第8話
気付いたレイクワームが頭をもたげて首を振る。剣を薙いで攻撃を逸らした。少し手が痺れるが気にしないでいい範囲だ。
モンスターの頭に肉薄する。回り込んで側面。
「えいっ」
掛け声と共に左手に握りこんだ薬草ごとエラに腕を突っ込んだ。
驚いたレイクワームはびくりと胴体を震わせて頭を振る。勢いで少女の身体も宙へと舞った。
「うわわっ」
体勢を整えて着地。素早くレイクワームを確認するとかがちのような五ツ目が濁った緑色になっていた。
えずくようにびくりびくりと全身を震わせている。ヤツにとって、薬草は毒に等しいのかもしれない。
今だ。少女は一足跳びでレイクワームに接近。渾身の力で一気に顎の下から頭上へ突き上げた。それはちょうど逆鱗の隙間。
ぐぎゃるぉぉうっ
レイクワームの断末魔。
どうと音を立ててモンスターは池のへりに頭を横たえた。
ふうふうと肩で息をする少女はそれを見下ろし、ぴくりとも動かないのを見て、剣を振り鞘に納めた。
「勝っ……たぁ……」
へたりとその場に座り込む。地面がぬかるんでいるとかそういうことは、もう気にもならなかった。
背後で男が手を叩いて「おつかれー」と声をかけてくる。
それに手を振り返していると、男の顔色が変わった。
少女に影が落ちる。
「え?」
見上げる。――倒したはずのレイクワームがのそりと起き上がるところだった。
また油断した。牙をむき出しにした大きな口が迫る。
「リタちゃん、頭下げて」
冷静な声。言われた通り頭を下げた瞬間、風を斬る音。
少女の目の前で首を一文字に斬られたモンスターがスローモーションのように地面と池に落ちていくのが見えた。
「最後まで油断しちゃダメだよーぅ」
男の手にはいつの間にか抜かれた剣が握られていた。
少女は目を丸くして男を見上げる。
いつ移動したのだろう。少女のすぐ側に男は立っていた。
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして。リタちゃん、怪我はない?」
そういえば右足も怪我をしていたのだったな、と思い出して見下ろせば乾きかけた泥と血が混じって見ていられないことになっていた。
男は苦笑しながらポケットから瓶に入ったポーションを取り出し、中身を傷口にかけてくれる。少女の荷物の中にもあったはずだが、残念ながらレイクワームが粉々にしてばらまいてしまった。
「リタちゃん、ずっとひとりで戦おうとしてたから見てたけど、仲間はいないの?」
少女は苦い顔で、手当てしてくれる男の手から視線を逸らさない。
「勇者の仲間として、魔王退治を一緒にしてくれるモノ好きなんていないんだよ」
仕方ないことだとはわかっている。それでも寂しい、悲しいと感じてしまう。
黙ってしまった少女に、男もかける言葉がないのか沈黙する。
じゃあ、と先に口火を切ったのは男の方だった。
「ボクが仲間になってあげようか」
え、と少女は顔を上げて男を見る。男はにこやかに微笑んでいるが、真剣な目だ。
「さっきの見たでしょ。ボク、強いよ。ね、仲間にしてよ」
ぽかんと少女は口を開ける。
今までどれほど強さに自信があろうとも、そんなことを言ってくる人は誰ひとりとしていなかった。
――いや、ヒトでないからか。
「……魔王が、魔王を倒す勇者の仲間になるの?」
次の更新予定
勇者リタの冒険~伝説の勇者の剣と三百六十五の魔王~ 伊早 鮮枯 @azaco_KK
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