道場での稽古後、憧れの存在・成沢忠弥(なるさわちゅうや)がいないことに気が付いた三浦半之丞(みうらはんのじょう)。
忠弥は時々、こうしていなくなってしまうようだ。
その日の帰り道、半之丞は寄り道をしようと河原の方へ歩を進めた。
すると、土手下のススキ野原で、誰かが寝ている。
近くに寄るまで気が付かなかった半之丞は慌てて謝るが、返ってきた声は聞き覚えのあるもので……。
世界観を魅せる端正な文章が、とにかく美しいです!
静かな秋の空の下、飛び交う赤とんぼやススキの穂が揺れる……そんな情景がありありと目の前に浮かんできました!
そんな空気の中、想い人を見つめる半之丞の眼差し、そして飄々と対応する忠弥。
忠弥に、見つめる理由を問われた半之丞の嘘……二人のやり取りに、読んでいるこちらにもドキドキが伝わってきます!
微BLもののすばらしさを味わえる逸品、是非ともご一読を!!!
憧れ。尊敬。敬愛。
そういう感情を抱いている人を前にすると、どうにも人間はおかしくなってしまうものなので滑稽だもんで。
普段とは違う言葉遣いをしてみたり、わかりづらい嘘などついてみたり、無理してお退けて見せたり。
マクラが長くなり申したな。
道場の稽古が終わり、半之丞は川に寄り道をしておりますと、
忠弥という男がススキの上で横になって寝ているのを目撃いたします。
半之丞はこの忠弥に、憧れの感情を抱いておりました。
敬愛している人の寝顔が間近に。しかし、彼らの間には身分の差もあります。
ままならぬ一方通行の思い。しかし、それもまた、人間の滑稽で面白おかしな部分なのではないでしょうか。
ご一読を。
青い空。爽やかに吹く風。赤トンボ。
青年、少年たちを囲む故郷の自然は何処までも美しい。瑞々しい。
そんな故郷の中で秘かに年上の若い武士、忠弥を慕う半之丞。
そんな半之丞の純情が健気で愛おしい。
それを受け止める忠弥の大らかさも。
おそらくこの若者たちは大名の上士(エリート)の子息であり、もう少し年齢がいけば参勤交代や国許、江戸屋敷勤め、藩の中でのやり取り、幕府との交渉…など世の中の荒波に揉まれていくのでしょう。
そんな前に起きたとある日の一日。
半之丞はおそらくこの日のことを生涯忘れないのではないか…
そんな無限の想像が働く少し切ない、新鮮な掌編でした。