第10話「ショバ代」

「──というわけです」

「はい、すみません」「ハイスミマセン」


 なぜか正座をしているキャシアスとカティア。

 その間、別々の部屋でお説教という名の詰問が行われたのだが、こ、怖かったー。


 カティアなんて、表情がロボットみたいになってるし、なんか片言で棒読みになってるし。


「はぁ。……それじゃあ、お小言はとりあえずこれでおしまい」

「はい、ごめんなさい」「ハイゴメンナサイ」


 くすっ。


「……もういいわよ、はい。そこに座って──」

 そういってようやくいつものメリッサさんに戻ると、ソファーに座るように勧められる。


 ──うわ、足しびれてるぅ。


「し、失礼します」「シツレイシマス」

「もうそんなに怖がらないでよ。……さっきもそれぞれに別室で言ったけど、勝手にギルド内での無許可商売は禁止です。……冒険者になるとき説明したでしょ」


「は、はい」「ハイ」


 そうだった。

 さっきまで、そのことをクドクドとクドクドクドクドクドクド──と……。


「……そこまでクドクドとは言ってないでしょ。まぁ、正直、今朝けさの段階で止めなかった私たちも悪いんだけど、あんなに派手にやられちゃあねー」


 今朝の営業のことと、パイセンの凱旋からの次のエンチャント予約。


 さすがにそれ以上は見過ごせなかったというわけだ。

 なにせ、ギルドの関知しないところで勝手に金銭が動くのだ。そりゃあ、よろしくないだろう。しかも、低級の冒険者がだ。


「……なので、きっちりとギルドを通してくれるならいいわよ?」


「え? いいんですか?!」

「何聞いてたのよ……」


 はぁーと、ため息のメリッサさん。

 いやだって、怖かったし──。


「あのね。ギルド内にも色々な商店があるでしょ?」

「ありますね」


 酒場はもとより、携帯食を売る店や、ギルド内の武器防具屋さん。

 そのほかたくさんの消耗品の商店などなど──。


「あれもギルドが場所を貸してるテナントなのよ。アウトソーシングっていえばわかるかしら?」

「あ、はい」「あうとそーしんぐ?」


 黙っとけアホの子。


「だれがアホよ!」

「君だよ──っと、話が進まないから、ちょっと静かに!」


 聞けば、貸店舗自体はすべて埋まっているらしいが、それ以外にも商売をすることは可能だという。

 実際、中に店舗がない契約業者もいるとかで、例えば清掃やクリーニングなんかがそうなんだとか。


「──そういった業種の一つとして、認めてあげてもいいわよってこと」

「な、なるほどー」

「???」


 アホの子は置いといて……。


「ということは、契約すればいいんですね?」

「そうなるわね──どうする? ギルド内でやらないなら、別に干渉はしないけど……、外でやるならそれはそれで商業ギルドの管轄になるわよ」


 ……う。

 そりゃそうだ。


 結局どこに行っても商売には金がいるのかー。


「わかりました──では、契約します」

「は、はやいわね。もうちょっと悩んでもよくない?」


 いやー。悩んでたらお金なくなるし──。


「まぁいいわ。じゃー、こっちの書類に目を通してね。あ、読める?」

「読めますよ……」


 ……って、高ッ。


「え? 銀貨とるの?!」

 しかも月々5枚?!

「え?! 銀貨ぁ?!」


 あ、金の話でカティアが復帰した──じゃなくて、高くない?!


「これでも安いほうよ? テナント借りるなら、その何倍もするしね」

「うえー」


 でも、なになに──。


 書類を読むに、一応ギルド内のトラブルなら介入はしてくれるみたい。


 ただし、ギルド敷地内に限るとのこと。

 それ以外では基本的に感知しないらしい──なるほど、ヤクザの用心棒みたいなもんか。


「誰が893か」

「さーせん」


 うーん。

 どうしようかな。


 月に銀貨5枚かー。さらに、売り上げの2割を取られるみたいだし……。


「あ、そっちは税金とマージンね」

「マージンあるんすか」


 世の中甘くないなー。


「どうする? やめとく?」

 どこか冷たい目つきのメリッサさん。

 普段は優しいけど、商売が絡むと温情はないらしい──……うぅ。

「い、いえ、これで契約します──えっと、キャリアス・オー……や。キャシアスっと」


 一瞬、家の名前を書きそうになったけど、慌てて修正するキャシアス。

 そうだった。今はもう、ただのキャシアスだった。


「……はい、確かに」


 とんとん。


 書類をそろえ、きっちりと漏れがないか確認したメリッサさんと固く握手を交わしたキャシアス。

 こうして、正式にギルド内で商売をすることが認めれたのだが──。



※ その翌日 ※



「エンチャント屋でーす!」


 でーす。


「一回銅貨5枚からでーす!」


 で、でーす。


「火属性、水属性、風に土もありまーす!」


 まーす!


「お安いですよー!……って、さっきから声ちいさい!!」

「や。だから、恥ずかしいって……!」


 つーか、なんで君がいるのよ!


「アンタが小さい声でボソボソしてるからでしょ!」

「い、いや、小さくは……」


 ──あるけど。


「ほら、そんなんだからよ! 稼ぎたいんでしょ!」

「ま、まぁ、生活する分くらいには──」


 家賃ならぬマージンとられるし。


「なら、声を出す!」

「うぅ」


 看板あるんだけどなー。



  『エンチャント屋 1回銅貨5枚から~』



「バカっ! こんなんじゃお客はこないわよ!」

「いや、来るって。ギルド内で騒がなくても──十分目立ってるし」


 ざわざわ。

  くすくす。

  

 見てよ。めっちゃ笑われてるやん。


「もー。だらしないわねー」

「だらしなくはないよ……。一応、昨日予約してくれた人には掛けたし──」


 それだけで初日にしては売り上げは上々。

 実はすでに銀貨1枚相当を稼いでいる。


「それに、君は君で仕事しなくていいの?」

「今日はお休みー」

「……とか言って、またたかる・・・気でしょ」

「たかっ?!──ひ、人聞き悪いわねー」


 いや、悪くないよ。

 昨日結局、お説教のあとも食べてたじゃん! 合計いくらしたと思ってるんだか!


「男のくせに細かいわねー」

「君が大雑把なの!」


 もうー。


「とにかく、大声出さなくても大丈夫だよ」

「なによぉ、せっかく手伝ってあげてるのにー」


 いや、君のは営業妨害だからね?

 だいぶ、アウトだよ。


「つーか、なんで君が僕の魔法のこと知ってるの?」


 シレっと、Lvがあがって土と風属性を覚えたことまで把握しているカティア。


 ……こわっ!


「なんでって──昨日、部屋で看板書きながらブツブツ言ってたじゃない」

「──い、」


 言ってたけどぉ!

 あれは、部屋で言ってたの!


「なんで聞いてるんだよ!」

「壁薄いんだからしょーがないでしょ」


 うぐぐぐ。

 僕、そんな独り言大きいかなー。


「Lv4になったんだっけ?」

「そ、そうだけど……」


 そこまで独り言を言ってたのか。

 自分、こわっ。


「いいわねー。なんもしなくてレベル上がってー」

「やな言い方するなよ」


 しかし、そうなのだ。


 Lvの概念をメリッサさんにお説教がてら聞いたのだが、どうやらパーティや戦闘に貢献したものには経験値が分配されるらしい。

 もちろん、倒したものに比べると微々たる量だが、必ずしも戦闘でモンスターを倒したものだけが経験値を得られるわけではないらしい。


「モンスターを倒すばかりが貢献じゃないってメリッサさんも言ってただろ?」

「まぁねー。たしかに倒さなきゃLvがあがらないんじゃ、回復士や盗賊なんかはずっと低レベルになっちゃうもんねー」


 その通り。

 なので、戦闘力の低い冒険者は積極的に火力の高いパーティに加わることになる。


「でも、アンタはパーティじゃないじゃん」

「そこなんだよなー」


 メリッサさん曰く、必ずしもパーティである必要はないらしい。

 例えばパーティの集合体であるクランや、見知らぬ者同士の共闘──または、騎士団のような組織でも、戦闘に貢献したとなれば経験値は入るらしい。あくまでもパーティはその基準でしかないのだとか。


「つまり、私やゴンズさんがモンスターを倒した分が入ってきたってこと?」

「そうみたい」


 だからだろうか。


 ゴンズさんたちがオークをバッタバタと倒したり、

 キャシアスがエンチャントを解除し忘れていたこともあって、一晩中誰かさんが狩りをしたおかげで、夜も眠れないくらい、スタータス画面が経験値入手を教えてくれたのだ。

 ……そりゃ、眠れなくて独り言くらい言うわーい!


「ぶー。いいなー」

「代わりに眠れねーよ!」


 マジでうっさいんだからな! 画面が!


「それも仕事の内でしょ」

「まぁ、そうなんだけどさ」


 それに、一回一日分でお金貰ってるしな―。

 やっぱ半日コースにしようかなー。


「お! やってるな──坊主」


 あ。

 噂をすればなんとやら──いつものパイセンパーティがぬぅっと目の前に立っていた。


「お、おはようございます、ゴンズさん」

「おう。おはよう──む、料金を決めたのか」

「あら、しかも色々増えてるのね──」

「ほほう、風に土もあるのか……こりゃいい、兄貴、今日はジャイアントバットを狩りに行きやしょ!」


 ジャイアントバット。

 あぁ、オオコウモリか、確か土属性が弱点なんだっけ?


「へぇ。しかも火属性はまた上がってるのかしら?」

「あ、はい──今はLv4・・・です」


 そう。

 そしてこの熟練度Lv4だ──……これは使えば使うほど上昇するのだが、

 どうやら、ゴンズさんや誰かさんにかけっぱなし・・・・・にしていたせいか、キャシアスが寝ている間も狩りをしてもらったおかげで何もしなくても、熟練度が上がっていたのだ。


 こればっかりは自分の魔法がちょっと怖いくらい。


「ふんふん……Lv4の火属性か。ファイヤースピア級ね。いいわ、今日はこれ・・にしましょう」

「え? 姉御、土属性のほうがいいんじゃ?」

「無理よ。ゴンズのスピードじゃ、まだジャイアントバットに追いつけないわ──アンタの短刀につけてもLv1程度の土属性じゃまだあれは狩れないわよ」


 適格にパーティメンバーの能力を見極めているお姉さん。

 どうやら彼女がこのパーティのブレインらしい。


「じゃ、じゃあ。今日は【ファイヤーエンチャント(Lv4)】でいいですか?」

「ええ、お願い──ほら、ゴンズ」


「おうよ」


 いつものごっついダンビラを差し出すゴンズさん。

 その刀身に少し触れて、体内の魔力を探って────……ファイヤーエンチャント(Lv4)!



  ゴォゴォゴォ!!



「うお! こりゃ、すげぇ!」

「ひぇぇ、本当にファイヤースピア級だ。やるじゃねーか、坊主」


 えへへ。


「うふふ。これならオークの上位種も狩れそうね」

「だな──おい、いくらだ」


 あ、そうだ。

 お代お代──。


「え、えっと、銅貨40枚になります……」


 チラリ。

 ちょっと不安げにゴンズさんの顔を見るキャシアス──値段、大丈夫かな?


「…………まぁまぁだな」


 ニカッ!


 そう笑うと、懐から、銀貨を一枚。


「ほれ。釣りはとっとけ!」

「え! いいんですか!」


「なーに、銅貨40枚でも安いくらいよー」


 がっはっは!


 そう笑うと、上機嫌でギルドから出て行くゴンズさんたち。

 なぜか、お姉さんは投げキッスしてくれた。


「……それ、私にもちょうだいよー」


 やだよ。


「ぶー」



 そうしてこうして今日の稼ぎは銀貨2枚と銅貨30枚なりー。






────あとがき────

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『無限の付与術士』~追放されたバフ魔法使い、無限の魔力で世界最強に~ LA軍@呪具師(250万部)アニメ化決定 @laguun

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