銭、か?」


【初スパチャ記念!】

【もっと冒険配信してくれ】

【草原サバイバルも見たい】


なんだこれ。テンションが上がりすぎて笑いが止まらない。

異世界でスーパーチャットをもらうとは思わなかった。


「よし、リクエストありがとな! じゃ、奥行ってみようか」


足を進めるごとに、壁の苔が淡く光る。

奥に進むほどに魔力濃度が上がっていくのがわかる。

配信画面には、視聴者がどんどん増えていった。


【視聴者20人突破】

【この世界の配信界、来たな】

【他の冒険者も真似しそう】


「いやー、俺なんかが先駆者ってのも変な話だよな」


軽口を叩きながら洞窟を曲がると、ゴブリン数匹がこちらを見ていた。

鋭い牙、粗末な武器、いやな臭気。

心臓が跳ねた。だが、何よりコメント欄がすごい勢いで流れていく。


【きた! 敵!】

【レオン戦え!】

【逃げるな! カメラ映せ!】


「OK、わかった! やってやるよ!」


気づけば叫んでいた。

ゴブリン一体が突進してくる。

俺は身をかがめ、短剣を滑らせるように突き立てる。

感触と同時に血の匂いが広がる。


【強っ】

【今の動きカッコいい】

【無自覚最強?】


「……やべ、俺、今カッコよかった?」


冗談のつもりだったのに、コメント欄は盛り上がっていた。

心臓の鼓動と一緒に、画面のハートマークが止まらないほど増えていく。


「……まじで、配信向いてんのか、俺」


だがその直後、背後から別のゴブリンが襲いかかってきた。

気づくのが遅れ、右腕に浅い傷。鋭い痛み。


「っ……!」


コメント欄が一斉に反応する。


【やばい!】

【回復使え!】

【生配信で死ぬな!】


「大丈夫……っと」


胸元から小瓶を取り出し、回復薬をかける。

ジュッと煙が立ち、傷が閉じる。

カメラ越しに映るその光景に、コメントが弾けた。


【ヒール演出すげえ】

【魔法よりリアル感ある】

【広告案件いけそう】


笑ってしまった。まさか異世界で広告案件って。

本来なら追放の絶望に沈んでるはずなのに、いまはただ、楽しい。


洞窟の奥に進みながら、俺は気づく。

ずっと感じていた無力感。誰の役にも立っていないと決めつけていた過去。

でも俺には、これがある。配信がある。

「誰かに見てもらう」という力が、なにより強い。


配信ウインドウの視聴者数が、ふと見た瞬間——100を超えていた。


「……おいおい、まじかよ。バズった?」


次の瞬間、通知が鳴る。


【黒翼商会からスポンサー申請が届きました】


「スポンサー……? おいおい、異世界でもそういうのあるのかよ!」


笑いが込み上げる。

この調子で行けば、俺の人生、まだまだ面白くなりそうだ。


タップ一つで、世界が変わった。

追放された実況者、レオン。異世界でも、カメラは回り続ける。


――俺の新しい冒険は、配信スタートだ。

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