omake




「......何してんだ、俺は。」



すやすやと静かな寝息が聞こえて

我に帰った。


危ない。

大して酔ってないのに

なんか、空気に飲まれた。

こんなつもりじゃなかった。


たまに話す程度の後輩で。

食事に誘ったのも、彼女にとってあまり頼りになるような年の近い社員がいないことを案じてのことだった。


一旦は社外の人間になるわけだし、

そのくらいの距離の方がかえって何かと愚痴もこぼしやすいかと思って。

何となく、溜め込むタイプのように見えたから。



それにしても

なんて無防備なんだろう。

時間を間違えて終電を逃したというから

その辺のホテルまで送り届けて帰ろうとしたけど

どこも埋まっていて入れなかった。

かといって変なホテルに1人で泊まらせるわけにもいかない。どうせもう今夜のことはほとんど記憶にないまま、明日朝起きて不快な思いをさせるだろうし。


千鳥足の成人女性を肩に抱えながら歩き回るのは結構大変で、店からそれほど距離のない自分の家に連れ入れるほかなかった。

そもそも店を指定したのは彼女の方だから家が近かったのは偶然で、決してやましい計算なんてしていない。信じて欲しい。


「間宮、さん」


名前を呼ばれてはっと目をやると

花木さんは相変わらず気持ちよさそうに寝ていた。


「......寝言」


呑気だな。


2歳年下の新入社員を

入社したその冬に家に連れ込んだなんて

他の社員に知られたら積み上げた信頼が失墜するだろうな。


"好きに、なっちゃいます"


顔を赤らめて

俺に向かってそう言ったあの表情が瞼に浮かぶ。


酒に酔って言ったことだ。

それなのに何度も頭の中を巡る。



ソファにひとり腰を下ろして、目を閉じた。




______________今夜は寝られそうにない。






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これが恋なら、醒めないで 葉月結花 @yuika_novel

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