大神様伝説殺人事件 前編
緋彩は詠斗との戦闘の後、学園の裏側の林の中にある少し小さな古民家に向かった。
「お、来たか、緋彩。さっきは未空と紅亜が来たよ。」
古民家ではある黒い着物を着た青年が円卓で茶を飲んでいた。
「そろそろ来た方がいいんじゃないかと思ってさ。さっき発作起こしちゃって…」
「おや、やっぱり生者にこの術を使うと安定しないね。じゃあ僕は準備をして来るから着替えて待ってて」
「はい」
そう言った青年は部屋の奥に行った。
緋彩は鏡の前でサーベルを抜いてマントを脱いだ後ネクタイを緩めた。
「もうなってから5年か…早いものだな…」
緋彩は鏡に映った自分を見つめて言った。自分の右脇腹には桜に陸と書かれた紋章がいれられている。
「まぁ力が安定しないのも今年中まで…どうせ俺は─────今年の秋に死ぬんだから」
そう言いながら緋彩は事前に青年から渡された白い着物に袖を通した。
「準備できたかい?緋彩」
先程の青年が緋彩を呼ぶ。
「今行く」
緋彩は声が聞こえる方に向かった。
「準備は大丈夫かい?」
部屋には診察台のような白い術式の陣が書かれた布が敷かれた木組みのベッドがあり、緋彩はそこに寝た後、青年によって四肢を拘束された。
青年は緋彩の着物を右側だけ脱がした後、
「…っ!」
用意していた急須で何か水のようなものを飲ませた。
「じゃあ始めるからね」
緋彩はその言葉に頷いた。
青年は緋彩の左脇腹の薄れかけた紋章に自らの手をあてるとその紋章は桜色に光った。
「うっ…!ぐっ…!っ…!あぁ…!はぁ…はぁ…うっ…!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"…!」
緋彩は痛みのあまり絶叫する。
「もう大丈夫。じゃあまた1ヶ月後にね」
青年はそう言って緋彩の拘束を外していく。
「今回は強めにやっておいた。発作が起こった以上、それくらい力が安定しなくなってるってことだ。やはり生者にこの術をやるのは難しいね」
青年は片付けながら言う。
「まぁ仕方がないさ。そういえば、例の2人についてはどう思う?」
緋彩はゆっくり起き上がって言った。
「そうだね…センスはあるんじゃあないかな?」
「貴方が言うならそういう事か、大神様!」
青年の頭には狼の耳がついており、さらには狼のしっぽが生えていた。
「そうだね。大神の一族である僕が言うならそういう事だよ、緋彩」
───────翌日
「────ってことがあったんだよ青葉!」
「まさかあの白猫じゃなくてあの生徒会長が七不思議だったとはね…」
青葉と詠斗は2人で通学しながら話していた。
「本当にびっくりしたよ、それになんか発作…?みたいなの起こして急に倒れるしさ!さらになんか今日俺の全てを話してあげる〜なんて言うから謎が深まるばかりでさ!」
「そういや私の方は何故か私の名前を知っていたのよ。それで理由を私が立派な探偵になったら教えてあげるって!とりあえずのってやったけど!」
青葉は不満げに言う。
「ん、なんか校門の辺り騒がしくね?」
「えぇ。そうね、なんか騒がしいわね」
校門にはやけに人が集まっていた。
「あ、青葉ちゃん!」
「り、凛愛ちゃん!?どうしたの!?」
「と、
「え、誰?あっなんか高校三年生で水泳の全日本大会で優勝して帝国体育大からスカウトが来てるって先輩だっけ…?」
「杜若先輩が…!」
「───殺された…」
凛愛の顔は真っ青だった。
「え…!?」
青葉は校門へ走って行った。
「おい青葉!ちょっと待てって!」
ついで詠斗も追いかける。
「なっ…!これは…」
青葉はその光景を見て驚愕した。
杜若流華は校門の前で全身を何か動物のような物に引っかかれた傷跡を身体中につけられて息絶えていた。
「まさか…大神様の…仕業なの…?」
その日の放課後、探偵部では緊急集会が開かれた。
「君たち、知っているとは思うが、本日午前7時頃、正門前で高等部3年C組の杜若流華が殺されているところを警備員が発見した!今回は真相にいち早く近づく為推理会を開く!という訳で今回は警視庁の警部である釣鐘里桜さんに来てもらった!という訳で釣鐘さんお願いします」
緋美はホワイトボードの前に立っていつものように話した後、ピンクがかった黒髪のショートカットのスーツを着た女性に交代した。
「1年生の方達ははじめましてですね。警視庁捜査一課の釣鐘里桜です。緋美ちゃんとはよくプライベートで話しています。
さて、今回起こった殺人事件についてですが、被害者は杜若流華17歳。今朝正門前で殺されているところを警備員の佐藤さんが発見されました。死因は首に索条痕と吉川線があったことから絞殺であると考えられています。また、何故か分かりませんが、身体中に何か動物に引っかかれた傷が無数にありました。被害者の死亡推定時刻は今日の朝5時頃と見られています。私からは以上です」
里桜は手帳を開きながら言った。
「あの…!」
「お、青葉!なんか閃いたのかい?」
青葉は手を挙げて言った。
「もしかしたら…ですけど…大神様っていう伝説がうちの学校にあって…多分それの見立て殺人かな…と」
「お!ナイス閃きじゃあないか青葉!まぁとりあえず今日はここでお開きだ!里桜さんこの後駅前のタワラバリスタでティータイムね!」
「はいはい、緋美ちゃん」
里桜は呆れながら部屋を緋美と一緒に出た。
「大神のじいや可哀想!もう人を殺してないのに犯人に真似されて!」
「は…?」
突如として探偵部の部室にセイランの声が響く。
「まあ丁度いいや。今日じいやの所に行くから着いてきてよ!青葉!」
セイランは靴箱の上に座り青葉を見下ろしながら言った。
そうして青葉はセイランに連れられ、学校の裏の林の中の古民家に入った。
「じいや〜?来たよー!」
セイランは扉を勢いよく開けた。
「あぁ、来たか、セイラン」
そこに現れたのは円卓で座布団の上で正座をし、ゆったりと日本茶と茶請けを嗜んでいる獣人の青年だった。
「今日はどこのお茶?」
「静岡だよ」
「おや、君が例の監視人か…私は
(いや、若くない?かなり昔から存在してるはずなのに、こんな青年みたいな…)
「今、私の事をかなり昔から存在してるはずなのに青年みたいだと思ったな?」
「なっ…!」
青葉は驚愕した。
「まぁ無理はないさ。我々大神の一族は大神なる狼を身に宿して生まれる。そしていつか体の成長が止まり、ほぼ永遠に生き続ける…そんな私達は政府から前科者、及び罪人処罰を頼まれ政府の犬として罪人を殺してきた。だが今はちゃんと生きて罪を償う事もまた生だと思うようになり、人殺しを辞めた。こうして今は全国の茶を嗜んだり無念残して死んだ者に力を与え人外の存在にしたりしている」
「それって…どういう…!」
「大神の一族に伝わる秘術、"桜の蘇生術"さ。この術は桜の樹液を含んだ薬液を生霊に飲ませて体の一部に触れることで特別な力を持って転生するんだ。君、"
(守護花占いは、自分の事を守ってくれる花を占う占いで、ただいま絶賛大ブレイク中。その流行に乗ってる文具から洋服まで幅広く展開するFLEURcollectionっていうブランドも出来たし…)
「やったことあります」
「それで、その守護花に纏わる術が使えるようになるわけだ。分かりやすいのが未空とか緋彩とか。あの子達の守護花は毒持ってるからそれ関係の術使ってるね…後術を使う時に相手の大事な物を核にする必要があってね…術をかけられた者はそれと心臓を破壊されると消滅する。でも片っぽだけ破壊されたなら1週間で元に戻るさ。まぁ、ほぼ毎日サクラ科の果物食べなきゃいけないとか半年に1回は術をかけ直すとか色々デメリットはあるけど」
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん?何だい?」
「七不思議6番の彼岸先輩、あの人は生者なのに七不思議になってますよね?あれはどういう…」
「あぁ緋彩か。緋彩か特例だよ。緋彩は元はリコの契約者だった。そこから強くなっていって私はついに術を使うことを決めた。でも元は死者に使うやつだから力が安定しないせいで1ヶ月ごとに術をかける羽目になってるけど…」
(彼岸先輩が契約者だった…!?っていうかなんであの猫と接点が出来たの?)
「セイラン、君はやらなきゃいけない事があるだろう?」
「あ、うん!じゃあ青葉はもう帰っていいよ!」
セイランは手を振って部屋の奥に消えた。
「えっ!?」
「それじゃあまた次の機会にね。青葉」
次いで明桜も部屋の奥に消えた。
「えー!?」
(なんかすんごい置いてかれた感いっぱいなんだけど…)
一方その頃─
「それで先輩、貴方のこと、話してくれるんですよね?」
生徒会室では詠斗と緋彩が話していた。
「うん。そうだよ」
「じゃあ話してください。」
緋彩は机に寄っかかった。
「俺がリコと出会ったのは生徒会に入った中一の時だ。あの時生徒会室の扉に偶然リコが挟まってたんだ。だから俺はそこを助けた。そしたら言われたんだ。私に協力してくれないかって。それで俺はリコの契約者になった」
「先輩が契約者だった…!?」
「うん」
緋彩は頷いて話を続けた。
「俺はリコの手伝いと同時に先輩に剣の手ほどきを受けてある程度強くなった。そこを見兼ねた大神様が俺に術をかけて俺を七不思議の陸番にした。そして俺は丁度その頃ある人物に七不思議だって事がバレたんだ」
「え、其の人物って…?」
「副会長の瑞佳だよ」
「瑞佳先輩が!?」
(確かによく一緒にいるなとは思ったけど…)
「偶然瑞佳が裏本棚に入ったんだ。そこで鉢合わせてね。そしたらびっくりしたさ。恐れることもなく貴方の力になりたいって言うからそこから俺は瑞佳と契約してる。まぁ同い年だしね」
「後先輩…」
「ん?何?」
「昨日のあの発作って…」
「…あぁ、あれか…俺生まれつきかなり重い喘息でさ、ちっちゃい頃からよく発作起こしては入院してたんだ。まぁ七不思議になってからは少し軽くはなったんだけどね…」
「そういや先輩来年で卒業ですよね?七不思議の座はどうするんですか?」
「いや、卒業出来ないよ」
「どうして…」
「だって俺───」
「今年の秋に死ぬんだから」
「えっ…!?」
詠斗はあまりにも驚きよろめいた。
「裏本棚には学校中の人間の人生が書かれた本が置かれてるのは知ってるでしょう?それで見ちゃったんだ。俺のこの後の人生」
「……」
「俺は今年の秋に喘息の発作が悪化して死ぬ。裏本棚の本に書かれている未来は一切変えられない。だから俺は…この秋に死ぬ。確定でさ。まぁ案外悪くない人生だったよ」
緋彩は窓から射し込む緋色の夕暮の中微笑みながら言った。
詠斗は、何も言えなかった。緋彩の姿は清々しくて、それでいて冷静で、自分の死を簡単に受け止めている。そんな人に何を言えばいいのか分からなかった。
「ほんっとあいつ、私を呼び出して何のつもり!?」
水泳部の水葵紫雨がある人物に呼び出され其の人物を待っていた。
「あら、ようやく来たのね。で、何のつもり?」
其の人物は紫雨に駆け寄り紫雨の頭を鈍器で殴った。
「なっ…!」
紫雨はそこで気絶した。
「お前らは許さない…!絶対に!」
───次回 第6話「大神様伝説殺人事件 中編」
次の更新予定
8日ごと 19:00 予定は変更される可能性があります
七不思議推理怪奇譚 里見歩 @bngk8km
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