魔王を倒した後で〜最強の戦闘兵器になった勇者と葬られた仲間たち〜
リカルド
第1話
『プロローグ』
足元に転がるのは魔王の首。
心臓を潰してもピンピンしていた魔王も、ついにはピクリとも動かなくなる。
「やったの・・・か?」
魔王の攻撃で大火傷を負った戦士が体を震わせながら呟く。
「ザーーー・・・」
魔王の体がチリとなって、その場に崩れ落ちる。
ついに倒したんだ・・・あの化け物を。
しかし誰も声をあげて喜ぶことはない。
魔王との戦いは10時間以上にわたって繰り広げられ、勇者パーティの全員が疲れ切っているから。
「う・・・うぅ・・・」
大粒の涙を流しながら両手で手を隠す魔法使い。
俺らはこれまでに大切な人を何人も失ってきた。
しかし、それでも俺らには泣くことなど許されなかった。
そんな暇あるなら少しでも魔王城へと歩を進めなければならなかったから。
皆んなが今まで流せなかった分の涙をようやく解放できるんだ。俺も自然と涙が流れる。
もちろん嬉しいとも感じるけど、どちらかというと役目を終えたという開放感が全身を巡っている。
「はあ・・・はあ・・・」
勇者が荒く息をしている音が聞こえる。
魔王の首を斬り落としても尚、剣を握る手を緩めることはなく、腕の血管がパンパンに膨れ上がるほど力を込めている。
「勇者様・・・?」
僧侶が勇者に近づき声をかける。
こちらに背を向けている勇者はどんな顔をしているのだろうか。
「危ない!」
勇者の肩に僧侶が手をかけようとした瞬間に、とてつもない殺気を感じた。
俺は僧侶の体をこちらに引き寄せ、勇者が振るった剣をギリギリで躱す。
「あ・・・大丈夫ですか!?」
どうやら僧侶は無事だったようだ。俺を心配そうな顔で見つめる。
しかし俺はその後ろに立っている勇者の顔に釘付けになってしまった。
「はあ・・・」
相変わらず荒い息遣いが聞こえる。
その顔と体は返り血で真っ赤に染まり、目は獲物を探している獣のように血走っている。
「斬らせろ」
再び俺と僧侶に殺意を向け、勇者の剣に雷の属性を纏わせる。
魔王の太い首を一刀両断した技と同じだ。本気で最大火力の勇者の必殺技。
俺の体は本能的に恐怖で動かなくなる。
「ゴゴゴゴ・・・ドオンッ!」
魔王城が揺れ、俺らと勇者の間には瓦礫が降ってくる。
おそらく魔王が死んだことにより、魔王城の崩壊が起こったのだろう。
「キラー!マナを連れて逃げて!」
魔法使いの言葉に恐怖で震えていた体は動くようになり、俺は僧侶マナを抱き抱えて広間の壊れた部分から外へと飛び出す。
数百メートルはある場所から地面に激突すれば、少なくともマナは即死だろう。
しかしこれしか考えられなかった。
「キラー様・・・」
俺の目を真っ直ぐ見つめるマナ。覚悟は決まっているのだろう。
「大丈夫」
浮遊感を感じながらも、マナを強く抱きしめ俺も覚悟を決める。
少し遠くで戦士のギンが魔法使いのヒバリを抱えながら落下しているのが見える。
絶対に大丈夫。俺らは魔王を倒したんだ。こんなんじゃ死ぬわけない。
「魔王の死亡確認」
数日後、魔王城の跡地に調査団が入り、魔王の死亡が全世界へと報道される。
新聞記事を見た人間は涙を流しながら家族や仲間と喜びを分かち合う。
「以下は機密事項。勇者以外の生死不明、直ちに彼らの捜索を願う」
魔王城の跡地には勇者以外のメンバーの手がかりはなく、生死は不明で全世界に捜索隊が派遣される。
しかし一般市民にこの情報は公開されておらず、勇者パーティは全員死亡と報道されることになった。
「どうして死んだことにしたんです?」
調査団の若い青年が、白髪混じりのベテランに尋ねる。
「はあ・・・いいか若造?世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」
ため息をつきながら青年の耳元でそう囁いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『第一章 勇者の行方』
ここは山にある小さな小屋。
「ん・・・」
村から少し離れたこの小屋で、俺は一人で暮らしている。
しかし小屋の外に人の気配がして俺は目を覚ました。
「コンコン」
小屋の入り口を叩く音がしたので、俺は眠い目を擦りながら扉を開ける。
「おはようございますキラー様」
「おはよマナ」
扉の向こうには何かカゴを持ったマナが立っていた。中には果物や野菜などがギッシリ。
それにしても朝の日差しに負けないぐらいキラキラした笑顔をしている。
同棲しているわけではないが、彼女は毎日俺の家に顔を出し、たまに泊まっていくこともある。
「朝ご飯は食べましたか?」
「ううん、今起きたところ。いつも悪いね」
彼女は毎日山を登り、この小屋へと来ている。
女の子にとってはかなり大変だと思うよ。
「あの頃と比べたら楽ですよ。それにキラー様には毎日会いたいですから」
少し恥ずかしそうな笑顔を俺に向ける。いつもと変わらない素敵な笑顔だ。
今まで彼女の笑顔に惚れた者は多く、旅の途中でも何人もの男性に告白をされていた。
「昨日ギン様とヒバリ様と共に街へ行ったんです。今のトレンドはミルクティーらしくて、すごく美味しかったんですよ?」
彼女の嬉しそうな顔を見ると、俺も自然と笑顔になる。
俺らが魔王を倒してから数ヶ月、完全に傷が癒えたわけではないが、人々は段々と活気付いてきている。
俺の仲間たちもそれぞれが平和に過ごせていると思う。
「明日一緒に街へ行きませんか?///」
「・・・いいよ」
正直あまり乗り気なわけではない。
俺は人が多いところが好きなわけでもないし、そもそも俺らは元勇者パーティーだから、他人にその事を気付かれたくは無い。
なぜなら・・・俺らは死んだことにされているから。
俺らが人目を避けて、こんな田舎に住んでいるのもそれが理由。
この近くにあるマナたちが住んでいる村は、旅の途中で村民を困らせていた魔物を俺らが退治したことで、俺らの存在を隠してくれているんだ。
「・・・キラー様も一緒に村に住みましょうよ」
「人間は信じない方がいい」
俺から言わせれば人間よりも魔族の方が信じられる。
彼らは魔王の命令に忠実で死んでも忠義を尽くす。
それに比べて人間は自分さえ良ければいいという気持ちが見え見えのカスが多い。
だから俺は基本的に仲間の4人しか信じてはいない。
「・・・じゃあ明日また迎えにきます」
「マナおかえり。デートには誘えた?」
私は小さな村で魔法使いのヒバリ様と二人で暮らしている。
魔王を倒して以降、ほとんど何事もなく平和に楽しく暮らせていると思う。
「はい。一緒に行ってくれるそうです///」
私は幼馴染のキラー様が好き。みんなには相談していて、特にヒバリ様にはいつも背中を押してもらっていた。
彼と出会って20年ほどかな?ようやくデート?に誘うことができた。
「アンタも一途ね」
「えへへ///」
普通の日常ってこんなに楽しいものなんだと、最近は幸せを噛み締めている。
生まれた時から教会で厳しいルールの元で暮らし、自由時間は魔法の修行。
今になってやっと私は普通の女性としての生活をできるようになった。
本当に毎日が楽しくてしょうがない。毎日彼に会えるし。
「でも最近あまり良くない噂を聞いたから気をつけなさいよ?まあ、アンタのことはキラーが守ってくれるもんね」
私はキラー様にいつも守られてた。きっとこれからも守ってくれると思う。
だから私は恩返しをしたい。彼に相応しい女性になって。
魔王を倒した後で〜最強の戦闘兵器になった勇者と葬られた仲間たち〜 リカルド @Ricardo1234
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