第9話「初(?)売り上げ」

「ふー。つかれた」


 ゴキゴキゴキ。

 腰に手を当ててトントントン。


 はー。同じ姿勢で草刈りをしていたのでだいぶ腰にきたわ。

 これで銅貨5枚だから、なかなかの重労働だ。


「まぁ、ギリギリ宿に泊まれるだけの額だね」

「ご苦労さん」


 今日の草刈りを頼んできたおじいさんにお茶を御馳走してもらって、キャシアスはギルドに戻るのであった。

 そうして、報酬を受け取り、酒場で遅めの昼食を食べていると────。



   バタバタバタ、ドターン!!



「びくぅ!」


 思わず口に出すほどビックリ!

 何事かと思えば、凄まじい形相をした先輩パイセンたちが!


「あぁ、いやがったガキ!」

「ひぇ?!」


 な、なになに?

 僕なにかした?


「てめぇぇぇ……!」


  ズンズンズン!


 近づくなり、凄い顔で凄んでくるゴンズ先輩。

 え、えっと、僕今日死ぬ?



  バシーン!



「いだぁ!」

「がははははははははは! やるじゃねーか、ガキ。いやぁ坊主」


 ぃ、いってぇー。

 な、なんなの? それにガキも坊主もあんまし変わらないようなー。


 って、

「…………え? や、やるじゃないかって──?」

「おーよ、これよこれ!!」


 シュラン!!


  突如眼前と引き抜かれたダンビラから発せられる魔法の炎。



 ──ゴーゴーゴー!!



「わぁ、まだ燃えてる」

「おーよ。おっどろいたぜー! まじでファイヤーランス火属性魔法Lv3並みの効果があるじゃねーか! しかも半日たってもこのありさまよぉ!」


 ガッハッハ!

 バシンバシン。


「ごへ。げほ! そ、そうですか? それはよかった……」

「ちょっとゴンズ。近すぎるし、きちんと御礼と謝罪しなさいよ」


 色っぽくて綺麗なお姉さんのパイセン冒険者が優しく諭してくれる。


「おっとそうだったな。ほれ。代金だ」


 ──チャリン♪


「え? わ!」


 ぎ、銀貨が3枚?!


「いやー。びびった。びびった。今までどうやっても苦戦してたオークがバッタバタのギッタギタよー」

「兄貴、張り切ってましたもんねー」

「あれは調子に乗ってるっていうの。まったく、100倍の銀貨で払っても黒字ねー」


 がっはっは!


「いや、気に入ったぜ坊主──明日も頼むぜぇ。……あ、もちろん銅貨3──」


 ばしんっ!


「やめときなって! こりゃ、銅貨3枚じゃ安すぎるって」

「え?」

「へへ、悪く思うなよ、坊主──。兄貴と姉御で相談してよー。ある程度の適正価格ってのを帰り道で考えてたんだよ」


 え?

 て、適正価格?


「そうさ。お前さんは銅貨3枚でいいって言ってたが、半日ずっともつファイヤーランス火魔法Lv3並みの攻撃付与なんて、普通の効果じゃねーよ? 魔道具でそれを得ようと思えば、金貨100枚でも買えねぇ代物しろもんよ。……まぁ、一日程度しか持たないんじゃあれだが──それでも、さすがに銅貨3枚じゃ安すぎる」


「えっと、僕は別にそれでも……」

 だって無限の魔力だし。

「ちっちっち。坊や、甘いわよ。適正なものには適正な報酬が必要なの」

「そういうこった。安すぎると怪しまれるし、客ってのもロクのが集まんねーぞぉ?」


「──あ」


 ……たしかに、そういった話は聞いたことがある。

 家で受けた数々の教育では、商売のというものがあると習った。


 例えば貴族向けの価格帯には、当然貴族しか集まらないし、

 庶民向けの価格帯なら庶民が集まる。


 逆に貴族向けの店を庶民の価格帯にすればどうなるだろう?

 ……おそらく、庶民は利用しても貴族が利用することはなくなるだろう。そうして、いずれは庶民向けの店になってしまうのだ。


 それが悪いとは思わないが、おそらくその店では二度と貴族向けの商売はできなくなる──。


「な、なるほどー」

「そうそう。だからまぁ、もう少し取ったほうがいいぞ? 少なくとも一律の価格ってのはマズイな」

「えぇ、今朝けさ言ってたでしょ? 水属性も使えるって。なら属性やLv帯に合わせた価格にしたほうがいいわねー」


 なるほどなるほど。


「わかってきたみたいだな? ま、そういうこった。細かいことはあの嬢ちゃんと決めなー」


 あの嬢ちゃん?

 あ……。


「にや~り」


 おっふ。……カティアだ。

 いつの間にいたのか、あの目はたかる・・・気満々の目だし……。銀貨を受け取った時からあそこにいやがったな。


「がっはっは。そういうこった。それじゃーなー。また明日もやるなら頼むぜー」

「あ、はい!」


 豪快に、そして機嫌よさ気に笑って去っていくパイセンパーティ。

 ……やっぱり、いい人だった。


「うっふふふー。見てたわよ~」

 はいはい。

「──君はいい人じゃないかもねー」


 少なくとも、これから奢らされる以上、評価を改めねばなるまい。


「まーまー。旦那ぁ、そういわずに一杯やりましょうや」

「何のキャラだよ、それ。……はー、でも君の発案だしなー」


 ジュースくらいならいいでしょ。


「そーそー。あ、ピザ5枚と、リンゴジュースを樽でー」

「うん。悪い人確定だね」


 結局奢らされました。

 そして──、



※ ※ ※



 もぐもぐもぐ。


「──ほへへ、はんはっへ?」

「食べながら喋らないでよ」

「ほまはいはー」


 いや、細かくないよ……。


「ごくん。──で、それでなんだって?」

「あー。そこから?」


 聞いてたんちゃうんかーい。


「いや、お金しか見てなかったし──」

「うん。君がどういう人間かだんだん分かってきた」


 あと、ピザをゴクンて、Lサイズやぞそれ。


「うるさいなー。……アンタも安値で女衒に売り飛ばされそうになったらお金のありがたみがわかるわよ」

「はいはい」


 すーぐ、不幸自慢するんだから──。


「で?」

「うん。パイセンたちのアドバイス──銅貨3枚じゃ安すぎるってさ」

「そうー?」


 シュラン──ゴーゴーゴー。


「……そんなもんじゃない?」

「そんなもん言うなや」


 つーか、君、銅貨2枚しか払ってないからね。

 そして無限の魔力があるから燃えてるけど──普通は秒で消えるんだよ? それ、火属性Lv3のエンチャントだから、本当はもっと消費激しいんやで?


「あと、剣しまえ」

「ふぁーい」パクッ。


 ──いや、パクッって……。

 おまえ何枚食うねん。


「ふーん? じゃー、銀貨にするぅ」

「うーん。それは取りすぎな気もするんだよなー」


 実際、キャシアスはなんの消費もないわけだし……。

 でもパイセンの話を聞くにそれはそれでまずそうだ。


 それにちょっと考えたんだけど、下手をすると同業者の恨みを買うかもしれない。


 付与術士は少ないとはいえ、多少いるにはいるんだし、

 それ以外にも、魔道具を扱う業者さんにも睨まれそう。


「あー。それはありそうね」

「だろ? 少なくとも、君は魔剣を買わないよね?」

「買わない」

 だよね。

こっち・・・のが安いし」


  シュラン──ゴーゴーゴー。


 ……だから、しまえって。


「なので、適正な価格帯として、銅貨3枚以上で銅貨4枚くらいかなーって」


 いくらなんでも銀貨は取りすぎ。

 でも銅貨3枚は安すぎるって言われたし──なので中間。問題は値段を一律にするかどうかだ。


「ふーん。でも、安値で売ってちゃ、客層が悪くなるんでしょ?」

「まーね」


 そこなんだよなー。

 パイセンにも言われたけど、安値だと総じて柄も悪くなる。無料にしたら最悪だろう。


「じゃ、決まり! 倍々にしましょ」

「倍々?……あー。Lv毎に増加するみたいな?」

「そ。わかりやすいでしょ?」


 なるほど。


「Lv1のエンチャントなら、銅貨4枚……。Lv2なら倍の8枚、次は16枚か……。うん、いいかも」

「でしょ。あと、Lv1は銅貨5枚にしましょうよ」


 えー。

 高くない?


 Lv2で銅貨10枚、Lv3で銅貨20枚になるよ?


「ノンノン。全然安いわ。それ一回でゴブリン一匹が楽勝に狩れるのよ。銅貨5枚でも十分に元が取れるわよ」

「うーん」

 そうかなー?

「……それに計算しやすいし」


 そこかい。

 まー、カティアはアホの子だしなー。


 ──べシン!


「あいたッ!」

「だれがアホよ!」

「い、言ってないよ」


 ……心で思ったけど。


「アンタ、顔に出やすいの!」

「どんな顔だよ……。でも、まぁわかった」


 銅貨5枚からのスタートにしよう。


「うんうん。わかりやすさ第一よ。それに、エンチャントがあるだけで狩り効率がグンと上がるんだし、誰も文句言わないわよー」

「そうかなー」


 自分は動いてないから、なーんかピンハネしてるみたいでちょっと気おくれすんだよなー。


「なーに言ってんの。実際、今日だけで銀貨3枚と銅貨3枚稼いでるじゃん」

「銀貨3枚と銅貨2枚ね。あと、カティアもちゃんと払ってよ」

「やーよ」


 なんでだよ。


「友達価格でしょ!」

「と、友達?」


 ……え?

 そうなん?


「じとー」

「うっ、わ、わかったよ」


 と、友達かー。

 でへへ。


「……ははーん、アンタ今まで友達いなかったわね」

「ぎく」

「ぷぷー! いいとこのお坊ちゃんっぽいしねー。うーりうり、なーに照れてんのよ」

「照れてないよ!」


 あと、友達の一人や二人くらい…………いたっけ?


「くすくす。かーわいいの!」


 ぷにっ。


「か!」


 かわいい?!


「僕、男だぞ!」

「私、女だよ」


 知ってるよ!

 くそー。揶揄からかわれてるよな、これ──。


「ま、まぁ、いいよ。じゃあ、カティアは半額ね」

「うん! よろしくー。……あれ? 銅貨5枚の半額っていくら?」

「2.5枚」


 割り切れないから、切り上げだね。


「じゃー2枚でいいわね」

「なんでだよ!」


 しれっと切り捨てるなよ、もー。

 いいけどさー。


 と、友達だし……。


「──チョロ」

「なんか言ったー?」

「べっつにー。クスクス。……でも、よかったわね。これでアンタも食べていけそうじゃん」

「う、うん。たしかに何とかなりそうな気がしてきた」

「でしょー! なので、すみませ~ん、追加おねがいしま~す」


「なんでやねん!」


 いや、何をしれっと追加しとんねん!

 しかも、さりげなくキャシアスの伝票につけてるし──。


「いいじゃん、これからがっぽり稼げるんだし」

「稼ぐのは僕だよ!」


「発案は私じゃーん」


 ぐむ。

 そ、それは確かに……。


「でしょ? じゃーピザの5枚や6枚でうじうじ言わないのー。あと、パスタもいい?」


 うん、5枚じゃなくて10枚以上食ってるからね。

 ……つーか、パスタもて──どんだけ食うねん。


「うるさいわねー。冒険のあとはお腹がすくの!」


 そういって残ったピザを二口でぺろり。


「……はぁ、わかったよ。もう好きにしてくれ」

「えへへ。話せるじゃーん」


 うざっ。


 気安く肩を組んでくるカティアに、ジト目のキャシアス。

 でもまぁ、悪い気分じゃない。


 実際、展望が開けたのは間違いないし──それに、追加注文がてら、さっきから数件「俺も明日お願いしていいか?」という打診があったのだ。

 どうやら、パイセンの活躍を目にしていた冒険者が多いのだろう。


 まぁ、あれだけオークを狩ってきたらなー。


 一頭でだいたい銀貨3枚程度で引き取ってくれるオークが5体だ。

 そのほかにもモンスター素材に討伐証明多数。……聞けば今日一番の狩り高なんだって。


 すごいよなー。


 それで銀貨3枚をポンとくれるなんて。

 先日まで無一文だったのが嘘みたいだ──……。



  ドンッ!!



「はーい。ピザとパスタの追加お待ちどうさまー」

「え? あれ? メ、メリッサさん?」


 突然山盛りのパスタが置かれたかと思えば、堅い笑顔を浮かべたメリッサさんがそこに──な、なんか目が笑ってないような……。


「どうしたのメリッサさーん? あ、まさか、ウェイトレスに転職ぅ────って、あいだだだだだ」

「いだだだだだ!──み、耳! 耳ぃ!」


 いやいや、なになに?!

 揶揄からかい口調のカティアはともかく、なんで僕までー?!


「いいからいいから~」


 いやいや、よくないよくないよー!


「そ、そうよ! まだ食べてるのにー!」


 バカ、そっちじゃねーよ!──つーか、メリッサさん力強ッ!


「職員は最低でもCクラス相当ですので」

「「つっよ!!」」


 ちなみに、


「私はBクラス相当ですねぇぇぇ。おほほほほ」

「「こ、こわーい!」」


 なんか知らんけど、これから起こることも併せて怖ーい!!


 ──だれかヘルプミー!


 しかし、我関せずとばかりに、酒場に残る冒険者は一斉に視線を背けるのであった。


「「いーやー!!」」



  ずーるずる。



 そうしてこうして静かに絶叫するキャシアスとカティアは飯もそうそうに、ギルドの奥へと引きずり込まれていくのであった。



 そして──。

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