第10話 新パーティの不穏な初クエスト。
僕たち『月夜の
パーティ結成して初めてのクエストが名指しの依頼であり、普通はありえないような話である。
「すまんな。呼び出して」
「いえ、この間の件ではご迷惑をお掛けしました」
「冒険者にはよくあることだ。女の取り合いなんてのはな」
「あはは…………。それで、要件というのは?」
ギルドマスターの執務室で少し難しそうな顔をするギルドマスター。
彼もかつては冒険者であったというだけあり、歴戦の猛者感がとてもある。
バロンズとは違った強さを感じる。
「今回の依頼内容自体はゴブリン退治だ」
「なんだよ〜小鬼共か。つまんねぇな」
「ディアンナ、静かにしてください」
「貴様の口に布でも詰めておくべきか?」
「んだてめぇ? やんのか?」
「すみませんギルドマスター。血の気の多い人たちでして」
「若いってのはそういうもんだ」
なんとかディアンナとルーナさんを
先が思いやられる。
「今回の件は色々と未知数でな。本来はパーティを結成したばかりの君たちに直接依頼していい内容ではないのはわかっているんだ」
「ゴブリンの討伐の推奨パーティランクはEですよね」
「ああ。ベルトニカ王国における冒険者ギルドの規定では例外を除いて再結成したベテラン・中堅も関係なくパーティランクはFからのスタートだ。ゆえに本来なら君たちもFからのスタートだったんだが、私の権限でDランクからのスタートにしてある」
初期パーティランクの異例の昇格、ゴブリン退治。
あまりいい予感はしない。
Dランクからのスタートというのはありがたいが、何やら裏が色々とありそうな話だ。
「ゴブリン退治というのはランクの増減がとても激しくてな。調査では10匹から15匹の群れとあるんだが、それにしては周りの村の被害がやたらと多くてな」
「もっといる、ということですか?」
「もっといるだけならまだいい。だが問題なのは、不審な目撃情報があってな」
「というと?」
「真っ黒いローブの人を見かけた、という情報がちらほらとあってな」
「真っ黒いローブ……」
シルヴィアはそれを聞いて静かに呟いた。
大罪教会がなんらかの関与をしている可能性があるのかもしれない。
「表向きはゴブリンの討伐だが、実際には裏にいるかもしれない奴らの調査も含めての依頼だ」
「要するに実際の推奨ランクはEより上の依頼内容ということですね」
ただ討伐するより厄介な案件らしい。
結成して間もないこのパーティで無事に依頼を達成できるのか不安ではある。
「ああ。ケインとシェフィロス……いや、今はシルヴィアだったな。君たち2人は元Sランクのパーティメンバーであり、ウルフ狂いの
ディアンナの個人ランクはDランクである。
新人冒険者という肩書きにも関わらず適正戦闘試験で大暴れして新人冒険者としては最高ランクのDランクという評価を得られている。
実際にはSランクくらいではあるはずなので、すぐに成果を上げてしまうだろうとも思う。
……まあでも、うちのパーティの1番の問題児であることには変わりない。
「そして今回の依頼において気を付けてほしいのは、ホブ・ゴブリンがおそらく複数体目撃されている。直接の戦闘こそなかったが、ゴブリンの小さな群れではホブ・ゴブリン1匹でボスとなる。だが調査に向かわせた前任の冒険者たちはまだ経験が浅いということもあって色々と面倒だ。この調査結果自体もアテにはしない方がいいかもしれない」
「……つまり、推奨ランクは未定だけど頑張れ、ということですね」
「そういうことだ。まあ私もギルドマスターという立場上、しっかり説明はしておかないといけないからな」
今そんな大人な話は聞きたくないなぁ。
だがシルヴィアのこともあるし、受けない訳にはいかない。
「ちなみになんですけど、なんで『紅蓮の風』ではなくて僕ら『月夜の宴』なんですか? 推奨ランクが未知数なのに」
「場合によっては彼らに頼むことも検討はしている。だが今は君とシルヴィアが抜けて、メンバーの再編成に手間取っているらしい。それに調査も不十分だ。君たちに依頼し、討伐できなくても明確な調査ができればそれに合ったランクのパーティを宛てがうつもりでもある。だが今は、冒険者が減っていて人手不足でな」
魔王討伐後、魔物たちは新たなる魔王になるためにより凶悪になっている。
魔王が元凶だと思っていた悪は、ただ無数の悪意に増えただけだった。
そしてその無数の悪意は新たなる王になるために争い、そして人々を喰い殺していく。
人口は減ったことによって冒険者を志す者も当然減る。
「にしても小鬼退治か〜。あいつら、あんまり美味しくないんだよなぁ」
「ゴブリン喰ってたのか?」
「あまり……美味しそうではありませんけども」
「めちゃくちゃ不味いぞ。だからオレ様は昔から魔石だけ喰ってた。まだ魔石の方が美味い」
「それはそれで異常だがな」
ギルドマスターの執務室を出て僕らは早速ゴブリン退治へと向かっていた。
必要な物のほとんどは事前に買って揃えておいたし、仕事は早く終わらせるに限る。
「シルヴィア、今回の依頼についてどう思う?」
「……大罪教会の件ですか?」
「うん。大罪教会が関わっているとしたら、今回の依頼はどんなことが起きるか推測できる?」
「いえ。わたし自身、彼らについての情報はほとんど持っていません。未だに謎が多く、彼らがどんな手段で目的を達成しようとしているのかも不明な点が多過ぎるのでなんとも」
7人の大罪姫を復活させ、そして新たなる魔王にしようとしている集団。
そんな集団とゴブリンになんの関わりがあるのか。
そもそも大罪教会ではないかもしれないが、何かをしていてもおかしくはない背景がある。
「とりあえず今回の仕事の方針としては、調査をメインにしようと思う。僕とシルヴィアは冒険者パーティとしてこれまでやってきたけど、ディアンナとルーナさんはパーティでの経験はない。なので極力戦闘は避ける」
「小鬼ぶっ殺さねぇの? 体が鈍っちまうぜ?」
「私はそれでいい。パーティとして冒険者をすることに関して私は初心者だ。色々と学ばせて頂きたい」
「個人ランクSの初心者ってもう異常なんですけどねぇ……」
「とにかく、みんなで生き残りましょう」
シルヴィアは頼りになるなぁ。
こういう人と結婚とかしたいよな。
「まあ安心しろケイン。勝手なことはしねぇよ。この群れのボスはお前だからな」
「……ボスって器じゃないんだけどね……」
「ではケイン。ボスっぽくしてみますか? サングラス掛けて金のネックレスとたくさんの指輪に葉巻を吸ってみたりして」
「シルヴィア? 僕をどうしたいの君は……」
「なら私もケインのことをボスと呼ばせてもらおう」
「ルーナさん、やめてください……恥ずかしいので」
ますます
僕以外の個々の能力値は高いとはいえ、それでも油断すれば簡単に死ぬのが冒険者である。
ましてや僕がパーティのリーダーである。
胃が痛い。
大罪教会の関与疑惑もあるし、不安要素しかない。
「まあ、オレ様がいるから安心しろってケイン〜」
と、1番の不安要素が
器用貧乏過ぎてSランクパーティから戦力外通告されたが着いてきた女神官が実は聖女様だった。……なんで? 花房 なごむ @rx6
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