百合が書きたいので私が百合を自由に書ける空間を作った。誰にも邪魔されない素晴らしい空間だ。あぁー深呼吸深呼吸すぅーはぁーすぅーはぁー

成瀬。

同棲シチュ:きくとあや

 息を吐くと、白く濁る。そういう季節から、夢の同棲生活は始まった。

 夢の……? 夢のか。夢だったな、うん。


 好きな人が寝ても覚めても隣に居るという幸福感を抱いたまま、私は高校へと通っていた。大学生の彼女を持つと、一緒に家を出るタイミングが中々無いし、本当は見送りたい側なのに見送られる事が多い。ここは少しだけ不満だ。

 たまには一緒のタイミングで外出ろよぅ! 


今日は日曜日。私もきくも何もない暇な一日。私は暇であれば一日家から出ずくっついていたい性分。それに比べて、きくはデート行こう、と沢山私を誘惑してくる。


「見て、あやちゃん。おしゃれした。デート行こう」

「私はおしゃれしてないからやだぁ! お外こわい!」

「華の女子高生がお外怖いはどうなの……」

「きくに引っ付いていたい!」

「じゃあわたし外行くから引っ付きたいならお出掛けするしかないね?」

「そんなぁ! かわいいかわいい愛しの彼女が家に居よって言ってるのに!」

「自己肯定感高くて可愛いね。そんな世界一可愛いあやちゃんを自慢したいので外出よ? デート行こ?」

「…………やだ。やだやだやだ!」


 私の腕を引っ張る彼女に対し、私は全力で踏みとどまる。


「なんでそんなに嫌なの?」

「嫌というか、面倒くさいっていうか。きくがここに居てくれるなら外出る必要無くない? 下界になんて興味無いよ。好きな物だけ見てたい」

「下界て。確かに天使のような可愛さではあるし、死後、神様によって召し上げられるべき存在だけどさ」

「いやそこまでは言ってないが?」

「十三星座の最後の席はへびつかい座じゃなくてあや座だよ」

「ギリシャ神話かな? 天使って話だったはずでは?」


 たまに言っている事が解らなくなる。こういう時はテンションがおかしい時。


「ちなみにどこ行くの? こんな快適な自宅があるというのに、わざわざ下界という艱難辛苦を乗り越え辿り着きたい場所はどこなのさ」

「なんでそんなハードル高い? 普通にカフェだけど。冬季限定イチゴパンケーキを食べたいので」

「冬季限定イチゴパンケーキ!?!?!?!?!?!?!?」


 おいそれを早く言え! 全く、これだから報連相が出来ない人は! こうしちゃいられない!


「すぐ準備する!」

「チョロいね。何か怪しい人とかに着いて行きそうに心配になる……学校で変な男に絡まれてない? 大丈夫? 襲われたらちゃんと金的狙うんだよ?」

「学校だと女子グループで強固な壁を作ってるから大丈夫。私もきくの話しかしないから」

「いやどういう状況それ? わたしの話してるの? なんで?」

「きくの話してる時が一番楽しい」

「それ周りは楽しくないよ。コミュニケーション取れてないじゃん。一方的な情報の押し付けじゃん。キャッチボールですらないよ。人は壁じゃないんだよ?」

「私が楽しければそれでいい!!!!!!」

「うわ」


 そんな話をしながら爆速で着替える。


「お着替えした!」

「お化粧しようね」

「え」

「え、じゃない。世界一から宇宙一可愛いにスケールアップしようねぇ」

「これ以上可愛くなっちまったらSANチェックが発動してしまう。ほら、1d100振って? あ、失敗? じゃあ1d5ね」

「最大値で一時的発狂じゃん。わたしは既にあやちゃんの可愛さだけで不定に入ってるよ」

「こっわ。何、私顔面兵器か何か?」


 猶更外界には出られないじゃん。私の美貌だけで恐怖症発症するの怖すぎる。


「じょーだんは置いといて、あやちゃんこっち。座って?」

「……ぅぃ」

「めちゃくちゃ嫌そうな顔。片手で握りたいね」

「キュートアグレッションやめて怖い。それただの加害だからDVだから!」

「でも夜は」

「今はその話は関係無い黙りなさい」


 癖なんだから仕方ないと思うけれど程々にしないといつか本当に私が死ぬ。実際気絶した事がある。


 そんな話をしながら、きくは私の顔にぺたぺたと落書きメイクする。優等生なので高校に化粧して行く事は無いし。大学に入ったら必須だというけれど、私はきっとこれから永遠にきくに化粧をしてもらう事になるので無問題モーマンタイっ! これからずっと一緒なんだし、分担だよ分担。私が料理する代わりに、的な?

 まぁ、大抵の場合、出来るからやってるだけなんだけど。きくも私がやらないからというより、殆ど自分の為の様なモノらしいし。この世で一番可愛い彼女を世界中に自慢するつもりでいつもやってる、と言ってた。その執着はぶっちゃけ怖い。


「目、瞑って」

「キスするには早いよ?」

「しないよ。アイシャドウだよ」

「しないんだ」

「後でしまァす!」

「声デカ。五月蝿いよ」


 仕方なく目を瞑ると、少しだけこそばゆい感覚が瞼の上をなぞった。パウダーを目の上の少し窪んだ場所から指で広げる。これで上瞼が明るくなるらしい。次にした瞼のクマの部分にまた別の彩のアイシャドウを小指でのせると今度はフレッシュな印象になるらしい。次はピックを……


「長い」

「我慢してね~、マジで宇宙一可愛くなるから。安心してわたしに任せたまえよ」

「じゃあすっぴんはそれほどってこと?」

「ばか、すっぴんは世界一って言ったじゃん。それとこれとは別なの。可愛いに可愛いを上乗せしたら最強って解らない?」

「うーん、どうだろう。流石にきくにあれだけ可愛い可愛いって言われたら自分の事可愛いかもとか思っちゃうけど……」

「私が言わなくても色んな人に言われてきた癖に。客観的に見て自分の容姿が整ってる事なんて解るくない?」

「確かに言われるけど、でも自分が思うかどうかは別でしょ。というか、きくに可愛いって言ってもらえるならそれだけで良いし。化粧は……ほら、しなくても世界一って言ってくれるし、いいじゃん?」

「はい、出来た。わたしはあやちゃんを愛しているのでフィルターで8Kになってる可能性もあるかもしれないけど、落ち着いてあやちゃんを見てもやっぱ可愛いから、可愛いよ」

「言ってる事めちゃくちゃすぎ。可愛い以外ないの?」

「え、可愛い以外に? 良いの? 今日ずっとその話になるけど、ほんとに良いの?容赦なくあやちゃんの好きな所とフェチポイントを延々と語って聞かせる事になるけど覚悟出来てる? わたしは出来てるけど」

「出来てない出来てないやめて止まってうるさい!」


 暴走列車か何か? 汽笛が凄い鳴り響いた。


「これで、終わったの?」

「終わったよ~。鏡、はい」

「…………んー」

「お気に召さない?」

「きくって、なんでメイク上手なの?」

「え、あやちゃんを可愛くするため覚えたに決まってるけど? 今って動画サイトで有名な人が仕方を教えてくれたりするんだよ。それをね~どれくらいだろ、一年は練習したかな? 実験体がわたし自身だったから、自分にするのも変にはなってないと思ってるけど、あやちゃんにするのだけは世界で一番上手い自信がある」

「こわ。ありがとね」


 そんな事を言われると、我慢する他無い。素肌のケアもきくに叩き込まれた。実際、それから肌はぷるぷる。素肌が赤ちゃんって言われてしまったくらいだ。それはそれでどうなんだ? とは思うけどね。


「さ、お出掛けの準備は出来たね?」

「うぅ……時間経つと億劫になるぅ。きくぅ、抱っこして連れてって」

「え、やだ」

「そんな! いつもなら冗談でもわかった! って言うのに!」

「今日は手繋いで歩きたい気分だから……」

「えぇ……そういう日もあるか……」


 抱っこしてとなると、大抵の場合車で移動する事になる。きくの体力はカフェまで持たない。というか、そもそも私を持ち上げる事が出来る時点で凄いんだけどね。私きくを持ち上げる事なんて出来ないし。


「うぇへ、かわい……あやちゃん写真撮っていい? SNS投稿したい」

「えぇ……消えるやつ? 保存もスクショも対策完璧?」

「というか鍵垢だから、わたしの友達しか見ないよ。わたしがあやちゃんと同棲してる事を知ってる人だけ」

「なら……まぁ。でもツーショじゃないとやだ。単体はやだ」

「えーわたし写真写り悪いんだけどな……」

「私が宇宙一可愛く居られるのはきくの隣だからだよ。だから単体撮っても自慢にならないよ」

「は? 何それずるいくらい反則なセリフ。え、ずっる。は? わたしの隣だから? は? え? 何? 何が起きた?」

「ほら、はいちーず」


 ぱしゃり。ときくのスマホを勝手に使って写真を撮る。


「これでいいでしょ?」

「待ってわたしの顔終わってる。きっも。わたしこんな顔してるの? マジ? あやちゃんよくこんなのと一緒に居るね?」

「好きだよ? この顔」

「嘘でしょ? 待ってやめてこの顔は好きにならないで普通のわたしを好きになって?」

「私はきくの全部好きだよ?」

「ふ、もう一回言って」

「うるさい。行くなら早く行こ?」

「今晩沢山言われてやる」

「やだ、明日学校だもん。長いじゃん。やだ」

「て、手短に済ますから……」

「嘘ばっか。この前だって結局──いややめようこの話。ねぇ早く行こ? パフェ食べよ?」

「うん。でもその前に、抱きしめさせて……。外出てる間摂取出来ないから」

「ん、やっぱ外出ないでおこうよ」

「だめ。今日逃したら来週になっちゃう。我慢出来ない」

「はいはい、なら、ほら」


 手を広げると、きくは高級な陶器に触れる時の様に慎重に私の背に腕を回して、ぎゅっと寄せる。


「これで良いね。じゃあ行こ」

「はぁ~……やわらけぇ……これがわたしだけしか堪能出来ない幸せか……」

「ちょ、嗅がないで。匂い一緒でしょ」

「えぇ~違うよ? シャンプーもボディソープも同じだけど、わたしは香水付けてるし、あやちゃんは何もつけてないのに甘い匂いがする」

「……、きくもあまいよ?」

「あやちゃんが好きって言ってくれたの付けてるからね。あやちゃん好みの匂いのはず。同棲してても匂いって結構変わるねぇ」

「うん。それは良いんだけど、そろそろ離れてよ。早く行かないと人増えちゃうよ?」

「う……そうね、行こう……、あぁ、離れ……うぅ……」


 少し離れるときくがとても悲しそうな顔をしながら、名残惜しそうに私に手を伸ばす。その手を取って玄関へ引っ張る。

 さっきと逆じゃん。なんて思いながら無理矢理彼女を玄関に連れ出す。きくは私に引っ張られながらもテーブルの上に置いていた鞄を手にする。私が必要にしてる小物も入ってる。鞄はファッションの一部、だと言うけど、私はあまり持たない。何せ全部スマホで済むから……。鏡だってスマホの反射で良いし、なんなら内カメがある。


「お外寒いかな」

「結構厚着した大丈夫じゃない? 車にする?」

「んーん。手繋いで歩きたいんでしょ?」

「うん。ありがと」


 そうして靴を履いて、二人で一緒に手を繋いで外へ出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合が書きたいので私が百合を自由に書ける空間を作った。誰にも邪魔されない素晴らしい空間だ。あぁー深呼吸深呼吸すぅーはぁーすぅーはぁー 成瀬。 @narusenose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ