大学の卒論取材のため、山あいの小さな村を訪れた主人公は、白い布を織り続ける少女・澄羽と出会う。
村では「白羽様」と呼ばれる存在が風と糸を通して村を守ると信じられており、澄羽はその役目を担う少女だった……
全体を通して、とても静かで、やさしい物語だと感じました。
大きな事件や派手な展開はありませんが、そのぶん一つ一つの描写や感情が丁寧で、自然に心に入ってきます。
澄羽という少女が「守る存在」でありながら、ただ空を飛びたいと願う普通の少女でもあるところが、とても切なかったです。外の世界を知らないまま役目を背負わされている姿に、胸が苦しくなりました。
また文体については、とても繊細で、詩に近い印象を覚えました。
一文一文が短めで、余白を多く残す書き方のため、説明しすぎず、読者に感じさせる力が強いです。
特に、「風」「白」「糸」「音」といったモチーフが繰り返し使われており、物語が進むにつれて意味が変わっていくのが、上手いと感じました。
白布が揺れる。針が鳴る。人々は口を閉ざし、少女は自らの運命を「織り上げる」ことで村を守る。 主人公である大学生が迷い込んだのは、現代から切り離されたような、信仰と沈黙が支配する村でした。
ヒロイン・澄羽が抱える「生きている布」の正体とは。
そして、夢と現が交錯する中で零れ落ちた「血の一滴」が意味するものとは。
一章のクライマックス、名前を呼ぼうとして声にならないあの瞬間の切なさは、文章では表現しきれないものがあります。
失われると分かっているからこそ愛おしい。そんな祈りのような物語に触れたい方は、ぜひ彼女の織る糸を辿ってみてください。一章を読み終えたとき、あなたの掌にも、確かな「白の記憶」が残っているはずです。