【出所不明の都市伝説】「知らないアラーム」
藤城ゆきひら
「知らないアラーム」
「ねえ、翔子」
昼休みの教室で、スマホをいじっていた沙月が、向かいの席の私に顔を上げた。
ちょっとしたいたずら心で、私から声をかけてみる。
「なあに、沙月。今度はどんな都市伝説なの?」
少し驚いた顔をした沙月は、スマホのアラームの画面を見せてきた。
今度は私が驚く番だった。
アラーム一覧の画面には、朝の時間帯に数分おきにセットされた時刻が、びっしりと並んでいる。
「……多くない?」
思わず、素直な感想が口からこぼれた。
「だってさ~、一回で起きれた試しがないから、保険かけてあるんだよね」
「私は朝用と予備の二つで充分起きれるんだけど……」
「なにそれ……凄すぎて、もはや人間じゃないんじゃない?」
「いや、さすがに沙月のアラームが多いだけだと思うよ。それで、アラームが関係する都市伝説なの?」
「そのと~り。今回はスマホのアラームの都市伝説なのです。」
「ねえ翔子。もし、このアラーム一覧に、自分で予約した覚えのないアラームが増えてたらどうする?」
予約した覚えのないアラームが増える……としたら自分の失敗か、悪戯を疑うだろうか?
そのまま沙月に伝えてみた。
「うーん、寝ぼけて追加したか、ただの押し間違い。もしくは誰かの悪戯かなぁ」
「そう思うでしょ?でも、今回の都市伝説は、『知らないアラーム』って言って、勝手に追加されたアラームの時間が、その人にとって何か“特別なこと”が起きるタイミングの予言なんだって話なの」
「特別ねぇ……ずいぶん曖昧というか、日付がわからないのであれば、こじつけかもしれないわよ」
「翔子は夢が無いねぇ……もしかしたら、宝くじが当たって生活が激変するかも!とか思ったりしないの?」
「宝くじは当たったらいいけど、アラーム1つでそんな大げさなことにはならないでしょ」
「そうだ、翔子のアラームが本当に2つなのか見せてよ」
私は仕方なくスマホを取り出し、アラームの画面を見せようとした。
「――あら?」
アラームにはいつもの起床時間である、6:00と予備の6:30の2つが設定されているはずだった。
しかし、そこに、見慣れない時刻が一つ、12:55というものが増えていた。
スマホを持ったまま固まった私を見て、沙月が問いかけてきた。
「翔子、どうしたの?」
その問いかけに返事ができずにいると、沙月が私のスマホを覗き込んできた。
「朝のアラームと……なんで、お昼ごろにアラームがかかってるの?」
「こんなアラーム知らない……」
昼休みになってからスマホを取り出したのは今だけだし、
そもそも昼休み中にアラームをかける意味もない。
「じゃあ、翔子のスマホに『知らないアラーム』が出てきちゃったんだ」
少し楽しそうに沙月が言う。
「もしかして、沙月の悪戯かしら」
なんて非難めいて言ってみたら、沙月はすごい勢いで否定してきた。
「いやいや、さすがに人のスマホのアラームはいじらないでしょ、そもそも暗証番号知らないし……」
「それもそうね、なら、これがその『知らないアラーム』なのね。消してしまってもいいのかしら」
「都市伝説が実際に見れそうだし、せっかくだからそのまま残してみてよ、アラームをオフにすればいいだけだと思うし」
「仕方ない、沙月の頼みだし、アラームは残しておくわ」
――1週間後――
放課後の教室で、私はノートを閉じて大きく伸びをした。
「ねえ翔子。『知らないアラーム』の時間に何か特別なこととかあった?」
「残念だけど、何もなかったわよ」
「そっかぁ、1週間たっても何もないのなら、アラーム消してしまってもいいのかもね」
沙月ももう諦めたようなので、アラームから12:55を消そうと思い、スマホを取り出した。
「――あら?」
「翔子、また何かあったの?」
沙月と共に私のスマホを見ると、12:55のアラームが消えていた。
「アラームを消そうと思ったら、もう消えていたみたい」
「おぉ、『知らないアラーム』が知らずに消えたの?ということはこれは新しいパターンなのかしら?」
なぜだか知らないが、やたら沙月のテンションが上がっている。
「きっと、今日の12:55に翔子の『知らないアラーム』が消える。って感じの予言だったのかもね」
「それが特別なことだとしたら、ずいぶん小さい都市伝説ね」
そんなくだらない話をしながら、そろそろ帰る時間になった。
「じゃあ、また明日ね、翔子」
「また明日ね、沙月」
そういえば、沙月のようにとてつもない数のアラームがあったのなら、『知らないアラーム』が増えていても気が付かないんじゃないだろうか?
そんなことが頭によぎったが、すぐに忘れてしまった。
――これを読んでいるアナタにも、『知らないアラーム』が追加されていたこと、ありませんか?――
【出所不明の都市伝説】「知らないアラーム」 藤城ゆきひら @wistaria_castrum
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