終ノ幕 慈悲




赤鬼「ぐおおお!!」ドドドドドド



金棒投げ捨て、赤鬼は走る


一目散に


子供が、流木にしがみついて漕ぎ出した


川へ


振り向きざまに見た、川へ向かう影…


あれは外道だろうか。


今はその気配は無い。


三途の川に飛び込み、


清められ消えたのだろうか。


まさか、外道が誰かを助けようとする、そんなことがあるわけがない。



 赤鬼は走る ーーーー




鬼の身なれば、三途の流れにも溶け消えることは無いはずだ。




 バシャバシャ バシャバシャ


 鬼にとっては足のつく、浅い川だ。


赤鬼は、子供に叫ぶ。


赤鬼「いかん!この川は渡れぬ。どうやっても。」



 バシャバシャ



赤鬼「流れ着く先は 無い 無いんじゃ!どこかに行き着くことは 無いんじゃ!」



 赤鬼は、子供を抱きしめ、岸にすくい上げた。



赤鬼「間に合った…助けられた…」安堵


 バシャバシャ


 ズルッ(滑る


 バシャン


 ズルッ


 バシャン



 バシャバシャ



 赤鬼(何じゃ?)



 バシャバシャ



 赤鬼(岸に、戻れぬ…)


 奇妙なことに、その川の静かな流れが…大きな赤鬼を、次第に、次第に、押し流してゆく…



赤鬼は叫ぶ


 「童よ!童よ!必ず!御仏の慈悲が、お前を救ってくださる!じゃから、じゃから!ーーーー」




 そんな赤鬼を、岸に上がった子供は、


 眺めてるいる。(ただ黙って)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

清め流るは その亡者

情念無念に 残したる

現世を想う その全て

名残惜しきの 悔いすらも…


ーーーー 風の音だけが ーーーー


 赤鬼流るる その流れ


彼岸に渡れぬ 者なれば

行き着く先は ただ一つ

それは因果の 果てなるか

それは教えの 外なるか


ーーーー 川のせせらぎだけが ーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


子供はまた、しゃがみこみ、


カツン…石を積む




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


御仏流すは 救わずの

無常といふ名の その涙

清められしは その御霊

縁にて他の者 救いたる

他の者因果を 正したる


悪鬼羅刹の 心にも 

情(なさけ)という名の 灯がともり


救えぬはずの 外道まで…


御仏それすら 是とするか


救われし者 嘆くだろ

我より彼の者 先救え


御仏それすら 是とするかーーー






 ーーーー 二つ積んでは父のため ーーーー


カツン…





ガラガラガラ(鬼の金棒が、積石を 崩す


どこからとも無く現れた 物言わぬ


赤鬼だ。








終幕

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救わずの仏 なおもて慈悲あらんや。 床の間ん @tokonoman

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