レベル999のカンスト最強キャラに転生、さらに『デバッグ』能力まであるので気ままに無双し、ストレスフリーで生きていく
六志麻あさ@死亡ルート確定2~発売中!
1 最強最終カンスト大賢者、その名はゼファー
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気が付くと、見知らぬ世界が広がっていた。
どこまでも広がる青い空。
そして中世ヨーロッパ風の石造りの街並み。
「ここは……!?」
見覚えがある。
俺がやり込んでいる『マジック・フロンティア・オンライン』――通称『MFO』のスタート地点、『始まりの都』だ。
けれど、何かが違う。
ゲームで見ていた景色よりも、空気の匂いや人々の喧騒、建物の質感が鮮明だ。
あまりにも――鮮明すぎる。
「現実……なのか?」
そういえば自分の体も、以前とは感じが違う。
体全体が軽くなった感じがするし、何よりも活力がみなぎっている。
ブラック企業での激務の毎日で疲れ果てているはずなのに、その疲れを今は全く感じない――。
まるで別人の体になったかのように。
「別人……まさか……」
俺は広場の隅にあった水溜まりに駆け寄った。
水面に映っていたのは、俺とは似ても似つかぬ銀髪の美少年だった。
しかも、よく見知った姿だ。
その姿は、俺が『MFO』で時間と情熱のすべてを注ぎ込んで育て上げた最終キャラクター。
『大賢者ゼファー』そのものだった。
「どういうことだ。俺が、ゼファーになってる?」
混乱する頭で、俺は半ば無意識にゲーム内での操作を思い出し、唱えていた。
「【ステータスオープン】」
ヴンッ。
目の前に半透明のウィンドウが再び現れた。
そこに映し出された情報を見て、俺は息を飲んだ。
【名前】ゼファー
【レベル】999
【称号】大賢者、世界の理を識る者、他多数
【スキル】???
【装備】アルティメットロッド、叡智のローブ、他最強装備一式
【インベントリ】レアアイテム×9999、各種素材×9999、ポーション×9999……。
「うおお……っ!?」
レベルはカンスト、装備もインベントリも俺が最後にログアウトした時の状態だ。
アイテムも全て限界数まで所持している。
ゼファーそのものだ。
ただしスキル欄は文字化けしたように「???」で埋め尽くされていた。
「バグか……?」
俺は試しに、習得していたはずの魔法をイメージする。
「【ファイアボール】」
手のひらに、野球ボール大の炎が揺らめいた。
問題なく使える。
「【アイスニードル】」
次は氷の矢。これも問題ない。
魔法……使えるんだ、俺。
驚きながらも、心の片隅では冷静にその事実を受け止め、納得している自分がいた。
自分が既に大賢者ゼファーであることを受け入れ始めている自分がいた。
その後もいくつかの魔法を試してみたが、いずれも使用可能だった。
つまり――。
「スキル欄は表示バグで、中身は全部残ってる……ってことか?」
ゼファーは『MFO』の全魔法をマスターしていた。
「それが、この現実(?)の世界で全て使える……!」
最強のキャラクターデータを持ったまま、ゲームそっくりの世界に来てしまった。
いわゆる、異世界転生というやつだろうか。
しかも最強状態でのスタートだ。
「最高じゃないか!」
俺は込み上げる興奮を抑えきれず、ガッツポーズを作った。
前世では報われない社畜だったが、この世界なら無双できる。
「うわぁ、わくわくしてきたぞ」
転生後の生活に対する期待感やテンションが爆上がりである。
「じゃあ、まずは情報収集だな」
この世界が『MFO』とどれだけ同じで、どれだけ違うのかを把握しないといけない。
俺は周囲を観察し、通りを行き交う人々の会話に耳を澄ませた。
彼らはゲーム内のNPCとそっくりな格好をしている。
「ようこそ、『王都レグアリス』へ。ここは大陸で一番大きな街ですよ」
「レグアリス……? 『始まりの都』じゃないのか」
ゲームと地名が違う。
「おい、聞いたか? 最近、どうもイベントの順番がおかしいらしいぜ」
「ああ。本来なら『春の収穫祭』が先のはずなのに、いきなり『王都防衛戦』の準備が始まった」
「世界に何かひずみが出ているのか……?」
聞こえてくる会話のほとんどは生活感あふれるリアルなものなんだけど、その中に、そのまんまゲームのNPCのような会話が混じっている。
「『春の収穫祭』はシナリオ序盤のイベントで『王都防衛戦』は中盤の終わりごろのイベントだ……話の通りなら確かにイベントの順番がおかしいな」
俺が眉をひそめた、その時だった。
「きゃあああっ!」
広場の一角から、甲高い悲鳴が上がった。
見れば、立派な荷馬車を引いた商人が、見るからに凶悪な風体の盗賊たちに囲まれている。
「金目のものを全部置いていけ!」
「命が惜しけりゃ、逆らうんじゃねえぞ!」
盗賊たちが剣を振り上げる。
「ひ、ひぃ……お助けを!」
商人が情けなく叫んだ。
周囲の人間は遠巻きに怯えているだけで、誰も助けに入ろうとしない。
「……チュートリアルイベントっぽいな」
ゲームでも、序盤にこういう悪党を倒すクエストがあった。
助けるべきか?
「なんて考えるまでもないよな」
俺は盗賊たちに向かって歩き出した。
この圧倒的な力――ぜひ試してみたかったところだ。
「ああん? なんだ、てめえ」
「ガキは引っ込んでろ」
盗賊たちが俺に気づき、威嚇してくる。
俺は構わず、右手を静かに掲げた。
詠唱は必要ない。
俺は、全ての魔法を無詠唱で発動できる。
本能でそのことを理解する。
「なら、使う魔法はこれだな」
かつてレイドボスを相手に使っていた超高位の殲滅魔法をイメージした。
「【ダークディザスター】」
唱えた瞬間、
ずおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
世界が、鳴動した。
空が黒く染まり、街全体がその影に覆われる。
「な、な、な……んだ、こ……れ」
盗賊たちが、凍り付いたように空を見上げる。
「せ、世界の終わりだぁぁ……」
「ひいい……」
「逃げ……」
全員、震えあがっている。
「消えろ」
俺は静かに告げた。
漆黒に染まった空――そこから黒い稲妻が降り注いだ。
無音の衝撃。
次の瞬間、盗賊たちは跡形もなく消滅していた。
これはフルパワーじゃない。
むしろ【ダークディザスター】の余波程度だ。
それでも十数人の人間を消し去るには十分すぎる威力だった。
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