ギルドマスターの勘

 ……なんだこの青年は。

 正面に立っているのは、まだ二十代そこそこの若者……らしい。


 顔つき身体つきが、明らかに猛者のそれだ。

 冷たく、全てを見透かしているかのような瞳。

 指は武器を握り続けた跡のように固く、肩周りの筋肉のつき方は、ただの農夫ではありえない。

 目の奥にある微妙な光も――人を率いる側のそれに近い。

 

 しかも――その名はデス・カイザー。


 少し声が小さいせいで聞き返しそうになったが、確かにそう言っていた。

 受付の子が怯えるのも無理はないし、彼自身が用紙に記入しなくて良かったとも思った。

 冒険者として名を挙げていた頃ですら感じたことのない威圧感。

 デスはきっと――ペンをも必殺の武器にする。

 たった一本のペンで、このギルドの全員を殺せるのかもしれない。

 武器になりそうなものを渡してはいけない。私が記入するしか……。


「では改めて質問します。冒険者のランクは?」

「Cだ。もちろん、ギルドを立ち上げるには力不足だと理解している」

「そう……ですか」

 

 明らかに嘘だ。自分の力を明かさないための嘘。

 冒険者証の提示を求めたいところだが、仮に彼が私たちに牙を剥いた場合……どうなるか想像したくない。

 私一人が死ぬのならいい。

 だが、このギルドを拠点としてくれている冒険者、そして職員の命を失うわけにはいかないのだ。

 黙って頷くことしかできない。


「ギルドの目的は?」

「おかしな話かもしれないが、隠居したくてな、ははは。人を雇い、ギルドのために働いてもらおうと思っている」

 

 ギルドを隠れ蓑にして配下を暗躍させるつもりだということか。

 魔族なのかとも疑ったが、そうではない気がする。

 彼らが発する特有の「臭い」が感じられない。

 ただ風格が突出している。余計に恐ろしいのだ。

 勇者にも魔王にも与しない第三勢力だとでも言うのか?


「……規模は?」

「村だな。小さくまとまった村を作れたら」

「む、村……っ……」

「大したものじゃない」


 私の耳には「今はまだ」と続いているように聞こえた。

 既にどこかの村を落として手中に……。

 余計なことをしたらただじゃおかないと暗に伝える交渉の手腕。

 「大したものじゃない」と言える胆力。

 用紙を記入する自分の手が震えているのが分かる。


(もしここで申請を断ったら……街が、どうなる……?)


 断った瞬間にギルドが吹き飛ばされる未来がよぎり、俺は判子を押してしまった。


「……デスさん。申請は、すべて受理しました」

「お、ありがとう。仲間を増やして助成金が出るのが楽しみだよ」

「は、はは……」


 青年は屈託のない笑顔を浮かべた。

 この男は制度を熟知している。

 恐ろしい仲間を集めながら、資金まで手に入れようとしている。

 悪魔のような所業に使われるであろう金。

 私はギルドマスターとして彼を止めなければならない。

 けれど――。


(……身に纏うオーラが、違いすぎる……ッ!)


 勝てるビジョンが見えないのだ。

 だから私は承認してしまった。

 彼は思い通りにことが進んだと言いたげな笑顔を浮かべ、一瞥もせずに出て行った。


(……なんとか、みんなの命を守ることができた……)


 全身から力が抜けそうになる中、私は心の底から祈る。

 どうか、この人が善良な人でありますように。

 そうでなければ――彼の悪行が王都のギルドに届き、成敗されますように。




テス・カイダ


【転生特典】


・前世の記憶

 ところどころ抜けあり。


・覇王の風格

 自然と屈強な肉体を得ることができる。常時発動。

 圧倒的な強者のオーラとカリスマを発し、只者ではないと感じさせる。誰の元にも属さない時、自らが頂点にいる時のみ発動。デメリットとして、スキル保持者の言葉を意図しない意味で捉えられる、記憶レベルで影響を及ぼすことがある。


ーーーーー

大体こういう感じです。

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隠居生活のためのギルド設立〜気付いたら悪の帝王にされてたんだが〜 歩く魚 @arukusakana

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