お話ししましょう、超音波で
長谷川リュネ久臣
誰かの生活を感じたい
洋画の食事の場面を見たい。
フォークを逆手に持って、卵をすくうところが見たい。
食器の触れ合う音が聞きたい。
厚ぼったいマグからコーヒーを啜るのが聞きたいです。
精神がよくないときの頭痛がする時は、映画を観ます。
見終わってみると、自分のたてる音が、効果音に聞こえるようになっています。
そのとき、自分で自分の生活を、感じられるようになるんです。
人間に最期まで残るのは、聴覚だと言います。
自分で自分の音を聞くと、自分の存在を強く感じます。
誰かの生活を感じたい。
イルカの超音波を知っていますか?
イルカは超音波の跳ね返りを受け取って、向こうにあるものの位置を知るのです。
暗い海を、音ひとつで、読みこなす生き物です。
自分で自分の目を見ることが、人間にはできません。
触っている感覚なしに、自分の体を触れません。
でも音は、自分のたてる音は、私の体の外から聞こえてきます。
自分の存在が跳ね返る。
ところで。
さっきから、呼びかけていますがね。
私は一言も発さず、頭の中にいるあなたとお話ししております。
そして、私の呼びかけをお読みであるということは。
あなたは一言も発さず、私のお話を、聞いておられるようですね。
音のない音を聞いておられる。
あら! 超音波が跳ね返って、あなたの生活を感じました。重畳!
これを歌にしましょう。
合唱コンクールの自由曲にしましょう。
暗い海のためのアリアとか、そんな感じの題名はどうです?
気取りすぎですね。
とにかく、私の生活を、聞いてくれてありがとうございます。
あなたの生活を跳ね返すために、私は歌っておりますから。
よかったら水族館にでも行きましょう。
私がボールを突くところ、是非ともお見せしたいのです。
暗い海を、読みこなす、お友達へ。
お話ししましょう、超音波で 長谷川リュネ久臣 @fuwafuwa_kani
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます